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DNA・mRNA・ベクター… 多様なワクチンの違いは?

新型コロナウイルスに対するさまざまなワクチンの開発が進んでいる(写真は7月、英オックスフォード大学)=AP
日経バイオテク

現在、世界で進んでいる新型コロナウイルスのワクチン開発の特徴は、古典的なものから先端的なものまで、多様なモダリティ(治療手段)のワクチンが一挙に開発されていることだろう。公衆衛生上の緊急事態に、製薬企業やスタートアップ、研究機関が自ら保有する基盤技術を活用し、続々とワクチン開発に参入している状況だ。

主なものだけでも、(1)ウイルスベクターワクチン(2)メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン(3)DNAワクチン(4)組み換えたんぱく質ワクチン(5)組み換えウイルス様粒子(VLP)ワクチン(6)不活化ワクチン――と様々で、誘導できる免疫応答の種類なども異なる。

製造供給能も製造工程もモダリティごとに異なることから、「世界中のあらゆる製造施設を活用し、少しでも多くのワクチンを供給できるようにするため、多様なモダリティが開発されることは望ましい」(ある研究機関の研究者)。

ただ、組み換えVLPワクチンや不活化ワクチンなどは相当数の投与実績を有する一方で、ウイルスベクターワクチンやmRNAワクチンなど、これまで承認されたワクチンがほとんどなく、投与実績が蓄積されていないものも目立つ。業界関係者は「実用化されても、モダリティごとにリスクとベネフィットのバランスが異なるだろう」と指摘する。

もっとも、同じコロナウイルスを原因とする、重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)に対するワクチンは実用化されていない。新型コロナウイルス感染症にどのモダリティが適しているかは、やってみなければ分からないというのが実態だ。

業界関係者からは、「品目数は少ないだろうが、複数のモダリティのワクチンで安全性、有効性が示される可能性はある。流れとしては、日米欧ではまず、ウイルスベクターワクチンやmRNAワクチンが登場し、その後で組み換えたんぱく質ワクチンや不活化ワクチンが使われることになるのでは」との声や「初めに出てくるウイルスベクターワクチンやmRNAワクチンは、供給量が限られると予想されるので、まずは高齢者や医療・介護従事者を対象に接種されるのではないか」との声が聞かれている。

以下、ワクチンの主なモダリティごとの特徴や開発状況などを紹介する。

(1)ウイルスベクターワクチン

ヒトに対して病原性のない、または弱毒性のウイルスベクター(運び手)に抗原たんぱく質の遺伝子を組み込んだ、組み換えウイルスを投与するワクチン。ウイルス自体が細胞に侵入し、細胞質で抗原たんぱく質をつくり出すことで、抗体によりウイルスを排除する「液性免疫」と、免疫細胞の1つであるキラーT細胞などにより排除する「細胞性免疫」を引き起こすと考えられている。

ベクターには、アデノウイルスやレトロウイルスなどが用いられる。ただしこれまで世界で承認されたウイルスベクターワクチンは、欧州で承認された米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)のエボラウイルスワクチンと、中国で承認された中国の康希諾生物(カンシノ・バイオロジクス)のエボラウイルスワクチンのみにとどまっている。

新型コロナウイルス感染症には、ヒトに感染する際に足がかりとする「スパイクたんぱく質」の遺伝子を組み込んだウイルスベクターワクチンが主に開発されている。英オックスフォード大学と英大手製薬アストラゼネカはチンパンジーアデノウイルスを、カンシノはアデノウイルス(5型)を、J&Jはアデノウイルス(26型)を、アイロムグループ子会社のIDファーマ(東京・千代田)はセンダイウイルスを用いたワクチンを開発中。

一般に、1回の接種でウイルスベクターに対する抗体ができるため、2回目の接種は難しいと考えられているが、オックスフォード大とアストラゼネカは第1相・第2相臨床試験で同じベクターでの2回投与についても評価している。

(2)mRNAワクチン

抗原たんぱく質の塩基配列を作る情報を持ったmRNAのワクチン。生体内で分解されないようにするため、また血液に含まれるマクロファージや好中球などによりウイルスを排除する「自然免疫」が過剰に誘導されるのを抑えるため、脂質ナノ粒子(LNP)などに封入して投与する。

投与後、細胞質内でmRNAが抗原たんぱく質に翻訳されて免疫が誘導されるため、液性免疫だけでなく、細胞性免疫も引き起こすと考えられている。これまで世界で承認されたmRNAワクチンはないが、ここ数年で研究開発が活発化している。

