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税制優遇措置を得たJリーグ 三方良しの制度設計を

スポーツコンサルタント 杉原海太

コロナ禍にあえぐスポーツ界にあって、6月に報じられた、Jリーグを構成するJクラブの親会社に、ある税務上の特例を認めるというニュースは朗報だった。興行的な価値のみならず、スポーツの社会的な価値が公に認められてきた証しとして。これからは、そのメリットをスポーツ界全体に広げていくスキームが必要になるのだろう。

その特例は、これまでプロ野球球団の親会社にだけ許されたものだった。1954年に出された国税庁の通達に基づくもので、年度内に生じた球団の赤字を親会社が広告宣伝費などの名目で穴埋めした場合、全額非課税の損金として処理できるというもの。今後はJクラブの親会社も同じように扱われるという。

評価されたJリーグの地道な努力

Jクラブが税制面でプロ野球と肩を並べる格好になったのは、93年のスタート以来、Jリーグが地道に積み重ねた努力が評価されてのことだろう。単なる企業スポーツの枠を越え、地域密着を理念に数多くの地域貢献活動を行ってきた。スポーツ振興くじ(toto)の対象となり、選手強化やスポーツの環境を整備する原資を生む手助けもしてきた。Jリーグを母体とするサッカー日本代表の試合は今や国民的関心事となった。そういう努力と実績がなければ、おいそれと税制上の優遇措置を受けられないだろう。

先輩のプロ野球も変わった。親会社による赤字の補填は、球団がいつまでたっても親離れできない"元凶"のようにみられた時代があった。しかし、世が平成に変わり、IT系の新興企業を親会社に持つ球団が球界に増えるに従って、経営の自立は当然の目標となり、赤字を垂れ流す甘えの構造を確実に過去のものとした。

これには、新しいオーナー(企業)の登場とともに、新しいタイプの経営人材が球界に流入したことが大きくあずかっているのだろう。新規参入組がもたらした人材の流動性により、今までになかったアイデアや手法が球団経営に持ち込まれ、球団ひいては球界全体が大いに活性化した。

新規のチャレンジャーが、"スポーツ村"に風穴を開けたという意味で、現在のプロ野球はその成功例といえるように思う。

こうなると気になるのは、平成に大成功を収めたJリーグの、令和における成長戦略である。プロ野球と同様の税制上のメリットがあると知れば、より大きなプランとそれに見合った投資を図る、新規のオーナー(企業)の参入も今後ありえるように思うからだ。そういう動きを促進するには、平成の世に成功をもたらした制度設計に、新たなチューニングを施す必要がある。そんな思いが私の頭の中を駆け巡るのである。

平成のJリーグは、メセナや地域に対する企業の社会的責任(CSR)の観点から、例えば前身の日本リーグ時代は「松下電器サッカー部」だったものが「ガンバ大阪」という名称で戦うことにした。親会社の松下電器(現パナソニック)は控えめに振る舞うことで、ガンバの公共財としての存在価値を高め、地域の行政や市民の支援をとりつけやすくした。地域を巻き込むという意味で、企業スポーツ文化が主流の日本において画期的な成長モデルだったように思う。

親企業が前面に出れば相乗効果も

しかし、時代はさらに変化した。今は企業が社会を良くする活動に積極的に関わるのが当たり前になっている。投資の世界でもESG(環境・社会・企業統治)に配慮しながら投資するのが世界的潮流になりつつある。そういう時代には親企業はオーナーシップを遠慮がちに使うのではなく、むしろ前面に出して、「我が社はJリーグとクラブと一緒になって、こんな社会の実現を目指します」と本気で訴えてもらった方が、お互いに相乗効果をもっと出せるように思うのである。

昭和や平成の時代は、広告宣伝やブランディング等にスポーツを効果的に活用できている企業はまだまだ限られていて、依然として多くの企業にとっては本業で利潤を追求することとスポーツに投資することの両立は難しいというイメージがあった。単なるコストセンターとしてみられがちで、経営が苦しくなればチームは真っ先に切り捨てるものという発想もその表れであろう。

今は必ずしもそうではない。スポーツのチームが持つ社会的な価値や影響力を、本業につなげ、企業にも、社会にも、スポーツにもプラスになるような、三方良しの仕組みを、やりようによっては構築できる時代になりつつある。未曽有のコロナ禍のなかにあっては余計にそういう共創が望まれると思うのである。

企業の本気を引き出すために、地域に偏り過ぎていたバランスを少しだけ企業の方に戻すことも考えていい気がする。例えば、呼称に企業名を入れたいところは、それでインセンティブが上がるなら、入れればいいと思う。プロ野球は「東北楽天ゴールデンイーグルス」と名乗って何の問題ない。Jリーグも「パナソニック・ガンバ大阪」と名乗っても、これまでの実績を考慮すれば、怒る人は少ないのではないか。企業を中心に発展してきた日本独特のスポーツ文化らしいとも思うのである。

スポーツは大きく分けて、広告宣伝媒体としての価値と社会的な価値がある。

社会的な価値の「見える化」の動き

前者は現在のスポーツビジネスのメインストリームといえるもので、五輪やサッカー・ワールドカップのようなメガイベントはその価値を極大化し、莫大な収益を上げてきた。視聴者数や視聴率、メディアの露出量など分かりやすい指標もあって、財布のひもを握る各ステークホルダー(利害関係者)の意思決定を促しやすい。

一方、社会的価値の方は説明が難しい。スポーツビジネスに関わった人なら誰でも覚えがあると思うけれど、社内でも社外でも役所でも、スポーツに詳しくない上長に説明するときにこちらはひどく難渋する。「説明できないとダメ病」と名付けたくなるような環境下では、まったくもって不利な状況に追い込まれやすい。

その道を切り開こうとしてか、欧州サッカー連盟(UEFA)は「SROI(Social Return On Investment)」という概念を使うようになっている。サッカーを支援すること、サッカーに投資することで、社会にどれだけ良いリターンがあるかを「見える化」するプロジェクトである。草の根のサッカー活動が人々のより良い暮らしにどれほど役立っているか。健康へのインパクトや教育的なインパクトといった項目ごとにメリットを可視化し、金額に換算していく。

こういう考えが広く世の中に浸透していくと、スポーツの持つ社会的価値の方も、これから認知が進むのだろう。

プロ野球に続いてJリーグが税務上の優遇を受けることは、既にあるプロリーグ、これからリーグのプロ化を考えているラグビーなどにも励ましになる話だろう。これを歴史と伝統を誇るプロ野球、世界的な人気を誇るサッカーにだけ与えられた特権と解し、あきらめるのはどうかと思う。Jリーグへの認証は、そのスポーツに社会的な価値があると伝えられたら、公的機関と交渉の余地があることを知らせてくれたように思う。

2021年秋のスタートを目指す女子プロサッカーリーグの「WEリーグ」にしても「Women Empowerment」という頭文字が示すように、女性を後押しして活力ある社会の実現を目指すというコンセプトをうたっており、単なる女子のプロサッカーリーグの興行にとどまらず、社会的なインパクトを念頭に置いている。企業チームも存在する女子サッカーにおいて、広告的価値と社会的価値を両立させようとする試みは、「社会良し、企業よし、スポーツ良し」の新たな制度設計の先駆けとして大いに期待したい。

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