透明板だけではない コロナからスーパー守る新技術

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スタートアップGlobe
コラム(テクノロジー)
2020/8/3 2:00
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米ウォルマートはスマホで画面のQRコードを読み取り、非接触で決済できるようにした

米ウォルマートはスマホで画面のQRコードを読み取り、非接触で決済できるようにした

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 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、スーパーの安全性を確保する新技術の開発が相次いでいる。アクリル板などのアナログ手法だけでなく、センサーや人工知能(AI)などを組み合わせた最新テクノロジーに注目が集まる。米スタートアップが特に力を入れており、客同士が距離を保ちやすい店内レイアウト最適化システム、ショッピングカートの自動消毒装置、バーチャル(仮想)お試しサービスなどが登場している。

食料品の買い物はすっかり様変わりした。新型コロナウイルスの感染予防策として、一部のスーパーは今や通路を一方通行にしたり、レジ係用にアクリル板のガードを設置したりしている。買い物客は1回に買う量を増やして食料品を備蓄し、多くはスーパーに行く回数を減らしたり、オンラインでの食料品購入を増やしたりしている。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

こうした変化には一時的にすぎないものもあれば、店に客足が戻っても残るものもあるだろう。消費者はこの数カ月で新たな買い物習慣を身に付けており、オンラインでの食料品購入は多くの消費者の買い物手段の一つとして定着する可能性が高い。そして、店で買い物する人も手早く買い物を済ませ、ソーシャルディスタンス(対人距離)を保ちたいと思うだろう。

スーパーは近い将来、安全性を高めて(人やモノとの)接触を減らすため、テクノロジーをもっと恒常的に活用するようになるだろう。

一方、新型コロナのパンデミック(世界的な大流行)で加速した他の変化も店舗でのテクノロジー活用を促す。特に、ネットスーパーの成長は今後も小売り各社の収益を脅かすだろう。つまり、薄利多売のスーパーも効率を高めるテクノロジーを追求するようになる。今回のリポートでは典型的な食料品の買い物を念頭に置きながら、コロナ後のスーパーの姿を探る。

■対人距離保つ店内レイアウト最適化

スーパーの至る所で距離を保つためのスペースを確保する必要性が高まるため、小売り各社は買い物客が店内を速やかに回れるように通路や商品の位置を変える可能性がある。例えば、米バトラー(Butlr.)は無線センサーで店内の人の動きを追跡し、消費者の動きに基づいて好みや店内での行動を把握する。各社はこのデータを活用して店のレイアウトを最適化し、レジ待ちの列を管理するほか、買い物客が店内を回る間にターゲットマーケティングを仕掛けることができる。

■ネット通販の配送スペース拡大

ネット通販の受注や発送などを担う「フルフィルメント」業務は、スーパーでさらに大きなスペースを占めるようになるだろう。

ロボットを活用する店内の受注配送センターは最大の商機といえる。これはパンデミック前から既に展開されていたが、ネットスーパーの急拡大を受けて小売り各社がネットからの受注配送で収益をさらに上げようとしており、関心は一段と高まっている。

ネットで受注した商品を自動仕分けする米テイクオフ・テクノロジーズ(TakeOff Technologies)や米アラート・イノベーション(Alert Innovation)などのテクノロジーを活用し、自動の小型受注配送センターを設ける小売りが増えるだろう。店舗の受注配送業務の拡大には、注文商品の一時保管室や受け取りカウンターなどのローテクエリアも含まれる。

■販売ツールの消毒

多くの人が触れる場所を清潔にしておくために、殺菌シートで拭くだけにとどまらない解決策が求められるようになるだろう。米サニタイズイット(Sanitizit)は洗浄液を吹き付けてショッピングカートを殺菌する機械を開発した。利用者がカートを押してトンネル型の機械を通り抜けたり、従業員がホース状の器具で買い物かごなどを消毒したりできる。

一方、米アマゾン・ドット・コムは、通路を通りながら冷蔵庫のドアなど多くの人が触れる場所に紫外線を照射し、ウイルスを死滅させるロボットを開発したとされる。このロボットはアマゾン傘下の米食品スーパー、ホールフーズ・マーケットやアマゾンの倉庫で使われるとみられる。

■より合理的な品ぞろえ

小売り各社は今後も客足の動向が読めず、販売スペースも縮小するため、最も売れ筋の商品を棚に置くことを優先させる可能性がある。買い物客のニーズは激しく変化しており、さらに高度な需要計画や予測が必要になるだろう。これは買い物客がある商品をどこで(店舗かネットか)買おうとするのかを小売りや消費財メーカーがもっとよく理解し、それに応じて在庫を移す必要があるという意味にもなる。

小売りは店舗レベルでの需要を可視化し、流通計画の策定を支援する米ユニオンクレート(Unioncrate)のような企業を活用してもよいだろう。一方、フィンランドのリレックス(Relex)のソフトウエアを使えば、AIで在庫管理を最適化し、店舗とオンラインの商品の配分を把握できる。

