ベトナム、3カ月ぶり市中感染 対中国境の管理強化

【ハノイ=大西智也】ベトナムが中国などとの国境管理を強化する。25日に中部の観光都市ダナンで約3カ月ぶりとなる国内での新型コロナウイルスの市中感染が確認されたため。感染経路は不明だが、不法に入国した中国人が見つかっており、政府は危機感を強めている。
「国境の管理を厳格化する必要がある」。フック首相は25日の政府会合で危機感をあらわにした。国防省に対して公安省などと連携しこれまで以上に厳しく、国境を警備するよう指示。不法入国者を発見した場合はコロナの感染者とみなして厳格に隔離することも求めた。
国営メディアによると、ベトナムは24日まで海外からの入国者を除き、国内での新規感染は99日間連続でゼロを続けていた。それが28日朝までダナン市と周辺都市で合計15人の感染者が確認された。これまで国内で見つかっているウイルスの種類と違い、感染力の強い新たな型という。
ベトナムは中国、ラオス、カンボジアと国境を接している。現在は感染拡大を防ぐため、入国する外国人に14日間のホテルや施設での隔離を義務付けている。
7月に入ってから、数十人の中国人の不法入国者がダナン周辺で摘発されている。隔離措置の回避を狙ったとみられている。陸上の対中国境を不法に越えたもようだが、一部は海上ルートやカンボジアやラオスを経由した可能性もある。
ベトナムは南シナ海の領有権問題などで中国の強硬姿勢に懸念を強めている。国境管理の強化は、不法入国者の存在をあぶり出し中国をけん制する狙いもありそうだ。
国内では市中感染の広がりが不安視されている。ダナンでは28日から国内線の旅客便の発着を一時停止し、観光客の受け入れを取りやめた。市民には不要不急の外出の自粛を求め、娯楽施設やバーなどの店舗も営業しないよう通達があった。
ダナンに滞在歴のある市民に自主隔離を求める自治体も出ている。首都のハノイでは市民に公共の場所などでのマスク着用を求めており、マスク姿が一気に増えている。市中感染ゼロの期間が長かっただけにわずかな感染者でも緊張感が高まっている。
中国でコロナの感染が広がった2月、ベトナムはいちはやく対中国境の一時閉鎖に踏み切った。一連の厳格な防疫措置を採用した結果、外出制限の期間を4月の約3週間で済ませることができた。累積の感染者は約430人にとどまり、死者はゼロだ。
ベトナム航空が5月末までに国内線のすべての路線を再開させるなど、国内の経済活動は順調に回復している。日本とは往来再開に向けた協議が続いている。3カ月ぶりの市中感染発生を受け、ベトナム側が国内でのコロナ対策に重点を置く必要があると判断し、往来再開が遅れる可能性もある。