新型コロナウイルス感染症に対しては、スパイクたんぱく質のすべてあるいは一部の塩基配列を作る情報を持ったmRNAを脂質ナノ粒子に封入したワクチンを、米バイオベンチャーのモデルナなどが開発中。抗原などは非開示だが、第一三共もmRNAワクチンを開発している。また独バイオベンチャーのビオンテックや英インペリアル・カレッジ・ロンドンは、投与したmRNAの塩基配列からmRNAを増やし、発現量が多く、発現期間が長く、自然免疫が活性化される「自己増殖性mRNA」を用いたワクチンを開発している。

(3)DNAワクチン

抗原たんぱく質の塩基配列を作る情報を持ったプラスミド(環状)DNAのワクチン。基本的にはそのまま(裸で)投与するため、投与後はそれ自体がアジュバント(免疫反応を増強させる物質)として自然免疫を誘導する。それとともに、核内でmRNAに転写され細胞質内で抗原たんぱく質を作ることで、液性免疫だけでなく、細胞性免疫も引き起こすと考えられている。mRNAワクチンに比べ、抗原たんぱく質の発現には、転写と翻訳の2段階が必要となる。

これまで世界では数多くのDNAワクチンの臨床試験が行われたが、承認されたものはなく、その背景に免疫原性(免疫応答を誘発させる能力)の低さを指摘する声もある。

新型コロナウイルス感染症に対しては、スパイクたんぱく質の塩基配列を作る情報を持ったDNAワクチンを、米バイオ製薬のイノビオ・ファーマシューティカルズや大阪大発バイオ企業のアンジェスなどが開発中。イノビオは強い細胞性免疫を誘導するためとして、エレクトロポレーション(電気穿孔法)後に皮内注射するワクチンを、またアンジェスは免疫原性を上げるため、非開示のアジュバントを添加したワクチンを開発している。

(4)組み換えたんぱく質ワクチン

ウイルスの構成成分である抗原たんぱく質を昆虫細胞や植物、哺乳動物細胞などで作り、単離・精製したワクチン。投与後、抗原たんぱく質が細胞外から取り込まれ、ペプチド(たんぱく質の断片)に分解されて、主に液性免疫を誘導すると考えられている。米国では2013年、昆虫細胞を使ったたんぱく質発現システムを用いた仏サノフィ(旧米プロテインサイエンス)の季節性インフルエンザワクチン「フルブロック」が承認、販売されており、相当数の投与実績がある。

新型コロナウイルス感染症に対しては、主にスパイクたんぱく質を抗原とする組み換えたんぱく質ワクチンを、米バイオ医薬品開発のノババックス、中国クローバー・バイオファーマシューティカルズ、サノフィ、塩野義製薬(UMNファーマ)などが開発中。免疫原性を高め、抗原量を減らして供給量を増やすためとみられるが、いずれも何らかのアジュバントを添加して開発を進めている。

(5)組み換えVLPワクチン

ウイルスのゲノムを含まない外殻たんぱく質のみを、微生物や昆虫細胞、植物で作り、単離、精製したワクチン。投与後、抗原たんぱく質が細胞外から取り込まれ、ペプチドに分解されて、主に液性免疫を誘導すると考えられている。これまで世界では、B型肝炎ワクチンやヒトパピローマウイルスワクチン(子宮頸[けい]がんワクチン)など、複数のVLPワクチンが承認されており、日本を含めて相当数の投与実績がある。

新型コロナウイルス感染症に対しては、田辺三菱製薬の子会社であるカナダのメディカゴがVLPワクチンを開発中。また、阪大微生物病研究会(大阪府吹田市)もモダリティの1つとして、VLPワクチンの研究開発を進めている。

(6)不活化ワクチン

ウイルス自体を培養し、ホルマリンや加熱処理、紫外線照射などを用いてウイルスの感染性や病原性を消失させたワクチン。投与後、ウイルスの成分が自然免疫を誘導するとともに、抗原たんぱく質が細胞外から取り込まれ、ペプチドに分解されて、主に液性免疫を誘導すると考えられている。

ただし、ウイルスを培養する必要があるため、ウイルスの病原性に応じ、バイオセーフティーレベル(BSL)を満たした製造施設が必要となる。これまで世界では、日本脳炎ワクチン、ポリオワクチン、インフルエンザ菌b型(Hib)ワクチンなど、数々の不活化ワクチンが承認されており、日本を含めて相当数の投与実績がある。

新型コロナウイルス感染症に対しては、中国やインドの企業を中心に複数の企業が不活化ワクチンを開発中。また、明治ホールディングス(HD)傘下のKMバイオロジクス(熊本市)も不活化ワクチンの開発を進めている。

(日経バイオテク 久保田文)

[日経バイオテクオンライン 2020年7月22日掲載]

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