「豚組」も閉店、外食「成功の方程式」がコロナで暗転

日経ビジネス
2020/7/29 2:00
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東京・六本木「豚組しゃぶ庵」は13年の歴史に幕を下ろし、オンラインに「引っ越しする」という

東京・六本木「豚組しゃぶ庵」は13年の歴史に幕を下ろし、オンラインに「引っ越しする」という

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新型コロナ禍は、外食店経営の常識をいとも簡単に覆した。

繁華街の路面に競うように出店し、グルメサイトを使って新規顧客を呼び込み、満席にするという「外食経営のセオリー」がもろくも崩壊。好立地の高い賃料は重しになり、密な店内は来店客を遠ざけ、グルメサイトは常連客の確保に十分な力を持てていない。

外食向けIT(情報技術)サービスを手掛けるトレタ(東京・品川)の経営者で、外食店オーナーでもある中村仁社長に、アフター・コロナの外食経営について聞いた。

■客足は従前の6割

――外食店向けのインターネット予約システムを手掛けるトレタの経営者でありながら、外食店のオーナーでもあります。

「2000年に外食運営企業を設立し、豚料理の『豚組』や和風スタンディングバー『壌』など6店舗を運営しています。トレタは13年に創業しました」

「30年前とほぼ変わらない外食店の経営をテクノロジーでアップデートしたいと考え、インターネットで顧客を管理する予約台帳システムを開発しました。複数のグルメサイトと連携して、ネット予約情報をとりまとめることで、スタッフの業務を効率化できます」

中村 仁(なかむらひとし)氏 1969年生まれ。大手家電メーカー、外資系広告代理店を経て、2000年に外食経営のグレイス(東京・港)を設立。立ち飲みブームのきっかけとなった「西麻布 壌」や、高級とんかつ専門店「とんかつ 西麻布 豚組」、高級豚しゃぶ店「豚組しゃぶ庵」などを運営する。ツイッターを活用した集客が注目され、「外食アワード2010」(外食産業記者会)を受賞。2013年にトレタを創業して、外食店向けの予約と台帳をデジタル管理するサービスを提供している。著書に『外食逆襲論』(幻冬舎)など

中村 仁(なかむらひとし)氏 1969年生まれ。大手家電メーカー、外資系広告代理店を経て、2000年に外食経営のグレイス(東京・港)を設立。立ち飲みブームのきっかけとなった「西麻布 壌」や、高級とんかつ専門店「とんかつ 西麻布 豚組」、高級豚しゃぶ店「豚組しゃぶ庵」などを運営する。ツイッターを活用した集客が注目され、「外食アワード2010」(外食産業記者会)を受賞。2013年にトレタを創業して、外食店向けの予約と台帳をデジタル管理するサービスを提供している。著書に『外食逆襲論』(幻冬舎)など

――東京・六本木にある豚しゃぶ専門店「豚組しゃぶ庵」を閉店するとうかがいました。新型コロナ禍の影響が大きいのでしょうか。

「非常に大きいです。緊急事態宣言を受けて4月に休業して、宣言解除後に再開しましたが、客足は従前の6割にとどまっています。仮にコストを切り詰めて、足元の危機を乗り切れても長期的な経営の安定は難しいという結論に達しました。名古屋市にある『豚組しゃぶ庵 名古屋』についても、閉店を含めて今後を検討しているところです」

――コロナ・ショックの影響は、短期にとどまらないと考えたのですね。

「コロナ禍で多くの人が外食機会を減らし、密な環境で外食を楽しむ習慣はしばらく戻ってきません。リモートワークが定着すれば、会社帰りに飲んで帰る習慣も減る。感染の第2波、第3波が来れば、再度休業を強いられるかもしれませんし、そうでなくても時短営業やテーブルを一つおきに使うなど対応が迫られます」

■繁華街から住宅地へ

――東京・六本木という日本有数の好立地なら、客足の戻りは他の地域よりも早いと期待できないでしょうか。

「むしろ、『繁華街の(道路に接して見つけやすい)路面店』という外食業界の成功の方程式が崩れてしまった。従来の『勝ち筋』がゼロどころか、マイナスに陥ってしまったと感じます」

