エアビー創業者、コロナで知ったオンライン体験の価値

日経ビジネス
2020/7/21 2:00
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ジョー・ゲビア氏 米エアビーアンドビー共同創業者。1981年米国生まれ。米ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン卒。2008年、エアビーアンドビー創業。プロダクト開発チーム「Samara」の最高責任者(写真は19年11月、ロンドンで国際オリンピック委員会[IOC]の最上位パートナーになることを発表した際の様子)

ジョー・ゲビア氏 米エアビーアンドビー共同創業者。1981年米国生まれ。米ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン卒。2008年、エアビーアンドビー創業。プロダクト開発チーム「Samara」の最高責任者(写真は19年11月、ロンドンで国際オリンピック委員会[IOC]の最上位パートナーになることを発表した際の様子)

日経ビジネス電子版

新型コロナウイルスの流行によって企業を取り巻く環境が大きく変わったことを示す象徴的な企業の1つが、民泊世界最大手の米エアビーアンドビーだ。

2019年11月、同社は英ロンドンで国際オリンピック委員会(IOC)の最上位スポンサーになると発表した。発表会に出席した同社の共同創業者であるジョー・ゲビア氏は、創業わずか10年超で五輪の最上位スポンサーとなることに対する高揚感に包まれていた。

それからわずか半年で、エアビーを奈落の底に突き落とすような事業環境になってしまった。新型コロナウイルスの流行で旅行ができなくなり、民泊の需要は激減した。同社は五輪の最上位スポンサーになったが、東京五輪・パラリンピックの延期で宣伝活動が難しくなった。社員の急増によるオフィスの確保が悩みだった同社が、5月に全社員の25%に当たる1900人を削減する方針を示した。20年に予定していた上場については、今のところ延期するか否かを明言していない。

スタートアップの雄は、この苦境にどのように向き合うのか。同社が力を入れているのが、ホストが提供するオンライン体験サービスだ。以前からホストによる旅行先での体験サービスの提供に力を入れてきたが、現在はオンライン体験の拡充に注力している。4月上旬からサービスを始め、世界各地の著名シェフによる料理教室や動物との触れ合い体験などが人気を博している。

さらにこの仕組みを発展させる。7月16日、エアビーとIOC、国際パラリンピック委員会(IPC)は、オリンピアンやパラリンピアンがホストとしてオンライン体験を提供するイベント「サマーフェスティバル」を始めると発表した。22日に予約の受け付けを始め、東京五輪の開会式が予定されていた24日から5日連続で100人以上の五輪出場選手や出場予定選手がオンライン体験を提供する。テニスの大坂なおみ選手やバスケットボールの八村塁選手などがホスト役になり、トレーニング方法や思考法などのレッスンを開く。ゲストの参加費用は平均で25ドル(約2700円)程度になるという。

ゲビア氏に今後の旅行業界や経営の展望のほか、アスリートが主催するオンライン体験イベントの狙いなどを聞いた。

――新型コロナウイルスの流行により世界で旅行需要が急減し、多くの航空会社や旅行代理店が経営危機に陥るなど、旅行業界が窮地に陥っています。

「旅行業界が困難に直面しています。毎日、世界中が新型コロナウイルスを理解し、対処するための情報が少しずつ出ています。海外旅行や出張が新型コロナ以前のレベルに戻るには、少し時間がかかると思います」

「そこで、我々は主に2つの挑戦をしています。『Go Near』というキャンペーンで、自宅の近隣で宿泊するニーズを取り込むことです。自宅の近くの宿を予約し、車で移動するなど、国内旅行は大幅に増加しています。人々はあまり遠くに行かず地元を旅行していますが、家族などと豊かな時を過ごしているのです」

「もう1つが、オンライン体験です。旅先などでのリアルな体験ができないため、オンライン体験を提供するというアイデアが生まれました。新型コロナの危機に直面していなかったら、我々はオンライン体験というアイデアにたどり着かなかったかもしれません」

「オンライン形式への移行後、わずか1カ月で上位のホストは2万ドル(約214万円)の売り上げを記録しました。数カ月で、オンライン体験の予約総額は200万ドル(約2億1400万円)以上に達しました」

エアビーアンドビーは、オリンピアンやパラリンピアンがホストとなるオンライン体験を提供する

エアビーアンドビーは、オリンピアンやパラリンピアンがホストとなるオンライン体験を提供する

――24日から5日連続で、オリンピアンやパラリンピアンがオンライン体験を提供するサービスを始めます。どのような狙いがあるのでしょうか。

「オンライン体験の基盤を生かし、IOC、IPCと共同で『サマーフェスティバル』を開催します。オリンピアンやパラリンピアンがスポーツや洞察、知識、物語を世界中の我々のオーディエンスと共有できるようになります」

「世界中の観客にお気に入りのアスリートを観戦し、つながり、そして関わるための新しい方法を提供します。人々は自宅からアスリートと交流できるのです。これはアスリートへの経済支援にもなります。ホストとしてオンライン体験を提供することで、直接的な収入を得られるからです」

