岡田健史 初めてに挑戦する僕の強みは「知らない」
岡田健史インタビュー(上)
2018年のドラマ『中学聖日記』で鮮烈デビューを果たした岡田健史。その後も注目作への起用が続き、今年は3本の連続ドラマと5本の映画が公開予定だ。21歳になった大型新人が経験した転機と見据える未来について、ロングインタビューで語ってくれた。上下の2回に分けてお届けする。

18年10月期の連続ドラマ『中学聖日記』で、500人を超えるオーディションを勝ち抜いて俳優デビューした岡田健史。有村架純演じる主人公の相手役(黒岩晶)への抜てきと熱演が大きな話題となり、放送終了後に開設したインスタグラムのフォロワーは1日で40万人超え。一躍"時の人"となった。
19年に入ると、『フォローされたら終わり』(AbemaTV)など2本のドラマに主演し、『ドクターX~外科医・大門未知子~』にもゲスト出演。年末には、JR東日本の名物CM「JR SKISKI」に起用され、浜辺美波との共演で耳目を集めた。
今年3月には、遊川和彦監督の『弥生、三月-君を愛した30年-』でスクリーンデビュー。5月には配信ドラマ『いとしのニーナ』(FOD)に主演し、6月からはTBSドラマ『MIU404』に出演して綾野剛や星野源と渡り合うなど、破竹の勢いを見せている。
そして7月17日からスタートした主演ドラマが、『大江戸もののけ物語』(NHK BSプレミアム)だ。『帝都物語』で知られる荒俣宏が妖怪監修を務め、ドラマ『鼠、江戸を疾る』(14年、16年)や映画『愛唄-約束のナクヒト-』(19年)などを手掛けた川村泰祐監督が演出する、妖怪ファンタジー時代劇となる。岡田は、勾玉(まがたま)に触れたことから妖怪が見えるようになる侍・新海一馬役で、初の時代劇に挑んでいる。
「めちゃくちゃ好きなんですよ、時代劇。幼い頃から戦国モノのゲームをやってましたし、いつかは武将役を魅力的に演じてみたいっていう思いもありますし。だから、この作品の企画が来たときは、喜びが大きかったです。しかも僕の母親が妖怪好きで、『ゲゲゲの鬼太郎』のマンガやグッズが家にたくさんあったので、昔から妖怪のことを信じてて(笑)。現れたときはビビリながらも、次の日からは普通に妖怪に話しかけちゃう一馬のことも、すんなり受け入れることができました。
脚本を読んで感じたのは、一馬は強い人間だなって。気弱な面もあるけど、人をこんなにも信じられて、愛せるって、すごいこと。子どもたちはもちろん、男尊女卑がまかり通っていた時代に女性にも優しくて、周りの人がトラブルに巻き込まれたら、まるで自分のことのように一生懸命立ち向かっていく。そういう一馬の強さを自分のものにして、5話まで演じていきたいと思いました」
天保5年、寺子屋で読み書きを教える旗本の次男坊・新海一馬は、ある日、教え子であるお雛(平尾菜々花)の異変に気付く。お雛の後を追って朽ちたお堂にたどり着いた一馬は、そこで妖怪・天の邪鬼(本郷奏多)と遭遇。「死んだ母に会いたい」と涙するお雛の願いをかなえようと、一馬は天の邪鬼にある頼み事をする。
人間と妖怪がバディを組んで、様々な問題を解決していくユニークな時代劇。昨年12月から1月にかけての約1カ月半、東映京都撮影所で撮影した。
役をどれだけ魅力的に広げられるか

