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豪雨ハザードマップ、4割の主要市区で改定終わらず

浸水区域の指定遅れで

(更新)

頻発する豪雨災害を受けて厳格化した新基準に沿って見直す必要がある洪水のハザードマップについて、全国主要市区の約4割で改定が終わっていないことが、日本経済新聞の調査で分かった。水害が激甚化する中で対応が遅れ、住民の避難などに支障を来す恐れがある。活用に向けた周知も課題となる。

水防法は主要河川を管理する国や都道府県に浸水想定区域の指定を求めている。市区町村はこれを基にハザードマップを作成、住民避難や防災対策に生かす。浸水想定区域がある市町村はマップ作成が義務付けられる。

作成の前提となる降雨の想定規模は従来「100~150年に1度程度」だったが、近年は想定を超す豪雨が多発している。このため2015年に水防法が改正され、基準が「千年に1度程度」の「想定しうる最大規模の降雨」に改められた。

日本経済新聞は今回の一連の豪雨を受け、東京23区と道府県庁所在市、政令市の計74市区を対象にハザードマップの見直しの進捗を調べた。

その結果、改定済みは44市区で、残り30市区は改定が終わっていなかった。うち9自治体では域内の対象河川全てで作業が完了せず、旧基準のものを使い続けている。

見直しが進まない背景には、都道府県による浸水想定区域の指定作業の遅れがある。改定が完了していない30市区のうち16市区は、都道府県が新たな浸水想定区域の指定を終えていないことが原因となっていた。

地図内のマークは災害拠点病院

岡山市では、想定が「千年に1度」へ厳格化されたことで、氾濫を想定する河川が従来の11から13に増える見通しだ。追加の2河川は県が浸水想定区域を策定中で、市は県の作業状況をみながらマップ改定を続ける。

都道府県にとって予算や手続きの煩雑さが壁となっている。31河川が対象の秋田県は今夏に浸水想定区域の指定を終える予定だが、県河川砂防課によると、見直し作業は専門業者に委託し、入札や契約などの手続きにも時間がかかる。費用は1河川当たり数千万円で「予算面からも数年に分けて実施せざるを得なかった」(県担当者)。

山梨大の秦康範准教授(災害情報)は「住民への周知も課題になる」と指摘する。西日本豪雨での岡山県倉敷市真備町地区の浸水範囲は市作成のハザードマップにほぼ沿っていた。しかし県の後日のアンケート調査では住民の約2割しかマップの内容を知らなかった。

九州を中心とする今回の豪雨で入所者14人が犠牲になった熊本県球磨村の特別養護老人ホーム「千寿園」付近は、旧基準に基づく球磨川の想定では浸水が見込まれていなかった。新基準に基づく17年のマップ改定で「10~20メートルの浸水」が想定されると分かったが、被害を防げなかった。改定から日が浅く、周知が不十分だった可能性もある。

台風シーズンも到来する。古いハザードマップのままでは避難が遅れ、避難先を誤る恐れがある。秦准教授は「専門家の少ない市区町村にマップの作成や活用が任されているのは問題だ。災害リスクを適切に把握し、減災につなげる仕組み作りを国が主体的に進める必要がある」と話す。

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