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塩野義 組み換えたんぱく質ワクチン、複数を評価中

塩野義製薬の木山上席執行役員
日経バイオテク

塩野義製薬は新型コロナウイルス感染症に対して、子会社のUMNファーマ(秋田市)が独自に確立した「たんぱく質発現技術(BEVS)」を基盤とした、組み換えたんぱく質ワクチンの開発を国立感染症研究所と進めている。ワクチン事業への参入経緯や開発の現状について、医薬研究本部長の木山竜一上席執行役員に聞いた(7月8日取材)。

――2017年10月、UMNファーマと資本業務提携契約を締結し、ワクチン事業に参入。20年3月、同社を完全子会社化した。

「感染症を重点領域として手掛ける中で、14年辺りから検討はしていたが、外部企業と交渉しても折り合いがつかず、参入のきっかけがつかめなかった。しかし、UNMファーマはアステラス製薬と契約を解消した後に連絡し、何らかの支援ができないかということで話が始まった」

――UNMファーマが米プロテインサイエンスから導入した季節性の組み換えインフルエンザHAワクチンについては、アステラス製薬が承認申請を取り下げた経緯がある。その背景には、製造に用いていたプロテインサイエンスのヨトウガ由来の昆虫細胞株にラヴドウイルスのゲノムが挿入されていたことから、医薬品医療機器総合機構(PMDA)が慎重に審査を行っていたことがある。現状、UMNファーマが使っているバキュロウイルス・昆虫細胞系を用いたBEVSはどのようなものか。

「外部企業などのひも付きのない、純国産のBEVSを使っている。昆虫細胞の種類など詳細は開示できないが、資本業務提携後、第1フェーズに設定されていたラヴドウイルスフリーのBEVSをUMNファーマが開発できたことから、第2フェーズへ移行した。昆虫細胞の増殖性が生産性に大きく影響するため、はじめから商業化を念頭に、増殖性の高いBEVSを開発した」

――3月下旬、国立感染症研究所と契約し、新型コロナウイルス感染症のワクチン開発に乗り出した。

「ワクチンの実用化には製造や臨床開発が必要であり、アカデミアだけでは、最終的な製品化までは難しい。そこで、それまで感染研とUMNファーマが進めていたワクチン開発を我々企業の責任としてやりましょう、となった。一気にかじを切るべきだということで、4月27日の経営会議に諮り、全社プロジェクトとして、最優先でワクチン開発を進めることになった」

――(コロナウイルスの表面にある)スパイクたんぱく質を抗原とし、先述のBEVSを用いて製造する。

「時間があれば、最適な抗原は何かを検討したいが、現状、スパイクたんぱく質を否定するほどの理由はないので、スパイクたんぱく質を抗原とする」

「また、BEVSは昆虫細胞をあらかじめ培養しておき、十分増やしたところにスパイクたんぱく質の遺伝子を組み込んだバキュロウイルスを感染させる。ただ、昆虫細胞が増えることと抗原が発現することは別。本来は、どの程度抗原が製造できるか、3年程度かけて検討するが、今回は検討時間が限られるので厳しい部分もある」

――アジュバント(免疫反応を増強させる物質)も添加するのか。

「詳細は開示できないが、アジュバントの添加も考えている。これまでの研究から感染研は、アラムなど歴史の古いアジュバントには、いわゆるワクチン接種後の自然感染による疾患の増強(VDE)を引き起こしかねないリスクがあると考えており、重症急性呼吸器症候群(SARS)の研究成果を踏まえて、VDEを起こしにくいアジュバントを検討している」

「ただし、過去にヒトへの投与実績がないものは使わない。少なくとも、臨床試験での投与実績があり、安全性が確立されたものを使う。でないと、アジュバント単体での臨床試験を行って安全性を確認する必要があるからだ」(日経バイオテク編集部注:7月6日、米製薬AIM ImmunoTechが感染研と塩野義製薬と、アジュバント候補の1つとして、「Ampligen」の供給と共同研究について契約を締結したと発表している)

――現在の研究開発段階は。

「いくつかのワクチンの構造物について、感染研で組換えマウスを用いた免疫原性(免疫応答を誘発させる能力)の評価を行っているところだ」

――今後の予定は。

「霊長類などで中和抗体能などの評価を行った上で、年内に国内での臨床試験入りを目指している。既に、第1相臨床試験の実施に向けて、場所の選定など検討を進めている」

「ただ結局、スケジュールを早めれば早めるほど、検討できないことが出てくる。安全性の検討は絶対譲れないので実施するが、途上国などへの提供などを行う際に重要と考えられる安定性や、有効性などの検討は削らざるを得ない。葛藤が常にある」

――中和抗体価などをサロゲートマーカー(代用の評価指標)にするのが難しい現状では、流行地域などで数千、数万の単位の多数の被験者を対象に有効性を評価する第3相臨床試験も実施する必要がある。

