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日本代表、強化のカギは「1チーム2カテゴリー」

再開したJリーグは今のところ無事に日程を消化しているが、サッカー日本代表は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)の影響をもろに受け、活動休止の状態が続いている。国際的な移動を伴う分だけハードルは高く、早くても再起動は今秋に予定される2022年ワールドカップ(W杯)カタール大会のアジア2次予選になる。そこからの代表強化は「1チーム2カテゴリー」がキーワードとなるようだ。

森保監督はA代表と来年に延期された五輪代表の2チームの指揮兼任を継続する(8日、味の素スタジアム)=共同

W杯最終予選見据え、あらゆる備えを

男子は3月と6月に行うはずのW杯アジア2次予選の4試合が全て延期された。3月26日ミャンマー戦(愛知・豊田)、31日モンゴル戦(ウランバートル)、6月4日タジキスタン戦(神戸)、9日キルギス戦(大阪・吹田)である。9月の国際親善試合も流れた。

国際サッカー連盟(FIFA)と協議の上、アジアサッカー連盟(AFC)は10月と11月のインターナショナルウインドー(国際Aマッチデー、4試合分)でW杯アジア2次予選の残り試合を消化し、来年3月にカタール行きの切符を懸けた最終予選に突入するよう日程を再編した。

2次予選F組で4連勝し、同組首位に立つ日本の最終予選進出は間違いない。しかし、最終予選はいつもどおり予断を許さぬ展開になる。コロナ禍による予期せぬアクシデントも想定しながら、勝ち抜くシナリオを幾つも用意する必要があるだろう。

その際に注意すべきことがあるとすれば、あらゆるレベルで「スペアを用意する」ことだろうか。これは今回のコロナ禍から学んだ一つでもあるが、効率やコスト重視で「1ポジションに1人」というような人員配置、さまざまな機器・装具の補充なし、というような対応では圧倒的な有事に立ち向かえない。

そうしたヒトやモノを自前で調達できる力も大切だ。「国内にないなら外から持ってくればいい」という安易さでは、その「外」に「そちらに回す余裕はない」と言われたら、お手上げになってしまう。

森保監督の指揮兼任は問題ない

再起動に備え、日本サッカー協会(JFA)は先ごろ、森保一監督が引き続きA代表と五輪代表の監督を兼任していくことを確認した。この決定をあれこれ心配する向きもあるが、私は大丈夫だと思っている。W杯の2次予選、最終予選に森保監督が傾注するのは言うまでもなく、東京五輪の前後にA代表の活動はないのだから、その期間だけ五輪代表の指揮を執るのも大して支障は無いと思うのだ。

日程が重複する時は、A代表で森保監督を補佐する横内昭展コーチが五輪チームの面倒を見る。同コーチと森保監督の付き合いは広島での現役時代まで遡る、まさに肝胆相照らす仲。サッカー観に食い違いはなく、森保監督は「横さんの話すことは、すべて私の意見だから」と選手に常々話すほどである。2人の間にコミュニケーション不全はなく、A代表と五輪チームが別々に活動する時期があっても、両チームの状態は常に把握されていると考えていいだろう。

イタリアで活躍する冨安(左)のように、東京五輪世代ながら既にA代表でも実績を残している選手が多い=共同

それに、名目上はA代表と五輪代表と2つのチームに分かれているが、現実にはどちらにも属する選手が多い。例えばGKの大迫敬介(広島)、DFの冨安健洋(ボローニャ)、板倉滉(フローニンゲン)、杉岡大暉(鹿島)、MFの中山雄太(ズウォレ)、久保建英(マジョルカ)、三好康児(アントワープ)、FWの堂安律(PSV)らは既にフル代表のキャップを持っている。

