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リモートワークの感情ケア 解析システムやアプリ登場

Empathの「リモトーキー」システムはビデオ会議参加者の感情や意欲を表示する。写真は表示画面の一例(同社提供)

リモートワークの増加など勤務形態が大きく変わる中、企業にとって従業員のメンタルの状態を的確に把握することがますます重要になっています。ビデオ会議での発言パターンから参加者の感情を解析するシステムや、従業員が相互にほめあうことでモチベーションを高めるアプリなどが登場しています。

人工知能(AI)を使った音声解析のEmpath(エンパス、東京・渋谷)は、ウェブ会議中の参加者の発言の量や感情を解析するシステム「リモトーキー」を開発、4月に企業への試作版の提供を始めました。

同社は話し手の音量や抑揚などの音響データから、その人の気分や感情をリアルタイムでAI解析する技術を持ちます。リモトーキーは会議中に参加者の音声を解析。会議が終わると「活性度」「発話量」「音量」の各評価を示し、自分のメンタル状態がわかります。

今後は会議主催者が参加者の状態を把握できるようにする予定です。同社最高戦略責任者(CSO)の山崎はずむさんは「参加者の感情が沈んでいるとわかったら、管理者がすぐに気付いて声掛けできるような仕組みにしたい」と話しています。

感情解析のクラウドサービスを手がけるエモーションテック(東京・千代田)は、従業員の会社に対する信頼感や愛着度合いを調査するサービスを提供しています。世界的に使われている、従業員の組織への信頼や愛着を定量的に測定する指標「eNPS」を、ウェブアンケートなどを通じて計測。改善策をアドバイスします。

一般社団法人のピアトラスト(東京・新宿)は、企業の上司や部下、同僚がお互いの仕事ぶりを称賛しあうスマートフォンアプリの提供を始めました。「チャレンジの姿勢」「他者への思いやり」「アイデアが豊富」「ロジカル(論理的)である」「正義感」といった6種類のカードをやりとりするこのシステムは、改ざんが難しいブロックチェーン(分散型台帳)技術を使っています。

日立製作所は従業員の幸福度を計測するスマホアプリを開発。7月に事業化を目指した新会社「ハピネスプラネット」を設立しました。従業員の端末に搭載した加速度センサーで体の動きから幸福度を計測します。AIが従業員向けにその日の行動を推奨する機能もあります。

従業員の感情や満足度を測ることは、企業にとっては定着率を高めたり、従業員のモチベーションを高めたりすることを通じて業績向上にもつながります。ウィズコロナの新たな勤務形態に合わせて、AIなどハイテクを使って従業員の心の状態を探る試みに注目が集まりそうです。

山崎はずむ・Empath最高戦略責任者「感情解析、満足度向上に寄与」

音声解析のスタートアップであるEmpathは、リモート会議の参加者やコールセンターのオペレーターといった、従業員の音声から人工知能(AI)で感情を解析。職場のコミュニケーションをよくしたり、従業員の満足度を向上させたりする取り組みを進めています。同社の共同創業者で最高戦略責任者(CSO)の山崎はずむさんに、ウィズコロナの時代に感情解析に注目する理由や応用について聞きました。

――従業員の音声を解析して感情を知るという試みが、ウィズコロナ時代にどう役立つと考えていますか。

山崎はずむ・Empath最高戦略責任者(CSO)

「我々はもともとメンタルヘルスケアの分野に注目して、感情解析の技術開発を進めてきました。NTTドコモの東日本大震災復興支援プロジェクトに2013年に参加して、当時問題になっていたボランティアスタッフの支援疲れなど、メンタルの不調を検知するのに我々の技術を使ってもらったのが最初です。その後、企業でのストレスチェック実施の法制化に合わせて、従業員がスマートフォンに声を入力することで簡単に気分チェックができる『じぶん予報』というアプリを16年に出しています」

「コロナウイルス感染症の拡大で、日本企業はこれまで経験しなかった規模で、在宅勤務やリモート勤務を導入しました。これに伴って職場のメンタルの問題がいっそう前面に押し出されたと思い、これに対応する製品開発を急いでいます。ビデオ会議の参加者の発言の音声情報から感情や参加態度を評価できる『リモトーキー』という新製品を4月に出しましたが、これは約2週間という短期間で開発にこぎつけました」

「こうした音声解析によって、リモート環境でも従業員のメンタルの状態を可視化することができます。それを職場のマネジャーや上長がみて、気持ちが沈んでいる人に声をかけるなど職場のコミュニケーションに気をつかってもらいます。従業員は遠隔でも自分たちがケアされている、大事なメンバーと思ってもらえていると感じることを通じて、職場での満足度も高まると考えています。このような部分に我々の技術の社会的な意味を感じています」

――感情解析の技術はどのような仕組みで、現在はどんなところに使われていますか。

「音声の物理的な特徴量から、数万人の音声データベースをもとにAIが感情を判定します。喜び、平常、怒り、悲しみの4つの感情と元気度を知ることができます。AIの機械学習に使う音声データは、我々のシステムを利用している内外のユーザーから提供してもらい、目的別に複数のAIのアルゴリズムを開発しています」

「コールセンターでオペレーターや顧客の声を解析するシステムが代表的な導入例です。また、村田製作所が管理職と従業員など一対一の対話の状態を可視化するNAONAというプラットフォームを提供していますが、ここにも当社の技術が使われています。人と対話するロボットや、音声カーナビによる運転者の気分測定、仮想現実(VR)コンテンツ、ウェブマーケティング分野での商品リコメンドなど、様々な分野で使われています」

――音声解析システムの導入が従業員のパフォーマンス向上につながった例はありますか。

「主要な導入先であるコールセンターの職場では、電話に出ているオペレーターの声から感情をリアルタイムで感知したり、クレーム電話に長時間対応しているなど問題がありそうな状況を検知し、マネジャーがフォローできるような体制を作ることができます。数十人規模のあるコールセンターの職場では、オペレーターの出社率がそれまで約80%だったのが90%台半ばまで向上しました。コールセンターはもともと離職率が高いとされる職場ですが、この職場ではシステムを導入した昨年以降まだ離職者が出ていないとも聞いています」

「このコールセンターはオペレーターが電話をかけて商品を売るアウトバウンドコールを手がけていますが、感情解析を採用した職場での成績が約2倍になり、特に仕事の経験が浅い層で大きな改善効果がみられました。感情解析システムを活用することで従業員満足度が上がり、それがいいパフォーマンスにつながったと考えています」

――感情解析を今後どのように広げていきますか。

「変わったところでは、宇宙飛行士の感情を表現する宇宙服の開発に協力しています。ベルギーのファッション・テック・アーティストであるヤスナ・ロケゲンさんが、我々の感情解析の技術を使い、飛行士の心の状態を表面の色の変化などで表現する宇宙服のプロトタイプを米航空宇宙局(NASA)で発表しました」

「ロケゲンさんは宇宙空間で孤独な状況に置かれた飛行士の感情を地上や他の惑星にどうやって伝えられるかを考えています。私たちにとってもリモートワークは今やとっぴなものでなくなりました。宇宙飛行士ほど極限的な状況ではないものの、ウィズコロナで類似した働き方が現れつつあると考えることもできそうです」

(編集委員 吉川和輝)

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