タツノオトシゴ養殖を事業化へ 静岡商議所や東海大
静岡商工会議所と東海大学が10年間かけて研究していたタツノオトシゴの陸上養殖が近く事業化される。東京の不動産会社が技術移転を受けて参入し、強壮剤などの原料として国内外に販売する。近年は乱獲が問題視されており、養殖物の流通が軌道に乗れば資源保護にもつながりそうだ。

このほど静岡商議所傘下の新産業開発振興機構(静岡市)と東海大学海洋学部(同)、不動産の売買などを手がけるショアース(東京・北)の3者が契約を交わした。

養殖するのは、タツノオトシゴの一種であるクロウミウマ。同社は瀬戸内海の怒和島(松山市)に養殖プラントを建設し、東海大から提供される国産クロウミウマを養殖する。2021年内にも乾燥品を初出荷できる見通しだ。まず年間5トンの生産を目指し、3年後には10トン程度まで伸ばす考えだ。当面は10人程度を雇用する。河西利紀社長は「過疎地での雇用創出につなげたい」と話す。
中国の伝統医学、中医学ではクロウミウマは滋養強壮に効果があるとされる。国内のサプリメントや栄養剤のメーカーに売り込むほか、中国向けにも輸出する。事業売上高は5年後に30億円を見込む。3年間で養殖システムを確立し、ベトナムなど海外での生産も計画している。
静岡商議所は10年から東海大学と組んで研究を進めてきた。ふ化後10日~2週間で8~9割が死んでしまうという生存率の低さが養殖の壁だった。水温や水質、エサなどの研究を重ねた結果、6割以上が生き残るようになり、直近では9割の生存率を記録している。世界でも例がない歩留まりの高さを実現するノウハウを独占的に提供する。
タツノオトシゴは近年、乱獲や生存環境の悪化で急減しており、野生生物の取引を規制するワシントン条約の「付属書2」に掲載されている。東海大学海洋学部の秋山信彦学部長は「人間が必要としている分を養殖で確保できれば天然資源に影響を与えない。自然の保護と利用を両立させられるという意義がある」と強調する。
一方、今回の事業化を機に新産業の創出の難しさも浮き彫りとなった。静岡商議所では同機構が中心となって市内での産業育成に取り組んでいるが、クロウミウマの陸上養殖は市場規模や相場変動の激しさといった要因から参入に名乗りをあげる地元企業はなかった。ショアース側の打診を受けて再始動するまで、研究開発は5年ほど塩漬けとなっていた。
機構を設立した01年以降30~40件の研究テーマがあったが、事業化にこぎ着けたのは10件前後にとどまる。同商議所の赤堀弘英・産業振興部長は「景気動向にも左右される。良い物だからといって商業的に成り立つものばかりではない」と話す。事業化後もコスト高や販路開拓の難しさから撤退する事業者も少なくない。「大学と種をまき企業と育てることが使命。地元経済の活性化のため今後も数を打っていく必要がある」と強調する。(福島悠太)