株主価値だけじゃない 上場するESG時代の新企業たち
SDGsが変えるミライ

SDGs
2020/7/31 15:00
保存
共有
印刷
その他

株主価値を最大化しない可能性がある――。株式会社なのに、株主のために利益を稼ぐことだけに目を向けないと宣言して上場する企業が海外に出てきた。経営者に軽んじられたようにみえる株主も歓迎し、株価が上昇している。何が起きているのか。

【関連記事】
・あなたが思うSDGsの課題は 読者意識調査を実施

・SDGs、試される企業 コロナ禍でマネーの選別加速

■公益を目的にする新たな会社形態

7月2日、ニューヨーク証券取引所(NYSE)に米オンライン住宅保険のレモネードが上場した。ソフトバンクグループの出資先としても注目を集め、初値は50.06ドルと公開価格(29ドル)を7割上回った。株価はその後も70ドル前後と好調に推移している。

レモネードの目論見書にはこれまでの株式会社にはなかった文言が並ぶ。「財務結果を最大化しない場合でも、ステークホルダー(利害関係者)の最善の利益になると考える行動をとることがある」。利害関係者のためなら、利益が減ってもよいと明言しているのだ。

■掛け金の一部、慈善団体に寄付

実はレモネードは普通の株式会社ではない。米デラウェア州の法律で定められた「パブリック・ベネフィット・コーポレーション(PBC)」という特殊な会社形態をとる。株主利益だけでなく社会や環境に関連する「公益」にも責任を負うと明示した会社形態だ。その会社が貢献を目指す特定の「公益」を定め、経営陣はその公益と株主の金銭的な利益とが釣り合うように経営する義務を負う。

レモネードは自社の目指す公益を「新しいビジネスモデルや技術、非営利団体との連携を生かし、地域社会などのために慈善団体への寄付を中核にした保険商品を提供する」と定める。実際には、保険の掛け金から一定の手数料をとり、保険金支払いをした上で、余った掛け金は顧客が指定する慈善団体に寄付している。

■「倫理的に生産された食べ物を」

レモネードと同じPBCで、養鶏所運営の米バイタル・ファームズも新規上場を目指し、7月に米証券取引委員会(SEC)に証券の登録届出書を提出した。様々な利害関係者間の利益のバランスを取るために、「株主価値の最大化につながらない行動を取る可能性がある」と明記している。

バイタル・ファームズは6つの公益を掲げる。企業使命でもある「倫理的に生産された食べ物を食卓に届ける」に加え、「永続的で収益性の高い事業を構築する」「製品やサービスを通じて顧客を喜ばせる」「従業員に活力のある楽しい環境で能力を発揮してもらう」などが並ぶ。これらすべての実現に経営陣は責任を負うのだ。

仏食品大手のダノンも、フランスが2019年に法改正で設けた新たな会社形態「使命を果たす会社」を選択した(ダノンの商品が並ぶ乳製品売り場)

仏食品大手のダノンも、フランスが2019年に法改正で設けた新たな会社形態「使命を果たす会社」を選択した(ダノンの商品が並ぶ乳製品売り場)

■ダノンがめざす「使命を果たす会社」

米非営利団体のBラボによると、PBCのように公益を正式な目的に掲げる会社形態は、米国内ではデラウェア州を含め36州、米国以外ではイタリアやコロンビアなど4カ国・地域で法制化されているという。Bラボは企業の力を使って良い社会の実現を目指す団体だ。公益企業の法制化に向けた取り組みだけでなく、社会や環境への貢献度を点数化し一定以上の水準を満たす会社の認証も手掛ける。認証を取る会社の数は右肩上がりで、世界71カ国で約3500社にのぼる。

仏食品大手のダノンも、フランスが2019年に法改正で設けた新たな会社形態「使命を果たす会社」を選択した。定款に会社の目標を含め、そこに向かって経営がなされているかを独立した第三者が監督する仕組みだ。ダノンは定款に「地球自然資源を保全する」など新たに4つの目標を加えた。環境や社会、企業統治に配慮したESG投資が広がるなかで、「事業がすべての利害関係者のために行われていると示すほど、価値が生み出されて、評価されていくと確信している」とエマニュエル・ファベール会長兼最高経営責任者(CEO)はいう。

ダノンのエマニュエル・ファベール会長兼最高経営責任者(CEO)

ダノンのエマニュエル・ファベール会長兼最高経営責任者(CEO)

■「株主第一」から「社会的責任」そして

米国では、環境のために資金を使うような裁量が経営者にはあるが、その判断は最終的には株主の利益になるのでなければダメだと理解されてきた。株主利益の最大化を第一の目的とし「株主第一主義」と呼ばれた。

90年以降は、企業の社会的責任(CSR)の概念が広がり、事業の外側で社会貢献をする動きがまず広がった。食品大手のネスレ(スイス)などは社会に対しても価値を提供するCSV(共通価値の創造)経営を掲げ、株主と社会の両方に利益をもたらす事業を目指すようになった。

レモネードやダノンのケースはさらに一歩進んだものだ。法的に位置づけられ、社会や従業員など他の利害関係者の利益にも義務を持つ。従業員や取引先、地域社会などにも配慮する「ステークホルダー資本主義」の時代の新たな企業形態になる可能性を秘める。

■変わる投資家の視線

背景には株主側の変化がある。レモネードの上場の成功は「ステークホルダーを考慮した意思決定がすべての人に価値をもたらし得ると投資家が認識していることを示している」(Bラボ)。短期的には利益や配当が減ることになっても、長期には社会に信頼される企業に投資した方が利益が大きいと考える投資家が増えてきた。ESG投資の波が企業像を変えようとしている。

(ESGエディター 松本裕子)

「SDGsが変えるミライ」
BSテレビ東京では日経スペシャルとして特番『 SDGsが変えるミライ~小谷真生子の地球大調査~』を7月31日に放映、今後もシリーズ化します。それに合わせ本コーナーではSDGs関連記事をピックアップし、お届けいたします。
保存
共有
印刷
その他

関連企業・業界 日経会社情報DIGITAL

電子版トップ



SDGs 読者意識調査

ご意見の投稿と
アンケートに回答を

『SDGs関連書籍』を抽選で進呈いたします

日経・BSテレ東 番組情報

日経スペシャル
『SDGsが変えるミライ』

関連動画や、アーカイブ情報もご覧になれます

NIKKEI CHANNEL(動画)

国連が定めた「持続可能な開発目標」=SDGsについて識者が幅広く議論する

[PR]