新型コロナワクチン、たとえ完成しても楽観できない
日経バイオテク編集長 坂田亮太郎

BP速報
2020/7/22 18:15
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新型コロナのワクチンは世界中で熱望されているが、より多くの人が接種しなければ効果は減少してしまう=ロイター

新型コロナのワクチンは世界中で熱望されているが、より多くの人が接種しなければ効果は減少してしまう=ロイター

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この半年間の世界の変わりようを振り返ると、ただただ唖然(あぜん)とするしかありません。中国内陸部で重症急性呼吸器症候群(SARS)に似た感染症が発生したようだ──と日本に伝わったのは2019年の大みそかでした。武漢市の保健当局が「原因不明の肺炎が発生した」と正式に発表。当初から台湾のように厳格で科学的な施策を各国が徹底できていれば、今のような惨状は防げたのかもしれません。

3月になるまで感染者はアジアに集中しており、欧米では新型コロナウイルス感染症は「アジアの病気」という誤った認識が広がっていました。その後、感染の中心が欧州や米州に移ったのは皮肉としか言いようがなく、再びアジアに押し寄せるという悪循環が起きつつあります。

この悪い流れを断ち切るための切り札として期待されているのがワクチンです。1年延期となった東京五輪・パラリンピックが2021年夏に開催できるかどうかも、世界経済がV字回復はおろかU字回復するかどうかも、ワクチンの開発が成功するかどうかにかかっていると言っても過言ではありません。

ただ、ワクチンには通常の医薬品とは異なる難しさがあります。よく指摘されるのが「生産」と「物流」の課題です。世界の人口は80億人に迫っており、それだけ多くの人にワクチンを供給するのは至難の業。どうしても順番をつけざるを得なくなり、米国や中国など覇権国が我を通そうとすれば新たな火種となるのは必至です。

製薬バイオ業界は、ワクチンの価格にも注目でしょう。人類の危機を目の前にしてありったけの開発リソースをつぎ込んでいるのですから、「イノベーションの価値」を適正に評価してほしいと願うのは自然なことです。

■集団免疫は国民の協力あってこそ

ワクチンを打ちたくないという人が一定数いることも懸念すべきことです。ワクチン忌避は古くて新しい問題ですが、ここ最近は科学的に根拠の乏しい反ワクチン派の「主張」がSNS(交流サイト)などを介して流布しやすい状況にあります。世界保健機関(WHO)は「世界の健康に対する脅威(2019年)」のトップ10のうちの1つに、この問題を取り上げています。

実際、米国では米CNNが5月に実施した世論調査で、3分の1が「コロナワクチンを受けない」と回答しています。米国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長は最近、初期のワクチンは有効性が高くなく、かつ接種を希望する人が多くはないことから、集団免疫を獲得するのは難しいとの見解を示しています。

日本ではどうでしょうか。日本では、結核や麻疹など13種類の疾病(A類疾病)について定期予防接種を受けることは、国民の努力義務となっています。一方、インフルエンザなどB類疾病は、努力義務も課されていません。いずれも法的拘束力は無く、ワクチンを打つかどうかの判断は本人または保護者に委ねられています。新型コロナのワクチンについては、その緊急性からより幅広い国民に接種する法的枠組みが必要となるはずですが、そのような議論は国会からは聞こえてきません。

ワクチンは健康な人に投与するので、効果よりも有害事象の方が目立ちやすいという宿命があります。それでも多くの人が免疫を獲得することで、感染症に対して保護機能が発揮できることを国民に対して丁寧に説明する必要があります。メディアもワクチン接種後の有害事象をことさらに強調することは避けるべきだと考えます。子宮頸(けい)がんワクチンをめぐるこれまでの経緯を振り返ると、楽観はできません。

[日経バイオテクオンライン 2020年7月22日掲載]

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