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オリックス太田、打撃投手の父と遂げた鮮烈デビュー

16日のソフトバンク戦でプロ初安打となる本塁打を放つ太田=共同

好球とみれば迷わずバットを振る。プロの打者なら当然の心掛けである一方、コーナーぎりぎりの球を待ち構えているがゆえに、まさかの絶好球に手が出ないこともある。様々な投手と対戦を重ね、配球の読みが深くなればなるほどこの手のジレンマに陥りがちだが、プロ野球オリックスの19歳、太田椋(りょう)は好球をためらいなく打ち返す無垢(むく)さで頭角を現している。

16日のソフトバンク戦。「9番・三塁」で先発した太田は三回、リック・バンデンハークの高めの直球をたたき、中越えに同点ソロ本塁打を放った。前の試合までの打線の低調ぶりを見かねた首脳陣がカンフル剤の役割を期待し、この日1軍に昇格させたのが太田だった。いきなりスタメン出場し、第1打席のファーストスイングで思い切りよくバットを振った結果がプロ初安打、初本塁打。起爆剤の効果は十分で、この後、吉田正尚が適時打、アダム・ジョーンズも2ランと続き、チームは逆転勝ちした。

積極的な打撃は翌17日にも見られた。1つ打順が上がって「8番・三塁」で先発した同じソフトバンク戦の三回、今度は東浜巨のスライダーを左翼席に運んだ。中堅に打ち返した前日はスタンドインはしないだろうと全力で走ったが、この日は打った瞬間に本塁打と確信。すぐに打球から目を離して悠然と走り出す姿は貫禄さえ漂わせた。

17日にも太田は第1打席のファーストスイングで本塁打を放った=共同

落ち着きはこの試合の後の話しぶりからもうかがえた。「バッティングでは間が取れていると思っている。その自分の間に相手投手が合わせてくるイメージで(打席に)入れている」。1軍経験が少ない上に、まだ10代。それでバンデンハークや東浜といった一線級の投手を自身のリズムに引き込む感覚を持てているとは末恐ろしい。

本塁打にしたのは、前の日と同じ第1打席のファーストスイング。東浜からすれば外角を狙ったスライダーが真ん中に入る失投だったが、若い打者にとって、好球を確実に仕留めることはそう簡単ではない。それができるのは「当てにいくこともなく、自分のポイントで打てている」(太田)からだ。

2019年、奈良・天理高からドラフト1位でプロ入り。当初、オリックスが欲したのは兵庫・報徳学園高の小園海斗だったが、抽選で広島に当たりくじを引かれた。次に狙いを定めて獲得したのが、同じ「打てる遊撃手」として高校球界に名をとどろかせていた太田だった。

1年目、期待上回る成長も思わぬ試練

将来性を見込んで獲得した球団の期待を上回り、春季キャンプで着実に成長して、早くも3月上旬のオープン戦での1軍デビューが決定。だが、思わぬ試練が待っていた。出場予定だった1軍戦の前日、教育リーグのソフトバンク戦で千賀滉大の剛球が右腕を直撃。右尺骨骨幹部骨折で、無情にも1軍のひのき舞台は遠のいた。この年は9月にようやく1軍出場を果たしたものの、13打数無安打でシーズン終了。「悔しい思い」(太田)に明け暮れたプロ1年目だった。

2年目の20年に飛躍を期すべく太田がサポートを頼んだのが、オリックスの打撃投手で実父の暁(さとる)さんだった。親として、チームの同僚として太田に野球の全てを教えてきた師はルーキーイヤーが終わった後、「冬のオフの間もずっと投げてくれた」と太田。常に寄り添ってくれた父の恩に報いたい思いが、迷いのないスイングの土台になっている。

記念のホームランボールは客席でキャッチしたファンが持ち帰ることもあるが、太田のプロ1号は、京セラドーム大阪のバックスクリーンを覆うように張られたネットに当たってグラウンドへ。ソフトバンクの選手を経由し、すぐに太田の手に収まる幸運に恵まれた。「まさか立てるとは思っていなかった」というお立ち台で記念のボールをどうするか問われると「お父さんに渡したいと思います」。

16日のソフトバンク戦に勝利し、山崎福也(左)とともにポーズをとる太田=共同

父は息子の一発に「チームとしてもうれしいし、親としてもうれしいです」とコメントした。1989年、愛媛・帝京五高から野手として近鉄に入団したものの、プロでは一本も安打を放てなかった暁さんは、息子の一打に自身の夢もかなった思いだったかもしれない。

オリックスの長距離打者には吉田正、T―岡田と左打ちの2人がいるが、右打ちで挙がるのはジョーンズ、アデルリン・ロドリゲスの外国人のみ。日本勢の右打者では杉本裕太郎と頓宮裕真に長距離砲の資質が垣間見えるが、確実性に乏しく1軍定着には至っていない。レギュラー陣の大城滉二や安達了一はこつこつ単打を積み重ねるタイプ。そうなるとがぜん、右のロングヒッターである太田の存在感が際立ってくる。

19歳でレギュラーの坂本に重なる姿

08年、高卒2年目の19歳だった巨人・坂本勇人は開幕戦で二塁手としてスタメン出場。2戦目からは足をけがした二岡智宏に代わって遊撃に回り、そのまま正遊撃手の座をものにした。同じ19歳で1軍出場が続く太田に、坂本の姿を重ねて見ているファンもいるだろう。実際、このままレギュラーに定着できるだけの素質を持っているのは確か。そうはさせじと頑張る打撃好調の安達や山足達也、昨季新人ながら打率2割8分8厘をマークした中川圭太らとの競争が登竜門になる。

太田の同期には、小園のほかにも中日・根尾昂、ロッテ・藤原恭大(いずれも大阪桐蔭高出)と鳴り物入りでプロ入りした選手がいる。彼らの1軍での成績はといえば、藤原は本塁打はなく、根尾は安打を放っていない。小園は昨季4本塁打をマークしたが、3人とも今季は1軍での出場がまだないことを思えば、太田の歩みは順調そのもの。1年目の死球禍のような逆境を父との二人三脚で乗り越えていければ、プロ入り時から名が売れている根尾らを名実ともにしのぐ日も遠くないかもしれない。

(合六謙二)

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