集団感染リスク、負担増す対策… 「保育士辞めたい」

ドキュメント日本
2020/7/26 2:00
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消毒作業など、保育士の負担が高まっている(東京都内)=一部画像処理しています

消毒作業など、保育士の負担が高まっている(東京都内)=一部画像処理しています

東京都内の保育園で7月上旬、新型コロナウイルスの集団感染が起きた。通常保育に戻った園は「密」になりがちで、感染の不安は拭えず消毒作業などの負担も増す。もともと平均給与が低く、待遇の悪さが指摘されてきた保育業界。「保育士辞めたい」。現場からはそんな悲鳴も漏れる。

(福田航大)

東京都文京区の住宅街にある認可保育園で、保育士1人と園児1人の感染が判明したのは9日のことだ。濃厚接触者を検査した結果、17日までに園児26人を含む34人の陽性が確認された。重症者は出ていないが、22日までの臨時休園を余儀なくされた。

文京区は緊急事態宣言解除後も、自宅保育が可能な家庭に登園自粛を呼びかけている。それでも6月の保育園利用率は区全体で8割となり、7月は9割を超えた。区内の保育園を利用する男性会社員(38)は「仕事で人と会う約束が増え、やむを得ず利用しているが、リスクが目の前まで来ている」と不安を明かす。

保育園や認定こども園での集団感染はこれまでに名古屋市や仙台市、神戸市などでも確認された。乳児や幼児を長く預かる保育園では保育士があやしたり、子ども同士が集まって遊んだりと、注意していても「密」な環境は避けにくい。

文京区の園でも、換気や小まめな消毒などの対策は十分に取っていた。感染リスクとは隣り合わせで、保育士のストレスや負担は増す。

「大好きな子どもたちや保護者と関わる素晴らしい仕事だが、もう限界だ」。関西の認定こども園に勤める20代女性は今年度で退職することを決めた。6月に通常保育が再開され、「自分の教室で集団感染が発生したらどうしよう」と常に不安を抱いていた。

連日、1時間以上かけて園庭や自分のクラスの玩具などを消毒。給食の時間に子ども同士の間隔を取るため机を増やし、仕切りを設けるなどの対策も取った。会議も増え、コロナ禍以前に1日平均10時間だった勤務が12時間に及ぶことも多い。指導案作成などの事務作業は休日、自宅に持ち帰ってこなす。

園側からはプールや参観などの行事を例年通り実施すると伝えられた。反対する多くの職員の声は通らず、プール用玩具の消毒などの作業負担が加わった。「当たり前に通常行事をこなすなんて」。次の仕事は保育士以外で探すという。

香川県の20代の女性保育士も「仕事は好きで誇りに思っているが、身近で感染者が出るなどのきっかけがあれば辞める」と話す。一日中せきをしている園児や、発熱後に病院に行かず登園してきた園児がいた。「うつされたら困る」と同居する家族が話しているのを漏れ聞き、「私だってうつしたくない。もう辞めてしまいたい」と思わず泣いてしまった。

医療、介護従事者を対象に最大20万円を支給する国の慰労金で、保育は対象外だった。コロナ後にストレスが増したという都内の20代女性保育士は「保育も不安とリスクの最前線なのに。見捨てられたのではないか」と落胆する。SNS(交流サイト)のツイッターにも同様の投稿が相次ぐ。

保育政策に詳しい甲南大の前田正子教授は「保育現場の負担やストレスがかつてなく増している。コロナを機に辞め、二度と保育士として働かない人が多くなるのではないか」と懸念する。影響は長期化が見込まれる。安心して働ける環境をつくるため、「園が保育士としっかりコミュニケーションを取ることが一層重要になっている」と指摘する。

■有休強要、賃金支払わない施設も
2019年の賃金構造基本統計調査によると、保育士の平均給与は月額で24万4500円だった。全産業平均に比べ約9万3000円、3割近く低い。

 置かれた環境は新型コロナウイルスの流行後に厳しさを増した。東京大大学院教育学研究科付属発達保育実践政策学センターが5月中旬までに実施したインターネット調査によると、15.8%の園長・施設長がパート職員に休業中の賃金を全く支払っていないと回答した。常勤職員に関しても7.6%いた。
 全国福祉保育労働組合によると、登園自粛や保育体制の縮小で出勤が不要となり、有給休暇の取得を事実上強要されたケースが緊急事態宣言下の4~5月に相次いだ。相談件数は平時の4倍に上り、ほとんどが有休関連だった。
 同組合は「労働者の意に反し、一方的に年休を取得させる行為は労働基準法に違反する。泣き寝入りせず、まず自治体に相談してほしい」としている。
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