■大坂なおみ選手や八村塁選手から学ぶ

――新型コロナの流行で多くの人たちが困難に直面している中、アスリートから学ぶことも多くありそうです。

「オリンピアンやパラリンピアンには、スポーツに信じられないほど献身的で、世界で最高のアスリートと競い合い、あらゆる種類の逆境を乗り越えてトップに上がってきたという最も刺激的な経験があります」

「そして、まだパンデミック(世界的な大流行)に直面している我々は、これらの刺激的な話を聞くことを欲していると思います。目標を実現するためにあらゆる種類の逆境を乗り越えてきたアスリートを直接見て、話を聞くのがとても好きです」

「こうした取り組みには、前例がありません。これまで五輪選手と直接話すための手段を用意した人はいません。このような時代に、人は人とのつながりやひらめきを求めているのではないでしょうか。オリンピックが延期されている今、これは人々の大きなニーズに応える取り組みだと思います」

「フェスティバルに参加したアスリートのうちの何人かは、継続的にオンライン体験サービスを提供するでしょう。何人かはフェスティバルの時だけの参加になります」

「フェスティバルには様々なアスリートが参加します。世界中の人々がテニスの4大大会のチャンピオンである大阪なおみ選手から学ぶ機会を得ます。実際に彼女と直接対話し、テニスを通して彼女がスーパースターになるまでの旅についてもっと聞くことができます。人々は八村塁選手と、バスケットボールでのキャリアについて話すことができるでしょう」

「これまでトップ選手をテレビで見たり、出版物で読んだりできましたが、実際に彼らと話す機会はありませんでした。エアビーアンドビーのゲストたちが、フェスティバルを通じてこれらの素晴らしいアスリートとつながる機会を得られるのです」

19年11月にIOCの最上位スポンサーになることを発表。大会期間中の公式宿泊先になった

19年11月にIOCの最上位スポンサーになることを発表。大会期間中の公式宿泊先になった

――リアルな旅や体験と、オンラインの旅や体験はどのようなバランスになっていくと考えていますか。

「今は安全が、ゲストとコミュニティーにとって最優先事項です。公衆衛生の利益が確保される適切なタイミングになるまで、以前のような(旅の)体験に戻すことはありません。その一方、ネットに接続している人なら誰も参加できるので、オンライン体験は花開くと思います。オンライン体験は、当社にとって非常に明るい未来です」

「今から何年もの間、オンラインとオフラインの両方のオプションを利用できる世界が広がります。どこかに旅行していて、『街にいて何かできますか?』というニーズがあれば、オフラインの体験を提供することになるでしょう」

――4年前に日本でゲビアさんをインタビューした際には、奈良県吉野町での体験を熱っぽく語ってくれました。新型コロナで旅行できない状況はどのような気分ですか。

「私は旅を愛しています。世界中のホストと一緒に、ゲストが本物の旅行をするのを手助けする会社を始めたことは素晴らしい経験です。旅を再開するのが待ちきれません」

「毎回エアビーアンドビーのホストに会うことは喜びの1つです。アウトサイダーをインサイダーに変えることができるのが、当社のホストにとって真の価値だと思います。これは自宅からのオンライン体験でも同じです。ホストはあなたが自分自身で見ることができない世界に連れていってくれます。それがホスティングの真の喜びであるのです」

◇  ◇  ◇

エアビーアンドビーはこれまで、民泊によってホテルの需要を奪う「破壊者」と見られていたが、新型コロナの流行によって旅行業界全体が破壊されてしまった。国連の機関は年末まで各国の渡航禁止などが続けば、約130兆円の損失が出ると試算する。今回のインタビューでエアビー共同創業者のゲビア氏は、従来型の旅行の回復について明確な道筋を示さなかった。

今回発表したオリンピアンやパラリンピアンによるオンライン体験イベントは、アスリートの収入源になるだけでなく、エアビーの新しい収益源を定着させることにも寄与するだろう。同社はリアルな旅行体験を促すプラットフォーマーだったが、その媒介手段がオンラインであったためにオンライン事業の強化に舵(かじ)を切りやすい側面がある。

五輪への投資負担は重いが、当初の想定とは違う形で、同社の未来形を示す土台になるかもしれない。オンライン教室などを提供するサービスは他にもあるものの、エアビーが多くのオリンピアンやパラリンピアンのオンライン体験を提供できるという点は、競合他社に対するアドバンテージになる可能性がある。

ゲビア氏が強調するように、同社にとってホストは重要な経営資源である。旅行需要の急減でホストが活動できず、収入が減少することは経営資源の毀損にもつながりかねない。オンライン事業は、ホストとの良好な関係を維持する点においても不可欠な取り組みになりそうだ。

(日経BPロンドン支局長 大西孝弘)

[日経ビジネス電子版 2020年7月17日の記事を再構成]

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