気候変動に30% EU、92兆円の復興基金合意

2020/7/21 20:30
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懇談するメルケル独首相とマクロン仏大統領(21日)=ロイター

懇談するメルケル独首相とマクロン仏大統領(21日)=ロイター

【ブリュッセル=竹内康雄】新型コロナウイルスで打撃を受けた経済の再生に向け、欧州連合(EU)は環境とデジタル分野を中心に据える構えだ。21日閉幕した首脳会議で合意した復興基金案を含む中期予算案で、30%を気候変動分野に投じる。次世代型の持続可能な経済への転換を急ぎ、成長につなげる狙いだ。

「環境やデジタルなど、欧州の未来に投資するものだ」。21日早朝、首脳会議閉幕後の記者会見でフォンデアライエン欧州委員長は力を込めた。

首脳会議で合意したのは、2021~27年のEU中期予算案(1.824兆ユーロ)と、その一部をなす新型コロナ対策の復興基金案(7500億ユーロ=約92兆円)だ。中期予算のうち、30%を気候変動対策にあてる。EUが掲げる50年に域内の温暖化ガスを「実質ゼロ」にする目標の実現につなげるためだ。

具体的にどんな事業に活用するかは各加盟国が決定する。再生可能エネルギーや電気自動車(EV)の普及に加え、水素や燃料電池の研究開発、ビルの省エネなどが中心になるとみられている。

新型コロナの被害が大きいイタリアやスペインなど南欧を中心に復興基金の資金を分配する。根底にあるのが、コロナをきっかけに次世代型の経済の転換につなげたいとの思いだ。エネルギー多消費型から、リサイクルやシェアリングエコノミーが根付いた持続可能な社会への脱皮を目指す。

7500億ユーロはEUの欧州委が債券を発行して全額を市場から調達する。共通債券の償還期間は最大30年で、加盟国からEUへの拠出金の増額と、EUの新規財源を償還に充てる。自らの政策決定の裁量が増える独自の新規財源は、EU本部にとって長年の悲願だ。

首脳会議では21年にも再利用できないプラスチックへの新税を導入するほか、国境炭素税やデジタル税の検討を進めることで一致した。EUの排出量取引制度の対象拡大や、金融取引税の創設も視野に入れる。実現すれば年間数百億ユーロ規模の歳入増になるとみられる。

だが、足かけ5日間に及んだ「マラソン交渉」は合意を得るために犠牲を生んだ。大きな要因はいったんお金をEU予算に支払った後に払い戻される「リベート」の存在だ。これはかつて英国だけに特別に認められた制度で、事実上加盟国の負担を減らす内容だ。EUは復興基金案への同意を得るために、オランダなど財政規律派にリベートを提示し、交渉の段階でその額を積み増した。

その結果、研究開発や保険関連、ポーランドなど石炭依存国に省エネルギーへの転換を促す予算は当初案から削られた。

最後まで首を縦に振るのを渋ったのは、オランダやオーストリアなどの首脳だ。「放漫財政を続けている」と南欧には厳しい視線を注いでいる。この問題に対応するため、1つ以上の加盟国が援助を受け取った国でお金が適切に使われていないと判断した場合、EU首脳会議で協議できる仕組みを導入することを決めた。

■マラソン交渉 曲折5日間 欧州連合(EU)首脳会議が開幕した17日はメルケル独首相の66回目の誕生日だった。マクロン仏大統領からブルゴーニュ産の白ワインを贈られる一幕もあったが、メルケル氏の表情は険しかった。「とても難しい交渉だ。今回、合意できるかはまだ言えない」
 メルケル氏の言葉通り、5カ月ぶりの対面形式の会議は荒れた。新型コロナウイルスの被害の大きい南欧と、財政規律を重視する北部欧州の対立は想像以上に大きかった。初日の協議を終えた17日夜、オランダのルッテ首相は「我々の要求が通らなければ、妥協を阻止し続けるのを恐れない」と言い切った。
 イタリアのコンテ首相はルッテ氏に「一時的には自国でヒーローになれるかもしれないが、数週間後にはすべての欧州市民に責任を負うことになる」とEU規模で判断するよう迫った。
 象徴的だったのが19日夜の全体会合だ。オーストリアのクルツ首相が電話を取るために部屋を出た。それを見たマクロン氏は「皆さん、見ましたか。彼は人の話を聞かない。態度も悪い」と机をたたいてこき下ろしたという。これを聞いたクルツ氏は翌日、「疲れているのだろう」と素っ気なかった。
 流れが変わったのは20日の昼から夕方にかけてだ。ミシェルEU大統領が財政規律派の主張を大幅に取り入れ、補助金を減らして「リベート」を増やす案を提示。「良い案だ」。ルッテ氏らからそんな声が漏れ始めた。閉幕は21日午前5時半ごろ。今回の首脳会議は2000年に仏ニースで開かれた首脳会議に次ぐ過去2番目に長い会合だった。

(ブリュッセル=竹内康雄)

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