「コロナ前の外食店は、繁華街の目立つ場所に店を構え、グルメサイトなどでお店をアピールし、新規顧客を獲得。店を満席にして、さらに席の回転率を上げれば利益が増えた。多くのお客様を受け入れるために、空前の人手不足のなかで他業界と人の取り合いになり、人材採用も重要な経営課題でした」

「ところが、今は感染を恐れて、お客様が繁華街での食事をためらうようになりました。繁華街の高い賃料は経営の大きな負担となり、むしろデリバリーやテークアウトの需要を狙うなら住宅街に拠点を置いた方がいい。グルメサイトについて言えば、今サイトで検索して新しい店を開拓しようというお客様がいるでしょうか」

■いかに値上げを受け入れてもらうか

――おそらく、安心できる顔なじみのお店に行きますね。グルメサイトを使う消費者の期待はお店探し。つまり、外食店にとっては新規顧客の獲得は期待できても、常連客の囲い込みに十分なツールとは言えません。

「ある外食店経営者は、ちょっと前までインターネット予約のウェブページが(空席を示す)『○』だと集客にならなかったが、今は『○』が多い方が安心して来店してもらえる、と言っていました」

「また、『値下げこそ経営努力』という外食業界の雰囲気も変わるのではないでしょうか。イートイン(店内飲食)の売上高は、おそらく、戻ってもコロナ前の7割というところにとどまりそうです。営業利益率が10%を切る飲食店が多い中、この水準の売上高で利益が出せるところはそうそうない。いかに値上げを受け入れてもらうかが経営戦略になります」

「ただし、人手による手厚い『おもてなし』で、今までより高い料金をいただくというよりは、感染拡大に気遣った接客が必要になるでしょう。この新たな接客スタイルは、テクノロジーを使った省人化と同時に進む可能性があります」

「この通り、繁華街から住宅街へ、満席から空席へ、新規顧客から常連客の囲い込みへ、人材採用から省人化へ、値下げから値上げへ、人によるおもてなしから非接触へ、とコロナ前に業界で常識とされてきた手法が逆転して、弱みになってしまっているのです」

■キーワードは家庭での「再現性」

――勝利の方程式と信じていた経営手法が半年もたたずに弱みに転換してしまってはショックが大きいですね。これに当てはめると、多店舗をチェーン展開する企業は相当厳しくなります。

「はい、チェーン店の全てが駄目とは思いませんが、苦しいところが出てくることは間違いないでしょう」

――今回、豚組ブランドの豚しゃぶ店は閉店を決めましたが、とんかつは続けるとおっしゃっています。違いはどこにあるのでしょうか

「外食機会が減れば、1回当たりの外食の『重み』は増します。より『特別な体験』が期待されるようになります。そう考えたとき、豚しゃぶという業態は厳しいと考えました」

――夏場はともかく、ヘルシーでおいしく、女性や家族連れ、サラリーマンなど狙える客層も幅広そうな印象ですが。

「鍋人気の裾野はたしかに広いのですが、同時に鍋は自宅でもそれなりにおいしく楽しめてしまう料理なのです。素材を選んで、だしやタレにこだわれば、おいしくできてしまう。高度な調理技術や手間もかからず、後片付けも簡単です。手間がかからない割に、家庭での『再現性』が高いのです」

「家で再現しづらい食事の筆頭は、例えばおすし。お店の握りたてにかなうクオリティーを家で出せる家庭は少ないでしょう。焼き肉もそうでしょうね」

――焼き肉もお金をかけて良い肉を買って、焼き加減をインターネットで調べればなんとかなりそうな気もしますが。

「お店と同様に炭火で焼くということは家庭では不可能ですし、しかも焼き肉のにおいが家に残ってしまう。だから家でやりたくない人が多い。同様にとんかつは、外食店の揚げたてを家庭で実現するのは容易ではなく、油の処理も面倒です」

「ですから、とんかつの2店舗は今後も運営を続け、魅力を磨き続けます。私たちのように小さな会社は、強みに徹底的にフォーカスすることでしか生き残れません」

■「内食・中食」市場であれば、むしろ強み

――これからの外食は「再現性」が低くて、外食でしか得られない特別感を演出しやすい業態が生き残っていくのでしょうか。

「再現性がキーワードになるのは間違いありませんが、『豚組しゃぶ庵』の閉店を決めたのには、もう一つ理由があります」

「今回のコロナ禍で、『おうちで豚組』という豚しゃぶのテークアウトとデリバリーを始めました。お店の味を再現することにこだわり、肉、野菜、だし、手作りの3種のタレ、数種類の薬味、塩、締めの豚骨麺、しゃぶしゃぶに使うミネラルウオーターに至るまでをパッケージにしたのです」

