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「作品のない展示室」 世田谷美術館の実験

展示室に入ってみると、見たことのない光景が広がっていた。通常はそこにあるはずの作品がない。何もないのだ。世田谷美術館(東京・世田谷)で開催されている企画展「作品のない展示室」(8月27日まで、入場無料)は、空っぽの展示室を公開するという画期的な試みを始めた。

新型コロナウイルスの感染拡大で、多くのミュージアムが休館を余儀なくされた。同館もそのうちの一つだ。開催を予定していた「驚異の三人!! 高松次郎・若林奮・李禹煥――版という場所で」など、予定していた企画展も中止。6月からの再開にあたり空白となったスケジュールを調整する必要があった。橋本善八学芸部長は「どうすべきか話し合う中で、『うちの財産である展示室そのものを見せたらどうか』という意見が出た。全員が、それだ!とスタートした」と話す。

世田谷美術館の「作品のない展示室」。窓の外には砧公園の緑が広がる

思い切った企画ができるのは、同館の建築と砧公園内にあるという立地が大きい。設計を手がけた内井昭蔵は「生活空間としての美術館」など、日常に溶け込む建築を目指した。円形の空間には窓が大きく広がり、その前を散歩する人が行き交う。砧公園の緑を借景にしたその風景自体が一幅の絵画だ。通常の企画展で使用される際、窓は作品の保護や鑑賞の邪魔にならないように閉められている。窓を開放し、内外が一体となった企画室からは、内井が建物に込めた思いが浮かび上がってくる。

美術品の収集、展示を使命とする美術館にとって、作品展示をしないというのは大きな決断だ。それでもこの企画展を開催したのは「コロナで大きく変わった社会の中で、ここからまた何ができるのか」(橋本学芸部長)という問いかけがあったからだ。194の展覧会を重ねてきた同館。がらんとした展示室は、もう一度、新たなスタートを切る決意表明に見えた。

(赤塚佳彦)

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