「大規模臨床試験については、開発本部で議論している。こういう状況なので、1番手で承認されるワクチンは、なりふり構わず(ウイルス本来の作用を失わせる)中和活性をベースに承認されるということも考えられるが、感染防御能を評価しようと思うと、1シーズン(季節性インフルエンザであれば、2020/2021シーズン)をかけないと厳しいだろう。そうなるとかなり時間がかかる。また、流行が収束している日本では実施が難しい。我々は、ワクチンだけでなく新型コロナウイルス感染症の治療薬も開発しているが、それもどこで臨床試験を実施するのかが課題になっている」

――海外の流行地域での臨床試験の実現性は。

「海外での臨床試験の経験もあるので、できないわけではないが、今後、流行地域が取り合いになるだろう。現地の医薬品開発業務受託機関(CRO)も足りないのではないか。仮に、1社1万例を対象に大規模臨床試験を実施するとすると、100社なら100万例の被験者が必要になる」

――ワクチンの有効性としては、感染防御、発症予防、重症化予防などいくつか考えられる。

「感染防御ができるかどうかは、1つの観点だ。季節性インフルエンザのワクチンは現状、重症化予防、発症予防しかできない。新型コロナウイルス感染症の感染防御をどう実現するのかと考えると、長期的には、我々の開発している組み換えたんぱく質ワクチンが抗原として役立つかもしれず、その意味でも、組み換えたんぱく質ワクチンに投資している」

――治験薬や商業生産の製造は。

「治験薬は、UNMファーマの秋田工場で製造する。商業生産は、アピグループのUNIGEN(岐阜県池田町)と良好な関係を保っており、岐阜の施設で製造する計画だ」

「商業生産の規模は発現量がどうなるか、抗原免疫原性がどうなるかによって100倍変動するので、現状では分からない」

――実用化の課題は。

「課題は山積している。例えば、ワクチンを充てんするバイアル(容器)が確保できるかといったところから、対応していかないといけない」

――新型コロナウイルス感染症の事業性については。

「今回は、できるだけ早く社会の混乱を抑えるために利益は度外視してリソースを割いている。20年度から30年度を対象期間とする『中期経営計画 STS2030』では、ワクチンを事業の1つの柱にしようとしているが、そこでのパイプライン戦略の中に新型コロナウイルス感染症のワクチンは含まれていない」

――新型コロナウイルス感染症はこのまま終息するか、または季節性(定期的な流行)になると考えているか。

「どちらかというと季節性になるかもしれないと思っている。SARSは消えたが、中東呼吸器症候群(MERS)は残っている。理由は、ラクダがMERSコロナウイルスの主な保有宿主になっているからだ。今回の新型コロナウイルスも、ヒトだけでなくイヌ、ネコでの感染が認められているが、人畜共通感染症になるとウイルスは完全には消えない。その上今回は、感染しても無症状の症例が多く、感染拡大を封じ込めるのが難しい」

「もし季節性になった場合、複数回の投与が必要になるので、1回の投与で抗体ができてしまうウイルスベクターワクチンは難しいだろう。ウイルスの培養や組み換えなど、DNAプラスミドやmRNAワクチンに比べて、開発に時間はかかるが、組み換えたんぱく質ワクチンや不活化ワクチンが必要だと思う」

――今回は、時間が限られているため、通常よりも開発に失敗する確率が高いと考えられる。

「確かに、失敗の可能性は高いだろう。新型コロナウイルス感染症に対しては、百数十品目のワクチンが開発されていると聞いているが、百数十品目しか進んでいないというのが実感だ。安全性、有効性が示されるのは数品目いくかどうかではないか」

「何が成功するか分からないので、あらゆるモダリティ(治療手段)を試すべきだ。あらゆる製造施設を稼働させるという意味でも、複数のモダリティが開発されるのは好ましい。時間的にスピード感を持って開発できるモダリティは先に開発してもらい、ただ、それが100%成功するかは分からないので、我々も組み換えたんぱく質ワクチンを開発する。ウイルスベクターワクチンは、原則的に1回しか投与できないので、もし新型コロナウイルス感染症が季節性になれば、別のワクチンが必要になるといったこともある」

――厚生労働省は、ワクチンの大規模生産体制の構築へ事業者へ助成する事業を立ち上げた。

「SARSの時は、ワクチンを開発しても流行が終息し、需要がなくなった。そうした可能性があるにもかかわらず、新型コロナウイルス感染症に対してはあらゆるワクチン企業が開発に突っ込んでいる。こうしたリスクを、社会がどう負担するのかは、重要な問題だ」

「日本政府はその点すごい。20年度第2次補正予算で、ワクチンなどの大規模生産体制の早期構築を図るべく、事業者を対象に大規模な助成を行うワクチン生産体制等緊急整備事業を立ち上げた。生産体制の構築は、企業でやれと言われると無理だった。国としての覚悟を感じる」

――大規模なワクチン接種が行われれば、ワクチンによるもの、そうでないものを含め、有害事象が必ず起きる。

「ワクチンは個々人に効果をもたらすというよりは、社会に対して、集団に効果があるもの。有害事象がゼロにはならない中で、社会が享受するメリットと個人のデメリットをどう考えるかだろう」

(日経バイオテク 久保田文)

[日経バイオテクオンライン 2020年7月28日掲載]

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