■極力触らずにできる商品棚の管理

陳列棚の管理など店内のタスクを自動化するテクノロジーを活用すれば、店員が店内で過ごし、買い物客と接触する時間を最小限に減らすことができる。

棚にカメラを設置する米フォーカル・システムズ(Focal Systems)や、自律飛行式ドローン(小型無人機)の米ペンサシステムズ(Pensa Systems)などのスタートアップは、陳列棚の在庫をリアルタイムで確認できるようにしてくれる。米シンベ(Simbe)の在庫追跡ロボットも商品の配置や価格設定を記録できる。米ブレインコープ(Brain Corp)は自社のAI技術を米ウォルマートの店舗の床を掃除する2000台近くのロボットに提供している。

一方、米アドロイト・ワールドワイド・メディア(Adroit Worldwide Media)が手掛ける陳列棚板の前面にディスプレーが付いた「スマートシェルフ」は、電子制御で様々な機能を果たせる。例えば、従業員は棚板前面のディスプレーに表示する商品の価格を遠隔で変更できる。ディスプレーにはブランドイメージを表示する機能もある。これは宣伝に使えるほか、商品を棚の適切な場所に保つ効果もある。電子機器を使ったブランディングが増えれば、従業員が店内のマーチャンダイジング(商品政策)策定に費やす時間も減らせる。

■バーチャルでのお試し機会提供

接触を減らし、店の主要エリアでの購入(コンバージョン)を増やすため、小売り各社はバーチャルでのお試しサービスや拡張現実(AR)画面といった技術に引き続き資金を投じるだろう。

例えば、美容分野ではバーチャルお試しサービスを使うことで、スーパーなど美容製品の販売先に双方向性を加えることができる。

米ベンゴー(Vengo)は今春、完全非接触の試供品配布機を投入した。買い物客は店内でこの機械を見つけると、スマートフォンを使ってアクセスする。買い物客がスマホでブランドに関する情報を閲覧した後に、機械は試供品を配布する。

同様に、小売り各社はヘアケア用品小売りの米サリービューティーが店内の端末「カラービュー」で活用したようなAR技術にも注目している。買い物客はカラービューを使って髪の色やメーキャップを試すことができる。

一方、デジタルスクリーンは陳列棚の魅力を高めると同時に接触も減らすことができる。米クーラースクリーンズ(Cooler Screens)は店の冷蔵庫の扉に商品や広告を表示するスマートスクリーンを手掛ける。これを使えば、買い物客はいろいろな商品に触れることなく必要な商品を選べる。同社はこのスマートスクリーンを米ドラッグストア大手ウォルグリーンズの2500店舗で試験運用している。

■遠隔からの服薬指導

薬局でのやり取りさえも素早く済ませ、接触を減らすことができる。米ウォルマートは既に、買い物客が来店前にモバイル端末で処方箋を提出し、注文した薬を速やかに受け取れる薬局版「エクスプレス・ピックアップ」サービスを提供している。

もっとも、薬の服用方法や副作用のチェックなどの疑問についての薬剤師とのやり取りは、なお店舗で直接行われることが多い。米アルトファーマシー(Alto Pharmacy)などのオンライン薬局スタートアップは、電話のほかチャットやショートメッセージ(SMS)を使って遠くからでも薬剤師とすぐに連絡をとることができる。アルトのような薬局とやり取りしている消費者は、店外からも担当薬剤師に手軽にアクセスすることを望むようになるだろう。

■非接触での精算

様々なセルフ会計やセルフ精算のテクノロジーにより、スーパーのレジ待ちの列は短くなり、利便性は増すだろう。米中西部の食品スーパー「ジャイアント・イーグル」でこうしたサービスを実証実験している米グラバンゴ(Grabango)は、柔軟性を高め、コストを削減するために各店舗のニーズに合わせたセルフ精算テクノロジーを提供している。

買い物客が自分でスマートフォンを使って商品をスキャンして精算するモバイル技術も、迅速で接触の少ない精算を可能にしている。米スキップ(Skip)は主にコンビニエンスストアと提携し、こうした「スキャン・アンド・ゴー」アプリを提供している。同社は今春、注文した品を店の前の歩道や店内のカウンターで受け取る「事前注文」システムも始めた。

小売り各社は往々にして万引きによる損失を理由に「スキャン・アンド・ゴー」技術を敬遠するが、スタートアップ各社は万引き防止策の強化に取り組んでいる。例えば、イスラエルのショピック(Shopic)はAIを使った不正検知システムにより、スマホのセルフ精算テクノロジーで万引きも捕まえようとしている。

スーパーなどの店舗のテクノロジーを強化すれば、客の多い店でもただちに安全性を高められる可能性がある。さらに、テクノロジーを活用したツールや機能を展開することで、買い物客にさらに便利で一人一人に応じた体験を提供できるようになるだろう。

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