「初めての時代劇、初めての着物に、初めての刀……。イチから学び始めたので苦労しましたけど、温かい京都のスタッフの方々が、ゼロから丁寧に教えてくださいました。
僕のヘアメイクは普通15~30分で終わるんですが、今回は結髪(けっぱつ)部屋に入って1時間。その間、ケータイも触らず、ずっと鏡を見ていると、まるで江戸時代にタイムスリップしていくかのように容姿が変化して。岡田健史から一馬へと、自然と気持ちも切り替わっていきましたね。
演じる上で大事にしていたのは、『型にとらわれない』ことです。例えば江戸時代の袴は、動くと裾を踏んじゃうくらい長かったそうなんです。『だから袴を手でクッと持ち上げて走るのが当時の型だったんだよ』と所作指導の先生に教わりました。ただ、それは正しいのかもしれないけど、型通りに袴を持ってスーッと走ると、一馬がすごく硬質に見える。それを僕は柔らかくしたかったし、何かのために一生懸命走っている感じを表現したかったので、先生に『がちゃがちゃに走りたい』と提案したんです。そうしたら、『じゃあ、やってごらんなさい』と。所作指導の先生方には、もしかしたらご迷惑をかけたかもしれません。でも初めてのことに挑戦する僕の強みは、"知らない"こと。それに『大江戸もののけ物語』は、妖怪が出てくる型破りな時代劇なので、最低限のことは守りつつ、自由な発想も大切に、自分らしく新しい一馬を作りたいと思いました。
撮影では、僕がまずは演じて、それに対して川村監督が『ここは抑えて』『今度はこっちの方向で』とアドバイスをくれて、セッションしながら撮っていく感じでした。川村監督は……失礼かもしれないですけど、キュートな方でした(笑)。演出するときは『もふもふ』とか『モチモチ』とかニュアンスで伝えてくださることが多くて、『ここでこういうふうに驚いてくれ』と一馬のマネをされたときもかわいかったです(笑)。指導を受けながら、監督の中にはすでに世界観が出来上がっていると感じましたが、その世界観に収まるだけではなく、枠を少しでも膨らませられるように、『こういう方向性もありますよね?』『こういうアイデアはどうですか』と、ずっと監督に提示を続ける日々でした。
主演の意識ですか? うーん、僕はいただいた役をどれだけ魅力的に広げられるかをやりがい、というか目標にしているので、『主演だから』ってことは、あまり考えてなかったです。ただ、一馬は妖怪やお雛、父上、母上といった登場人物たちを成立させる、物語の真ん中にいる存在。そういう立ち位置だとは認識していました」
「この作品は特殊メイクのレベルがめちゃくちゃ高くて、妖怪たちもCGじゃなく、ほとんどが特殊メイクなんです。その特殊メイク班に、僕より1つか2つ上のお兄さんがいたんですけど、その方と話をした時に、どれだけの思いがこの特殊メイクの中に注ぎ込まれているかが分かって、負けてらんないなと思いましたね。『ここまでやった。あとはお前たち次第だよ』って言われてるような気がして、僕ら俳優部がもっと色を付け、肉を付けないといけないなと。そういった意味では、作品を背負うという意識はあったかもしれません。
完成した全5話には、人情、友情、恋愛、師弟関係と、いろんな要素が詰め込まれています。絶対にどれかが心に響くと思いますし、もっと言えば、僕が見えていない魅力もあると思うので、早く放送日を迎えて、みなさんがどう思ったのか、反響の声を聞きたいです。僕としては、『一馬は強いね』って言われたら、すごくうれしいです」
いつか「いい役者になったね」と言ってもらえるように
8月は『大江戸もののけ物語』のほかにもう1作、TBSの『MIU404』が放送中。初動捜査で犯人逮捕を目指す、警視庁刑事部第4機動捜査隊を描いたドラマで、脚本は『逃げるは恥だが役に立つ』(16年)や『アンナチュラル』(18年)の野木亜紀子によるオリジナルだ。岡田は、刑事局長の息子の新人隊員・九重世人を演じている。
「九重は説明ゼリフが多いんです。その裏に九重自身の心情を乗せていかなきゃいけないので、難しくて試練の日々です。それに野木さんの脚本って、テンポ良く正確に球を投げないと、セリフの意味が変わってくるんですよ。投げるべき球をポンポン投げながらも魅力的に見せられる、(綾野)剛さんや(星野)源さんたちのレベルの高さを、ひしひしと感じています。
僕が特に刺激を受けているのは剛さん。本当にすごいです、あの方は。エネルギッシュで、現場で何か質問をすると、1つひとつ丁寧に答えてくださるからうれしいです。今の現場でいろんな質問をして、少しでも多くのことを吸収したいです」
『MIU404』のスタッフは、メインの演出家が塚原あゆ子監督、そして新井順子プロデューサーという、『中学聖日記』のコンビ。特に塚原氏は、『中学聖日記』のクランクイン1カ月前から直々に演技レッスンをしてもらった恩師になる。再タッグに感慨はあったのか。
「塚原さんのもとでまたお芝居ができて、ビシバシ鍛えてもらえるといううれしさはありました。ただそれ以上に、九重の性質をきちんと理解して、しっかりと投げるべき球を投げたいっていう欲のほうが圧倒的に強かったですね。誰とやるかも大事なことですが、僕はやっぱり、役のことを1番に考えてしまいます。
塚原さんとは今、現場でたくさんセッションをしています。『中学聖日記』のときは、言われたことに応えるだけで精一杯でしたが、今はある種の余裕が出てきて、『僕はこう考えてるんですけど、こんな方向はどうですか?』というふうに提案できるようになりました。やっぱり、自分の成長を塚原さんに示したいですし、気付いてもらえたらっていう気持ちはありますね。いつか『いい役者になったね』と言ってもらえるように頑張りたいです」

(ライター 泊貴洋)
[日経エンタテインメント! 2020年8月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。
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