マレーシア元首相に禁錮12年判決、政権交代汚職暴く

2020/7/28 19:52 (2020/7/29 5:11更新)
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クアラルンプール高等裁判所に入るナジブ元首相(28日)=AP

クアラルンプール高等裁判所に入るナジブ元首相(28日)=AP

【シンガポール=中野貴司】マレーシアのクアラルンプール高等裁判所(一審)は28日、政府系ファンド「1MDB」の汚職事件で起訴されたナジブ元首相に禁錮12年と2億1千万リンギ(約52億円)の罰金を科す有罪判決を言い渡した。2018年の政権交代と国際的な捜査網が元首相の資金流用を暴き、司法による断罪につながった。

ナジブ被告は09~18年の首相在任中、45億ドル(約4700億円)を超える資金が不正流出した1MDB事件に関与したとして、首相辞任後に計42の罪で起訴された。28日の判決はナジブ被告への最初の判決で、1MDBの元子会社「SRCインターナショナル」を舞台とした権力乱用や、背任、マネーロンダリング(資金洗浄)の7つの罪が対象となった。

高裁はナジブ被告側が嫌疑を晴らすのに十分な反証を提示できなかったとして、7つの起訴内容全てを有罪とした。不正に受け取ったと認定した金額の5倍の罰金支払いを命じた。

ナジブ被告が首相在任中に封印していた1MDB事件の捜査が動き出したのは、18年5月の政権交代でナジブ被告が首相を辞任し、政敵で元首相のマハティール氏が後任に就いてからだった。汚職の一掃を訴えて総選挙に勝利したマハティール氏は検察人事を刷新し、同年7月にナジブ被告の逮捕・起訴にこぎつけた。

19年4月に始まった公判で、検察側は多数の証人を呼んで、ナジブ被告によるSRCからの4200万リンギの不正流用を裏づけた。

米司法省やシンガポールの当局などが国境を越えた複雑な資金の流れを裏づける捜査に協力したことも、真相解明を後押しした。マレーシア政府は24日、1MDBの巨額の資金調達を取り仕切った米金融大手ゴールドマン・サックスから39億ドルの支払いを受けることで同社と合意し、和解した。有罪判決と和解は、責任追及と不正流出した資産回収の着実な進展を印象づけた。

マハティール氏の辞任後、同氏から離反したムヒディン氏がナジブ被告らと組んで3月に首相に就任したことで、判決への影響を懸念する声もあった。

5月にはナジブ被告の義理の息子、リザ・アジズ被告に対する1MDB関連の起訴が取り下げられていた。ムヒディン氏は起訴取り下げへの関与を否定したものの、人事などを通じた司法への圧力が強まると指摘されていた。

判決の政局への影響ではムヒディン氏への恩恵が大きいとの見方がある。議会の過半数の支持を辛うじて確保するムヒディン氏は、ナジブ被告が属する与党連合の中核政党、統一マレー国民組織(UMNO)に頼らざるをえない。

ナジブ被告が無罪判決を受け、政権内での影響力が増せば首相交代を迫られるリスクがあった。ムヒディン氏にとって28日の有罪判決は、三権分立が機能していることを国内外に示すとともに、ナジブ被告の表舞台への復帰を阻む利点があるからだ。

有罪判決によって、ナジブ被告の影響力が実際に衰えるかは不透明だ。豪タスマニア大学アジア研究所ディレクターのジェームズ・チン氏は「元首相の権力乱用を初めて認めた今回の判決は歴史的だ」と評価する。ナジブ被告側の主張が明確に否定されたことで、残りの35の罪の公判もナジブ被告にとって厳しい内容になると予想する。

ただ、ナジブ被告は控訴し、今後も徹底抗戦を続ける方針で、最高裁判所で決着がつくまでには数年がかかる見通しだ。それまでに解散・総選挙が実施され、議席を増やしたUMNOが政権の主導権を握れば、ナジブ被告の事実上の復権が進む可能性がある。

ナジブ被告側は判決確定までの時間をできるだけ延ばし、事件の風化を待ちながら、政権内での影響力も高め司法に圧力をかけることを狙っている。今後の政治情勢によって一審判決が覆されるリスクは残り、1MDB事件の最終決着の行方はなお見通せない。

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