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詳細なラグビーW杯分析書 労作、スポーツ界の資産に

2020/8/3 3:00
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昨年のラグビーW杯では3つのファンの力が合わさって満員のスタジアムが生まれた

昨年のラグビーW杯では3つのファンの力が合わさって満員のスタジアムが生まれた

2019年のラグビーワールドカップ(W杯)の「大会成果分析レポート」を、大手会計事務所のアーンスト・アンド・ヤング(EY)がまとめた。スタジアムが満員になった理由や「にわかファン」の特徴など、国内では珍しいほどの詳細な内容。その中には今後のラグビー界やスポーツ界へのヒントもちりばめられている。

昨年11月のW杯閉幕後、EYは国内外のチケット購入者約10万人らを対象に、大規模なアンケートを実施。大会組織委員会などがまとめた40件以上のデータなどと併せて分析を行った。

■ラグビー、客席を埋めるハードル高く

「大きなチャレンジを伴う目標であった」――。リポートではまず、日本大会の客席を埋める難しさを指摘している。根拠は従来のラグビー市場との比較である。

W杯のチケット販売数184万人分に対し、トップリーグ(TL)の年間観戦者数は45万~50万人にすぎない。その3倍以上の観客を1カ月半の会期中に集める必要があった。おまけにチケットの単価も段違い。TL(18年度)は1400円だが、W杯はその15倍の2万1000円に達した。02年のサッカーW杯日韓大会ではハードルがずっと低かった。当時のJリーグの年間観客数は573万人。W杯では4分の1の144万人を集めればよかった。

難しい課題をクリアできた理由は、3つの原動力だったという。1つは熱心なコアファン。発売当初からチケットを積極的に購入し、その比率は全体の46%に達した。そのうち推定で7ポイント分は家族や友人ら「非コアファン」を招くために使われた。海外ファンも1人平均6.4枚ものチケットを買って来日。最後はチケットの品薄感や日本の活躍に刺激を受けた非コアファンも加わり、3つのファンの力の合成で満員のスタジアムが生まれた。

リポートでは全国的な話題になった「にわかファン」も詳細に分析している。ラグビーを過去に見たことがないか、何度か見たことがある程度の人を「非コアファン」と定義。W杯を見た理由などを尋ねた。

国内に住む8万人に尋ねたところ、テレビなどで今大会を一度でも見た人は52%だった。国民の過半数が人気競技とはいえなかったラグビーの試合を見たことになる。

そのうち非コアファンは75%を占めたうえ、観戦時間も平均で5.9時間に達した。10時間以上観戦した人も23%いる。1試合の中継時間は約2時間だから日本戦5試合だけでなく海外勢同士の対戦を見た人も多いのだろう。

ラグビーW杯決勝戦のパブリックビューイング会場で盛り上がるファン(京都市左京区の下鴨神社)

ラグビーW杯決勝戦のパブリックビューイング会場で盛り上がるファン(京都市左京区の下鴨神社)

リポートでは「『にわかファン』は決して一様でなく、スポーツ観戦歴や観戦動機が異なるさまざまな人々で構成されていた」と指摘。アンケートをもとに非コアファンを次の5種類に分けた。(1)日本代表応援型(30%)(2)スポーツ愛好型(17%)(3)W杯堪能型(7%)(4)ソーシャル交流型(W杯の話題を振りまきながら盛り上がった人=17%)(5)トレンドフォロワー型(周囲の影響を受けて観戦した人=29%)である。

「最も大きな成果」としては、ラグビーをほとんど知らなくても長時間観戦して大会を楽しんだ「W杯堪能型」の誕生を強調。「観戦満足度の高さ、そして今後のラグビー観戦意欲の高さは、このタイプの非コアファンが今後コアなラグビーファンへと成長していく可能性を示していると考えることができるのではないでしょうか」と解説している。「スポーツ愛好型」も同様に今後の日本代表戦やTLを観戦したいという意向が高かった。

ラグビーW杯日本大会組織委員会で事務総長を務めた嶋津昭氏

ラグビーW杯日本大会組織委員会で事務総長を務めた嶋津昭氏

充実した内容のリポートができた背景にも、大会の盛り上がりがあった。「この大会はsomething special(何か特別なもの)だった」――。国際統括団体ワールドラグビーのメンバーが離日前、口々に話していたのがこの言葉だったと組織委の元企画局長、内田南氏は話す。

盛り上がりは大会中から様々な数字で裏付けられていたが、「大量のデータが残っているのできちんと分析してリポートとして残したいという声がワールドラグビーや組織委の中であった」とEYジャパンのスポーツ&メガイベントパートナーでもある内田氏は話す。

ただ、国内でも珍しいリポートのうえ、経済効果のようにはっきりとした指標がないため、作成には苦労したという。データがそろってから分析に掛けた時間は4カ月ほど。「(現象を説明する)モデルをつくって分析して確かめるということを何度もグルグルと繰り返した」。中心メンバーだったEYジャパンの松浦義正カスタマーディレクターは話す。没になったデータも山ほどあるそう。

オンラインイベントでリポートについて説明するEYジャパンの松浦義正カスタマーディレクター

オンラインイベントでリポートについて説明するEYジャパンの松浦義正カスタマーディレクター

労作は今後のラグビー界の資産になりそうだ。分析結果に加え、約10万人分のアンケートやチケットの購入者のデータなどは日本ラグビー協会が持つことになる。その活用に期待がかかる。

EYジャパンの松村直季スポーツ&メガイベントシニアパートナーは「今回、W杯を見てくれた人を定点観測していけば、にわかファンがどれだけファンとして定着したかなどを見ることができる。これまで観客でなかった人にアクセスしていくことができれば、ラグビーファン層が高齢化していくことも防げる」と話す。

松浦氏もこう提言する。「リポートには盛り込まなかったが、アンケートで今後のTLの観戦意向を尋ねた際、チームや選手に親近感を持っている人の観戦意向が断トツで高かった。こういう人たちにどうやって興味を持ち続けてもらうかが大事。データベースはできたので、今後もファンとの定期的なタッチポイントをつくったり、試合がないときでもチームや選手への親近感をつくったりするために利用してほしい」

■計画的な情報収集・分析が必要に

東京五輪など今後のスポーツイベントの開催効果を高めるうえでもデータの活用が有効になると松浦氏は言う。「データの集め方は大会前に計画しておかないと、終わってからでは難しい」。計画的な情報収集や分析の必要性を強調する。

今大会はメールアドレスが分かるチケット購入者へのアンケートは可能だったが、一緒に観戦した家族、友人への調査は難しかった。「チケットを買う人は年配の男性が多いが、今回は一緒に観戦した家族らからはデータが取れなかった」

松村氏も「本来ならGPS(全地球測位システム)によるファンの移動状況や購買情報も得たかったが、個人情報保護法の問題もあってできなかった。大会前にもアンケートをやって、大会後と比較できれば面白かった」と振り返る。

「五輪は1年延期になったのでそのあたりももう一度、考える時間ができた」と松村氏。新型コロナウイルスの感染拡大もあり、大規模なスポーツイベントの意義が問い直されている今、閉幕後にも使えるデータをどう集めるのかを検討する好機かもしれない。

(谷口誠)

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