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クラブ経営、キックオフ サラリーマンからJ3社長へ

サッカーJ3「AC長野パルセイロ」の運営会社社長に就いた渡辺淳さん

「仕事は一通り経験した。やりたいことがなくなった」。2015年初め、大手ボトラー会社に勤めていた渡辺淳さん(52)は、喪失感を感じるようになっていた。

1年半前に関連4社が統合すると、外国人経営者の下で会社の雰囲気も変わった。職場を去った同世代も少なくない。「今後の保証はない。どうすべきだろうか」。自問の日々が続いた。

そんなときに新聞で見かけたのが、Jリーグが設立したビジネス講座だった。「日本のプロスポーツ界の将来を担う経営人材を育成する」とうたう「Jリーグヒューマンキャピタル(JHC)」。自身はサッカーの競技経験はなかったものの「次の道への切符が手に入るかもしれない」と、意を決して1期生の募集に申し込んだ。

仕事を続けながら平日夜などに1年近くクラブ経営の実務を学んだ。ボランティアでアマチュアチームの運営にも関わり、経験を積んでいった。20年1月、J3となでしこリーグ2部に男女チームが所属する長野市の「AC長野パルセイロ」の運営会社に、ビジネス本部長として転職した。

パルセイロを選んだのは、赤字経営だったからだ。「あえて難しい道を選ぶ。厳しい環境は自分を育ててくれる」。そんな信条からだった。

パルセイロはJ3リーグが発足した14年にJ3に参入したものの、最近は成績や観客動員が伸び悩んでいた。渡辺さんが入る直前は月ごとの予算や営業目標すら決まっていなかった。

クラブの経営面を担う「フロント」は8人。渡辺さんは「営業」「マーケティング」「対行政」の3部門をつくって担当者の責任を明確にし、組織の基盤整備を急いだ。会長に退く前任社長の後押しもあり、3月10日には社長に就いた。

その出ばなを襲ったのが、新型コロナウイルスの危機だった。社長就任とほぼ同時に開幕するはずだったリーグは延期となり、チームとフロントの双方に重苦しい雰囲気が漂った。

「いつまで続くのか」「入場料収入が見込めない中、経営は成り立つのか」。不安は広がり、「プレーができないサッカークラブの存在意義は」と嘆く声も上がった。

こんなときこそ地域密着を貫くべきだ――。長野県は昨年10月の台風19号で、農業などを中心に約2700億円の損害を被り、新型コロナでも打撃を受けた。それでも約300以上の地元スポンサーはほとんどが取引を続けてくれ、サポーターからは観戦を待ちわびる声が寄せられる。「改めて地域に愛されるクラブにしたい」。渡辺さんはそう思いを決めた。

「スポンサーを離さないアイデアは」「無観客で収益を得る仕組みはないか」。4月下旬、在宅勤務のフロントのメンバーに宿題を出した。

地元産の野菜や果物の通販や、これまで放映がなかった女子チームの試合の有料ネット中継などがメンバーから提案され、実現にこぎ着けた。これからも地域に対して何ができるか、考え続けるつもりだ。

J3は6月27日に無観客で開幕した。今も入場制限が続く。それでも、ホーム戦でリーグ首位の動員を2回記録するなど、徐々に明るい兆しも見えてきた。

1万5千人収容のスタジアムはパルセイロの試合で満員となったことはない。「J1に昇格し、スタンドをチームカラーのオレンジで埋め尽くしたい」。クラブを支えてくれた地域や仲間と共に、いつか実現できると信じている。

文と写真 桜田優樹

Jリーグ、23クラブが赤字


 Jリーグは日本初のプロサッカーリーグとして1993年に10チームで開幕した。現在はJ3までの3部制で、56クラブ、58チームが所属する。チーム名は「地域名+愛称」が基本で、地域密着を強く打ち出している。
 運営状況はクラブごとに大きな差がある。2019年度の営業収益をみると、元スペイン代表アンドレス・イニエスタ選手らを擁するヴィッセル神戸が過去最高の114億円を計上した。一方で23クラブが赤字となった。うちJ3は9クラブに上る。
 新型コロナの影響が続く中、Jリーグはクラブへの無担保融資や、返済期日を延期する特例措置を用意するなどして、財政基盤が弱いクラブの支援を急いでいる。

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