五輪後にメリットを生かせる

その数はさらに増えそうでもある。というのも大会の出場資格(1997年1月1日生まれ以降)は据え置いたまま、東京五輪が1年延期されたことで、来年の本番にはU-24(24歳以下)の選手まで出られるようになったからだ。24歳といえば、サッカー選手としては「アンダー世代」と呼ぶこと自体おかしな、A代表の中核を成して当然のボリュームゾーン。それこそ「24歳以下の五輪代表の面々+3人のオーバーエージ=W杯カタール大会の代表」になっても不思議はないくらいだろう。

森保監督がそういう状況を指して「1チーム2カテゴリー」と表現するのは、とても理解できる。今はAと五輪の2つのカテゴリーがあるが、これは1つのチームに「A」と「A'」があるようなもの。当面のターゲットの違いからダッシュがつくだけで、東京五輪が終われば「A」と「A'」は合流し、一つの集合体としてW杯最終予選に臨む。ならば、森保監督が双方を大きな「1チーム」として隙なく漏れなく見ていった方が、後々メリットを生かせるということだろう。

東京五輪が1年伸びたことで「A'」に入る競争はさらに激烈になった。23歳から24歳にかけての選手の伸長は著しく、来年のJリーグが開幕した直後から5月くらいまでの間に、とんでもないニューカマーが出現するかもしれない。

10代は一気に伸びる時期でもある。ここからの1年で久保のような選手が他にも出てくるかもしれない=共同

一方で「自分は若すぎて無理かな」と諦めていた10代の選手の急伸もありえる。「ネクスト久保」のような。そういう逆境からはい上がってきた選手は本番で活躍する可能性も高い。この競争は本当に見ものである。

楽しみな川口氏の五輪GKコーチ就任

東京五輪絡みでは、五輪代表チームのGKコーチに川口能活氏が加わったことをうれしく思う。川口氏といえば、今更語る必要もないほどのキャリアの持ち主だが、私としてはやはり、1968年メキシコ五輪以来28年ぶりにオリンピック出場の重い扉をこじ開けた96年アトランタ五輪アジア予選の印象が強烈だ。その時の正GKは川口氏、控えのGKは下田崇氏だった。その2人が今は下田氏がA代表の、川口氏が五輪代表のコーチとして互いを支え合う。アトランタ五輪代表のコーチだった私としては「そんな時代になったんだなあ」と感慨もひとしおだ。

今、川口氏は手が空いているときは静岡県の御殿場にあるJFAアカデミーで少年たちの指導にもあたる。コーチする側に回って現役時代の殺気はすっかり薄れ、人間的に丸くなって先輩コーチたちの意見にも謙虚に耳を傾けている。現役時代の実績は脇に置いて、ゼロからいろんなことを吸収しようとしている。

選手にしてもコーチにしても人材育成には時間がかかる。短期的成果など簡単には出ず、10年先、20年先をじっくり見据えて取り組む以外に道はない。川口氏も、まだまだ指導者としては駆け出しだが、28年ぶりに五輪に出場したGKがW杯を4回も経験し、今度は東京五輪で指導する側に回るという時代の移ろいに、日本サッカーの成熟のようなものを感じる。

高校生向けのオンライン講義で、講師を務めた川口能活氏(中央左)は五輪代表のGKコーチに就任した=共同

過去の出来事を知っていれば、将来に備えられる確率は高まる。歴史を知っていることは大きな武器で、それを集団としてつないでいけたら、サバイバルできる確率もおのずと高まるだろう。

今季のJリーグは広島の大迫(20)に続くかのように清水の梅田透吾(20)、仙台の小畑裕馬(18)、湘南の谷晃生(19)ら若いGKがどんどん出てきている。ひとえにJクラブの育成力のたまものであり、彼らに活躍の場を与える監督たちの勇気も素晴らしい。

そういう前途ある若者たちに、川口氏やその良きライバルだった楢崎正剛氏、そして川島永嗣(ストラスブール)のような偉大な先達が持つ有形無形の財産がうまく継承されたら、日本サッカーは確実に次のステージに上がれると確信している。

(サッカー解説者)

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