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断層の「ドミノ効果」 大地震の確率3~5倍、米西部

ナショナルジオグラフィック日本版
2019年7月4日に発生したリッジクレスト地震(マグニチュード6.4)で、米カリフォルニア州トローナ付近の道路に生じた亀裂(PHOTOGRAPH BY FREDRIC J. BROWN, AFP VIA GETTY IMAGES)

米カリフォルニア州南部の大地には、巨大な「Z」の文字を刻むように3つの断層が走る場所がある。Zの上の線にあたる断層はリッジクレスト断層といい、曲がりくねった何本もの亀裂があり、2019年にリッジクレストの町を襲う地震の引き金となった。Zの斜めの線は、そこから西へ向かっている太古のガーロック断層。そして下の線が、巨大なサンアンドレアス断層だ。

米カリフォルニア州を縦断する約1300キロのサンアンドレアス断層は、大都市ロサンゼルスの近くを通っている。この断層で大きな地震が起こる可能性が懸念されてきたなか、新たな研究で、1年以内に大地震が起こる確率がこれまで考えられていたより3~5倍ほど高くなっていることが示唆された。

20年7月13日付で学術誌「Bulletin of the Seismological Society of America」に発表された論文によると、19年7月に発生したリッジクレスト地震によって、その近くのガーロック断層沿いで将来地震が起こる確率が高まったという。そして、その地震がある程度以上の大きさであれば、さらにサンアンドレアス断層で地震を引き起こす恐れがある。

とはいえ、懸念されている通りにすべての地震が起こる確率は低い。研究チームは、今後1年以内にガーロック断層でマグニチュード7.7の地震が起こる確率は2.3%で、それが引き金となって、サンアンドレアス断層で同規模の地震が起こる確率は1.15%としている。

「ですから、もう運命は決まったというわけではありません」と話すのは、地震などの災害によるリスクを評価する会社「テンブラー」の最高経営責任者で、論文共同執筆者のロス・スタイン氏だ。「けれど、リッジクレスト地震が発生しなかった場合と比較すると、確率は著しく高くなったと考えています」

地震の確率を計算するのは極めて困難だ。地震を引き起こす深い断層では、亀裂や溝が恐ろしく複雑に入り乱れ、絡み合っていることに、科学者たちは気づき始めている。

また、断層は互いに作用しうる。1本の断層が動くと、別の断層にかかる応力(ストレス)が増して次々に地震を起こす場合がある。カナダ、マギル大学の地質学者アレッサンドロ・ベルデッキア氏はそれを「ドミノ効果のよう」と表現する。ベルデッキア氏は今回の研究には参加していないが、この最新モデルは、そのシナリオが実際に起こる確率を評価したものだ。

ドミノの倒れ方

サンアンドレアス断層は、北米プレートと太平洋プレートの境界をなしている。太平洋プレートは北米プレートとこすれ合いながら北西方面へゆっくりと移動しているため、2つのプレートの境界線に応力が蓄積される。この応力がたまりにたまって解放されたときに、地表で地震が起こる。

過去100年間でカリフォルニア州では多くの地震が発生しているが、最後にサンアンドレアス断層を震源とする大地震が起こったのは1906年のこと。マグニチュード7.9の地震が発生し、300キロにわたって地表に断層があらわれ、サンフランシスコでは多くのビルが倒壊して、3000人以上が死亡した。米国史上最も多くの死者を出した地震だった。

最新の研究では、19年のリッジクレスト地震によって今度はカリフォルニア州南部で大きな地震が起こる確率が高まったという。

リッジクレスト地震は、2回に分けて発生した。まず、7月4日にマグニチュード6.4の地震が、翌5日にはマグニチュード7.1の地震が起こった。その結果、周囲の地形がゆがめられ、応力はガーロック断層など付近にある断層へ移動した。

この応力の変化を調べるため、スタイン氏は論文共著者で東北大学の遠田晋次教授とともにリッジクレスト地震の際に断層沿いで起こった動きからモデルを作成した。これに、過去に起こった多くの地震データも取り入れると、縦横無尽に亀裂が入った断層が描かれた。

モデルによると、リッジクレスト地震の後1年以内にガーロック断層沿いでマグニチュード7.7の地震が起こる確率は8%だった。結局、1年経って地震は起こらなかったが、リスクが完全に消滅したわけではない。それどころか、今後1年間でそのような地震が起こる確率はまだ2.3%残っていると、最新のモデルは示している。この数字は、過去のモデル予測より約100倍も高い。

スタイン氏らの計算では、ガーロック断層でマグニチュード7.5以上の地震が起これば、南のロサンゼルスへ向かって伸びるサンアンドレアス沿いで別の地震を誘発する恐れがある。

「確率が引き上げられたという事実は興味深いです。私たちももう少し詳しく調べたほうがいいかもしれません」と、南カリフォルニア大学の地球物理学者ジョン・ビダーレ氏は言うが、まだ多くの不確実な点が残されているとも指摘する。そして、ガーロック断層で破壊が起きる確率が最も高い時期は既に過ぎており、新たなモデルが出たからと言って「これまで以上に怖がる必要はありません」と話す。ビダーレ氏は、今回の研究には参加していない。

とはいえ、この研究は、地震の多い国に住むすべての人へ、地震への備えを今一度確認させる良い機会であると、スタイン氏は言う。もしガーロック断層で地震が起これば、その数週間後~数カ月後、あるいはもっと後になってサンアンドレアス断層でも地震が起こるかもしれないということだ。いずれにしても、この地域でいつか地震が起こることは避けられないだろう。

注目されるサンアンドレアス断層

最新のものも含め、全てのモデルは、驚くほど複雑な地球を単純化させた前提の上に作られている。例えば、今回のモデルは液体の相互作用の複雑さを考慮していない。英リバプール大学の地球物理学者でスペイン国立研究協議会(CSIC)の一員でもあるパブロ・ゴンザレス氏は、これが長い時間をかけて断層の応力を変化させる場合があると指摘する。ゴンザレス氏も、今回の研究には関与していない。

ほかにも、モデルは地面の構成がどこも同じであるという前提に立っているが、ガーロック断層は数百万年の間に65キロほどずれたため、北側と南側では岩石の種類が違うと、ゴンザレス氏は言う。

オレゴン州立大学の地震地質学者クリス・ゴールドフィンガー氏も研究には関与していないが、地震予知にとって特に難しい問題は、断層にあとどれだけの応力がかかれば地震が起きるのかがわからない点だと指摘する。

「サンアンドレアスに関しては、不安定な前提を基にした予測が多いです。私はロサンゼルスにいても、他の町にいる皆さんと同様普段通りに生活します」

(文 MAYA WEI-HAAS、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年7月16日付]

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