「すると、『家庭でこんなにおいしい豚しゃぶを食べられるなんて』と喜んでもらえた。お客様を幸せにするためなら、店舗にこだわる必要はないんじゃないかと気付かされました」

「つまり豚組しゃぶ庵は、外食市場での生き残りは難しいかもしれないけれど、『内食・中食』の市場であれば、むしろ強みを発揮できるのではないかと思ったのです」

テークアウトとデリバリーで提供する「おうちで豚組」

テークアウトとデリバリーで提供する「おうちで豚組」

■「デジタル・ネーティブ」が開拓するD2Cモデル

――豚組しゃぶ庵はデリバリー、テークアウトに特化する店になるのでしょうか。

「飲食店を構成する要素を分解すると、料理、場、人の3つだと思っています。この3つのうち、コロナ禍で『場』の価値は大きく目減りしてしまいました。しかし料理で勝負してきた店舗なら、デリバリーとテークアウトに活路を見いだせるかもしれない」

「「豚組しゃぶ庵』にも、料理としての価値と、場としての価値がありましたが、いったん店を閉じてオンラインに引っ越すと決断しました。これは、料理の価値で生き残る道を模索するという判断です。オンラインで『場』としての価値を提供できるかどうかはまだ解がありませんが、これも挑戦していくことになるでしょう」

――今後は、外食がイートインの店舗を出しづらくなりそうですね。

「店舗の質が変わると思っています」

「例えば、ゴーストレストラン(イートインの店舗を持たない業態)で商品を作り、オンラインで顧客と接点を持つ『デジタル・ネーティブ』な外食スタートアップが増えてきたら、アパレル業界で生まれた『D2C』(小売店などを介さずに、メーカーがネットを通じて消費者に商品を直接販売するビジネスモデル)のような現象が、外食業界にも起こりうると思っています」

■「調理の最適化」は始まったばかり

――アパレルのD2Cといえば店舗を持たず、SNS(交流サイト)やオンラインでブランドコンセプトを発信して顧客を獲得していく手法ですね。ブランドの背景や理念に共感するミレニアル世代に強いと言われています。

「これまでの方法論とD2Cが決定的に異なるのは、オンラインとリアル店舗の主従を逆転させた事業構造にあります。リアル店舗を主として、売上補助的にオンラインをやるのではなく、まず本業のオンラインで顧客を開拓します。ある程度、顧客が獲得できたら、次は自分たちが目指す世界観をより深く体験できる場としてリアル店舗を開業するのです」

「ブランドコンセプトを知ってもらうための店だから、その店舗は収益の責任を負いません。外食店が収益責任から解放されたとしたら、これまでの飲食店と全く異なるものが登場するでしょう。これまで考えつかなかったお店づくりも可能になるはずです。六本木の「豚組しゃぶ庵」がオンラインに引っ越しするのは、このD2C型を目指すためです。新たなリアル店舗は、できるだけ早い段階で出していきたいと思っています」

「実際、最近盛り上がりつつあるゴーストレストランは、繁華街の路面店ではなく、住宅街の空中階(2階以上)に出店するケースが大半です。デリバリーに特化することで、立地戦略が根本から変わってしまった。このように、D2C型の飲食店の世界ではこれまでの店舗とはお金のかけ方、コスト感覚が異なるものになるでしょう」

――ファッションと異なり、外食のデリバリーは味が落ちかねないという大きな障壁があります。まだイノベーションが必要ではないでしょうか。

「外食のイノベーションはこれからが本番です。デリバリー、テークアウト、ミールキットにふさわしい『調理の最適化』はまだ始まったばかりです。高い配送コストの課題が指摘されるデリバリーにおいても、イノベーションが期待できます」

「新型コロナウイルスは外食に致命的な打撃を与えましたが、それと同時に、業界に50年ぶりの大きなイノベーションの機会をもたらしていることも事実でしょう。いや、そうなればいいなと思っています」

(日経ビジネス 鷲尾龍一)

[日経ビジネス電子版2020年7月22日の記事を再構成]

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