ツネイシと三井、連携強化で生き残り 地元は影響注視

ツネイシホールディングス(HD、広島県福山市)傘下の常石造船(同)は同じ瀬戸内地方に工場を持つ三井E&S造船(東京・中央)に出資する協議に入った。2018年から部品の共同調達などで業務提携していた。中国や韓国の造船大手との受注競争が激しくなる中、連携を強化し、経営体質の改善を狙う。
両社はこれまでも設計技術の供与、研究開発などで提携していたが、資本を入れることで協力の範囲を広げてスピードを早めることを狙う。中・小型のばら積み船などの共同受注も検討する。20年12月をメドに最終契約を結び、21年10月の出資完了を目指す。
ツネイシHDの造船事業は常石造船が柱で、19年12月期の売上高は前年比8%増の1646億円。従来ばら積み船を得意としていたが、近年はタンカーやコンテナ船など船種を広げてきた。いち早く海外生産に注力、1994年からフィリピン、03年から中国で造船所を運営する。現在の生産能力は常石工場(福山市)が2割、海外の2工場がそれぞれ4割だ。
海外に工場を持つ常石は国内の相場に比べて安い船価で受注できるが、それでも中国勢と同等の価格競争力を持つには至らないという。強化される環境規制を背景に、燃費の良さなど性能を売りにして生き残りを図っている。
三井E&Sホールディングスは1917年、岡山県児島郡日比町(現・玉野市)に旧三井物産造船部として創業したのがルーツ。現在も同市内に造船子会社、三井E&S造船の工場を置く。
2年前の業務提携では三井側が受注した船を常石の海外工場で建造する構想もあったが、まだ実現していない。今回の資本提携を機に生産能力の共用も一段と進める可能性がある。
国内の造船大手は安い船価を武器にする中韓勢との受注競争で収益が悪化している。厳しい船価でも造船所の稼働を維持し地域の経済を守るため、受注せざるを得ない局面もある。
「いずれは資本提携に発展すると想像していた。驚きはない」。冷静に受け止めるのは、愛媛の中堅造船会社の幹部だ。コロナ下で受注環境が厳しいだけに「大きな会社ほどダメージも大きい。提携拡大のスケジュールが早まったのではないか」と指摘する。
大阪市に本社を置くサノヤス造船の上田孝社長は「グローバル競争が激しくなる中で、造船各社は戦略を見直す時期に差しかかった。当社も人ごとではない」としている。

瀬戸内など西日本は国内の造船業の中心地。愛媛県には建造量で国内首位の今治造船の本社があるほか、2位のジャパンマリンユナイテッド(JMU)も広島県呉市に主力事業所を置く。
造船は自動車や家電に比べて部品点数が多く裾野の広い産業だ。船舶用エンジンではヤンマーグループ、ボイラーの三浦工業、船舶用塗料の中国塗料など、関連産業がこれほどそろうのは世界でも北欧くらいだ。
一方、労働集約型で地域の雇用を支えてきた。JMUが2021年での新造船からの撤退を決めた舞鶴市では、地元の商工会議所が「市経済にとって最悪の事態」との声明を出した。
新造船の受注環境が厳しい中、業界の合従連衡は加速する見通しだ。西日本でも造船所の再編が進む可能性がある。関連企業も地域の経済界も、各社の動きを注視している。
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