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信じてこそ育つ 若手の開花促す監督の確信

編集委員 篠山正幸

「君は安田(尚憲)の力を疑ってはいないだろうね」。ロッテ・井口資仁監督に、逆に質問された気がした。降雨ノーゲームとなった試合、安田の2適時打がフイになり、「残念でしたが」と問いかけたときのことだ。これから先、いくらでも打つのだから、とでもいうような監督の口調に、若い力を伸ばすための秘訣を見た気がした。

7月18日に今季2号のソロ本塁打を放った安田。昨年は1軍出場がなかったが、開幕から出場機会を得ている=共同

安田は大阪・履正社高から入団した2018年に1軍デビューを果たし、17試合、53打数8安打、1本塁打の数字を残した。しかし、昨年は1軍出場なし。オープン戦序盤に好スタートを切りながら、開幕が近づくにつれ、調子を落とした。2軍でじっくり鍛えるというチームの方針もあったとはいえ、本人には悔しいシーズンとなった。

ロッテ・安田、飛躍期し1軍で奮闘

開幕1軍の座を手にした今季は様子が違う。3番指名打者で起用された6月24日のオリックス戦で、中前にはじき返し、1軍で2年ぶりの安打。7月7日の西武戦では高橋光成から、待望の本塁打を右越えに運んだ。

惜しかったのは9日の同カードだ。四回途中まで3-0とリードした試合が、雨が強まったためにノーゲームとなった。二回左前に先制打、三回追加点をもたらす右中間二塁打を放った安田も2安打、2打点が幻となった。

飛躍のきっかけをつかみかけたのに、との思いで井口監督に「(安田は)運が悪かったが、また打ち直すつもりでやってほしいですね」と問いかけた。

質問が終わるより早く、監督は「こういうのは必ず返ってきますから。あまり気にせずに。大丈夫です」

天候などによる運、不運は長い目でみれば、イーブンになる、とはこの業界でよくいわれることだが、このときは「記者さんが心配するまでもなく、安田はこの先何本でも打ちますよ」というニュアンスがこもっているように感じられた。

正直にいえば、今季の安田が「本物」であるかどうか、疑いを抱いていないか、と問われれば、微妙なところがあった。

だが、少なくとも監督は、百パーセントの確信をもって起用している。それがよくわかった。確かに、起用する側が、わずかでも不安や疑念を抱いていたら、育つものも育たないだろう。これは、と目を付けた自身の眼力を含め、絶対の「信」がなければ、若手の抜てきなどできるものではない。

昨季、イースタン・リーグで本塁打王と打点王の2冠を獲得したスイングは、既に折り紙つきだ(中央が安田)=共同

監督の確信はソフトバンクとの開幕3連戦に、すでに表れていた。初戦は代打だったが、2、3戦目は3番で先発起用した。1軍での実績のない選手としては異例の抜てきだった。4打数無安打、5打数無安打に終わり、その後出番のない試合もあった。だが、7月7日の西武戦で7番指名打者で先発させてからは起用し続けている。

井口監督、起用ににじむ選手への「信」

2割に満たない打率を、意に介するふうもない。

「上(1軍)に置くなら、使わないといけない。代打で置いておく(くらい)なら、下(2軍)で出した方がいい、という考えもある」と話したことがある。1軍に置くという決断をしているのだから、成績にとらわれず起用する、という姿勢には一貫したものがある。

監督の「信」を肌で感じているからだろうか。安田も、駄目なら2軍行きが待っている、といった余計な心配をせず、じっくり取り組めているようだ。打撃練習では柵越えを狙って力むふうでもなく、楽にバットを振っている。右中間、左中間を破る打球が多い。

こうした様子をみると、将来は別として、今のところは1発で売る打者というより、中距離ヒッターに徹していく方が合っているような気もする。

そうした自己のスタイルを見つけて、足場を築くまでの打席数を与えられるかどうかが、若手にとってはまず大きな壁になる。おそらく、安田は十分すぎるほどの打席数を与えられるに違いない。

「春先男」に終わった昨季のことを「自分から崩れてしまった」と分析した。オープン戦で当たりが止まりだしたときに、焦り、深みにはまったことをいうのだろう。昨季、守備位置である三塁にブランドン・レアードが加入、どこでも守れる鈴木大地(現楽天)もいて、壁は厚かった。その壁を意識したとき、すでに1軍は遠のいていた。「精神的にタフにならないと」と、2月のキャンプで、課題を口にしていた。

相手は周りのライバルではなく、まず自分。今年はそんな心境で挑んでいるようだ。

昨季、2軍のイースタン・リーグで19本塁打、82打点の2冠に輝き、そのスイングはすでに折り紙つきといっていい。そんな安田といえども、一気に開花とはいかないかもしれない。18日の日本ハム戦で今季2号を放ったが、まだレギュラー格の成績とはいえない。起用する側、される側とも我慢のしどころだ。

首脳陣の我慢がわずかに足りなかったばかりに、日の目をみずに去って行った選手が過去、どれだけいただろう。

ロッテ・井口監督(右)からは、抜てきした若手選手への信頼が感じられる=共同

1962年、4年目のシーズン半ば、一本足打法で開花した王貞治・ソフトバンク球団会長は師匠の荒川博さんによると"タイムリミット"寸前の身だったという。スタンドからは「三振王」のヤジが飛び、チーム内でも「王が打てないから負ける」との声が出始めていた。当時の川上哲治監督はそれでも起用し続けた。王はモノになる、という確信がなければ、できなかったことではないだろうか。

井口監督にも、相当の覚悟がうかがえる。監督として3年契約の最終年。あとがないという点では、安田より切羽詰まったものがあるはずなのに、目先の結果にはあまりとらわれていないようにみえる。

あとは本人。コロナ禍で今年はスタンドでの発声が規制されているうえ、今のファンは優しいので、厳しいヤジが聞こえてくることはない。とはいえ、誰より本人が現在の成績に満足できるはずもなく、監督の信頼がつらく感じられることもあるかもしれない。レギュラー定着にはここを乗り越えてこそ。精神のタフネスぶりが試されるときだ。

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