米、対中包囲網へ欧州に連携迫る 国務長官が訪英

トランプ政権
2020/7/22 0:31 (2020/7/22 5:56更新)
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英国を訪れたポンペオ米国務長官(左)はジョンソン英首相と会談し、対中政策での協力を確認した(21日、ロンドン)=ロイター

英国を訪れたポンペオ米国務長官(左)はジョンソン英首相と会談し、対中政策での協力を確認した(21日、ロンドン)=ロイター

【ワシントン=中村亮、ロンドン=中島裕介】トランプ米政権が中国包囲網を狭めるため、欧州に対中政策での連携を迫っている。新型コロナウイルスの発生で中国への不信感が欧州で高まり、次世代通信規格「5G」や香港、南シナ海といった安全保障分野で協力を深める好機とみる。中国と経済関係の深い欧州諸国は対中強硬の度合いで米国と温度差が残る。

「このソーシャルディスタンス(社会的距離)は、米英関係の距離とは違うからね」。英国を訪問中のポンペオ米国務長官は21日、英首相官邸そばの屋外で会談相手のジョンソン首相にこんなジョークで迎えられた。

英政府によると、会談では香港問題や新疆ウイグル自治区での人権侵害など中国を巡る懸念を共有し、対中政策での協力を確認した。英国が2027年までに製品の排除を決めた中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)についても意見交換したもようだ。

米ヘリテージ財団のナイル・ガーディナー氏は今回の訪英に関し「対中政策について英国を欧州のモデルとして扱い、他国に追随を促す狙い」と指摘する。コロナの影響下でもポンペオ氏が対面形式でジョンソン首相らと会談するのは、対中政策での米英結束を中国だけでなく、欧州諸国にも発信するためだとみる。

米国は攻勢を強める。エスパー国防長官も21日、英シンクタンクの国際戦略研究所(IISS)のオンラインイベントで、北大西洋条約機構(NATO)加盟国がファーウェイ製品を採用した場合に「同盟国との情報共有に著しい支障が生じる」と語り、採用しないよう重ねて呼びかけた。一方でエスパー氏は年内の訪中に意欲を示した。オブライエン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は先週、フランスを訪れて英独仏高官と中国への対応を協議した。

米ハドソン研究所のピーター・ラフ氏は「中国の強引な外交政策によってコロナ前よりも米欧が対中政策で協力しやすくなった」と指摘する。中国投資の受け入れやファーウェイに関するリスクを共有し、「具体的な対策を講じる機運が高まっていく」とみる。欧州はロシアによる領土拡張の脅威への対応で米国に依存しており、引き換えに南シナ海問題では米国に協力する素地がある。

英トニー・ブレア・グローバル変動研究所が6月にまとめた世論調査によると、コロナ発生前より中国政府への印象が悪化したとの回答は英国とフランスでそれぞれ60%と55%に達し、米国(54%)を上回った。ドイツも46%が悪化したと答えた。同研究所は「米欧の政治家が中国に対処しないことが難しくなった」と指摘する。

米政権には欧州が中国との経済的利益を優先し中国に手ぬるいとの不満があったが、コロナや香港問題をきっかけに欧州が対中姿勢を修正する可能性に期待する。

一方で中国は米欧の連携を阻止するため欧州を揺さぶる。米メディアによると、欧州連合(EU)加盟国がファーウェイを5Gから排除した場合、フィンランドのノキアやスウェーデンのエリクソンが中国国内でつくった製品を輸出できないようにする規制を検討している。香港との犯罪人引き渡し条約の停止を決めた英国にも報復措置を近く講じる可能性がある。

米政権の欧州政策が対中協力に影を落とすリスクもある。米国務省は15日、ドイツとロシアのガスパイプライン計画「ノルドストリーム2」に投資する個人や企業に制裁を辞さない構えを見せた。米財務省で経済制裁を担当したブライアン・オトゥール氏は「独企業に制裁を科せば雇用悪化にもつながりうる。米独関係が大きく傷つく」とみる。米国はフランスともデジタル課税や貿易で対立を深める。

トランプ大統領は駐独米軍縮小を一方的に決め、米欧はロシアへの抑止力の再構築を迫られている。米政権は「最大の脅威は中国、その次がロシアだ」(エスパー国防長官)と主張するが、欧州にとって当面の最大の脅威は地理的に近いロシアとの見方が多い。

■英の強硬徹底 見通せず ジョンソン首相ら英政権の首脳は中国への監視や圧力が必要との米政権の主張に同調する。新型コロナウイルスの対応や香港問題で不信感が広がり、かつて称された英中の「黄金時代」の継続を望む声はほぼ消えた。ただ中国への依存を深めた経済を抱える中で、どこまで対中強硬路線を徹底できるかは不透明だ。
 ラーブ外相は20日の声明で、香港と結んだ犯罪人の引き渡し条約の停止を表明すると同時に、新疆ウイグル自治区でのイスラム教徒への人権侵害の問題も批判した。中国に対し、大国に見合った「国際的な義務や責任を果たすべきだ」と求めた。
 英政府は7月に入り、香港住民の英国への移住促進や、次世代通信規格「5G」分野での中国通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)の排除など、反中的な措置を矢継ぎ早に打ち出してきた。同盟関係にあるトランプ米政権からの圧力が最大の要因だが、英政界が政権に対し強硬姿勢を求めている点も大きい。
 英政府は6日、国際的な人権侵害事件の加害者に独自に経済制裁を科す新制度を創設した。対中強硬派の議員からは「香港国家安全維持法」の施行やウイグル問題に関わる当局者に英国の金融機関との取引を止めるなどの制裁を科すべきだ、との声も上がる。
 ただジョンソン首相は20日、記者団に「全ての問題で反中的な立場になるつもりはない」と述べ、米国のような中国敵視論とは一線を画す考えを示した。中国との貿易は赤字とはいえ、輸出がここ10年で4倍に増えるなど、英経済に欠かせない市場になっている。
 中国国有の中国広核集団が英南西部の原子力発電所建設に出資するなど、中国マネーは基幹産業にも深く入り込んだ。英経済界では「欧州連合(EU)を離脱して中国とも離れ、どう経済を成り立たせるのか」(金融機関幹部)との意見も根強くある。

(ロンドン=中島裕介)

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