「生きる権利支えて」ALS患者ら「安易な安楽死」批判

2020/7/24 19:12 (2020/7/24 23:33更新)
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ALS(筋萎縮性側索硬化症)の女性患者の嘱託殺人事件を受け、ALS患者らは「長年の支援活動で患者が生きる選択肢が広がっている」と呼びかけている。回復の見込みのない患者は安楽死を望むことがほとんどという。患者らは「死ぬ権利の前に生きる権利に向き合って」と訴える。

「『死にたい、死にたい』と2年もの間、思っていました」。貿易会社に勤務し海外を飛び回っていた舩後靖彦さんは42歳だった2000年にALSと診断され、退社した。「できないことがだんだんと増え、全介助で生きることをどうしても受け入れることができなかった」と振り返る。

しかし患者同士が支え合う活動を通じ、「自分の経験が他の患者さんたちの役に立つ」と知り、人工呼吸器を着けて生きることを決心した。

12年には訪問看護を通じて知り合った看護師が社長を務める介護関連会社の副社長に就任。19年の参議院選挙で当選し、ALS患者初の国会議員になった。舩後さんは「呼吸器装着を選ばなければ今の私はなかった。死ぬ権利より生きる権利を守る社会をつくることが私の使命」と前を向く。

ALSは介護する家族の負担も大きい。NPO法人「ALS/MNDサポートセンターさくら会」(東京)の副理事長、川口有美子さんがALSの母の在宅介護を始めたのは1995年。2000年に介護保険がスタートしても呼吸器からの痰(たん)吸引は「医療行為」としてヘルパーができず、24時間で対応する家族は疲弊していた。

川口さんは患者の橋本操さんとともに全国の患者家族に呼びかけて約18万筆の署名を集めた。厚生労働省は03年にヘルパーの痰吸引を容認した。

その後も20時間の研修でヘルパーを養成できる事業を活用し、主婦や学生、フリーターなどを重度障害者のヘルパーに育成。自らヘルパー派遣会社も設立し、ほかの患者や家族の生活を支えられるようになった。

「本人や家族の長年の活動で、患者が生きる選択肢が広がっている。まばたきでコミュニケーションして働き、20年以上生存している患者もいる」という川口さん。日本では約3割の患者が呼吸器を着けて長期生存しており、海外の患者会から驚かれているという。

スイスでは自殺を助ける行為が容認されている。自殺目的の渡航をあっせんする支援団体「ディグニタス」もある。

「ディグニタスでの安楽死を受けたいと考えています」。今回2人の医師に安楽死を依頼したとされる女性患者は、各国の安楽死の実態を取材して著書「安楽死を遂げるまで」を出版したフランス在住のフリージャーナリスト、宮下洋一さんに18年4月、ツイッターで相談していたという。

「付添人が必要です。付添人が自殺ほう助罪に問われるか?という問題にぶち当たっています」と相談する女性。女性のSNS(交流サイト)によると、死亡3カ月前の19年8月には都内で開かれた宮下さんが登壇した安楽死を巡るトークイベントにも参加していた。宮下さんには多くの相談メッセージが寄せられるが、女性を含めて返信していない。

海外での安楽死の現場を取材した宮下さんは「最初は生き方の反映としての死に方の安楽死はすばらしいと思っていたが、長い議論の末に各国が受け入れたことを実感した」という。そのうえで「自分に寄せられる相談は現実から逃避するために安楽死を希望する人が多い。逃げざるを得ない環境に社会が向き合っていない」と指摘する。

「死ぬ権利はあるか」の著書がある横浜市立大学の有馬斉准教授(倫理学)は「日本では積極的安楽死が認められていない。今回の事件ではSNSで知り合った医師が患者の状況をどれだけ知っていたのか」と批判する。

01年に世界で初めて安楽死を合法化したオランダは原則として、本人だけでなく家族の状況を知るかかりつけ医が判断しているという。有馬准教授は「日本の社会保障は海外より受け皿が広く、選択肢は複数ある。女性が安楽死を選ぶ前の情報は十分だったのか」と疑問を投げかけている。

(社会保障エディター 前村聡)

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