資産価値より命守って 世田谷区が水害を検証
2019年10月の台風19号では、東京都内でも下水道に集まった水があふれ出す内水氾濫や河川からの越水が起こり、多くの被害が発生した。都の集計によると、世田谷区の床上浸水は372件で全体の5割弱を占めた。世田谷区は7月、被害の検証結果と区の取り組みを伝える住民説明会を開催し、水害発生を再現するシミュレーション動画を公開。静止画のハザードマップからは分からない洪水発生の過程が明らかになった。
午後1:00 平時は2メートル程度の多摩川の水位が氾濫注意水位の6メートルを超える
2:45 世田谷区が警戒レベル3の「避難準備」発令
3:00 大田区との境界付近の低地で浸水が発生
3:40 警戒レベル4の「避難勧告」発令
4:00 多摩川、氾濫危険水位の8.4メートルを超える
5:30 水門(玉川排水樋管)に向かって住宅街を流れる谷沢川が越水
7:30 多摩川からの逆流が始まるタイミングで水門を全閉
多くの地域で「避難指示」発令、浸水が一気に広がる
10:20 二子玉川駅西側の無堤防地帯から多摩川が越水
10:30 多摩川、10.81メートルの最高水位を観測

水害の要因と対策
内水氾濫が発生する要因の一つは、排水が向かう河川の水位が上がって、水が滞留し始めることだ。河川水位が排水水位より高くなると逆流が起こり、市街地に水が入ってくるため水門を閉じなければならない。水害の当日、世田谷区の1時間あたりの降水量は午後2時がピークで31ミリ。東京都は50ミリを基準に対応できる浸水対策を進めているが、実際は状況によって異なる。被害の多くは工事未完了の場所で発生した。
水門を閉める操作は、現場で区の職員が目視で判断して行う。閉めると市街地からの排水がさらに滞るので、ギリギリまで待ち、逆流が始まったらすぐに閉める判断を下す。台風19号の際には、停電や道路の冠水で区の職員がたどり着けない水門があった。対応策として区は今年、安全な待機場所を確保し、水門に近づかなくても開閉できる操作盤を設置した。水門封鎖などの情報は最初に区のホームページで発信される。前回はアクセス集中でダウンしてしまったサーバーを増強し、隣接する大田区との情報共有も強化する。

水門近くに滞留した排水は、逆流が起こるまでは排水ポンプで多摩川に流すしかない。玉川排水樋管では東京都の排水ポンプ車が稼働していたが、周辺道路が冠水しはじめたため引き揚げた経緯があった。
国土交通省によると、水深が車両の床面を超えたら走行できなくなる可能性があり、ドアの高さの半分を超えると内側から開けることもできなくなるので注意が必要だ。

住民説明会
区は5月、多摩川が氾濫した場合の浸水深を示す表示板65枚を住宅街に掲げた。住民説明会の質疑応答で住民側から「資産価値に影響する」と抗議する声が上がったが、区の担当者は「ハザードマップなどのシミュレーション通りに災害は起こる。命を守ることが一番大切です」と答えた。

(写真映像部 小園 雅之、映像編集 金谷亮介)

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