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大量一括採用もう終わり 人材の志を見極める時代に

アフターコロナの組織と人材(下) 大分大学経済学部講師 碇邦生氏

新型コロナウイルスの影響で企業の採用活動に変化も(写真はイメージ=PIXTA)
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次代を担う「旗手」は何を感じ、何を考えているのか――。日本経済新聞社が運営する投稿プラットフォーム「COMEMO」から、「キーオピニオンリーダー」が執筆したビジネスパーソンにも役立つ記事を紹介します。大分大学経済学部で講師を務める碇邦生さんに、アフターコロナの組織と人材をテーマに語ってもらいます。今回のテーマは「新時代の人材の獲得と育成」です。

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 新型コロナウイルスの感染拡大によって、企業は従来のスタイルを強制的に変えなければならない事態に追い込まれました。急きょ対応を迫られ、手探りで新しい方法を模索している企業も多く、各方面で混乱も起こっているようです。新時代に向けての準備はここからが本番と言ってもいいでしょう。

オンラインで人材を選ぶこと/選ばれることはいいことか?

新型コロナの流行で今年、新卒採用は大きな転換を迎えました。企業人事はただでさえ、就職活動のルールを定めた経団連ルールの廃止と東京五輪への対応に追われていましたが、新型コロナでさらなる対応を余儀なくされました。その結果、会社の規模や業種を問わずにウェブ就活が急増しました。

この流れは地方大学の学生にとっては朗報です。大企業や有名企業の本社機能は東京にあることが多いからです。地方本社の企業であっても採用活動は東京で実施されることもあります。そのため、東京に数カ月単位で滞在しなくてはならなかったのです。

私自身、大分県内の大学に通っていたため、学生時代は3カ月間、東京に滞在して就職活動をしました。交通費を支給する企業はまれで、就職活動による出費は学生にとっても親にとっても大きな経済的な負担となっています。

しかし、ウェブ就活を行う企業は増えたといっても、事態はそこまで単純ではありません。ウェブ対応していない企業もまだ多く、学生は以前と変わらない対面型の就職活動も併用せざるを得ません。

そもそも、オンライン採用に前向きな会社ばかりではなく、個別の会社説明会がすべてなくなったわけでもありません。

大手人材会社が主催する合同説明会は軒並み中止や延期になった一方、少人数制にして開催している企業もありますし、対面ではない採用活動で本当に良い人材が採用できるのか、懐疑的な企業も多いです。「学生の理解が追い付かずミスマッチが起きる」「せめて最終面接だけでも対面でやりたい」など、採用プロセスをすべてオンライン化することへの懸念の声が実際にあがっています。

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多くの学生にとっても、オンラインによる就職活動は突然の変化で対応しきれていないのが現状でしょう。困惑している学生が多く、採用プロセスのどこかで対面式の機会を望む声が大多数を占めています。さらに、急に採用プロセスのオンライン化が始まったため企業側の準備とノウハウが不足しており、スムーズにいかなかったという学生側からの声も聞かれています。

現状、新型コロナの影響で企業も学生も混乱しており、皆が突然の事態にできることを模索し手を打っている状態といえます。課題も多く、トライ&エラーを繰り返していく必要があるでしょう。

新型コロナによる大量一括採用崩壊のシナリオ

新型コロナの影響によって、新卒採用は「オンライン化」と「通年採用」という2つの大きな変化の渦中にあります。これまでの日本企業の新卒採用は「定期性」「大量一括」「面接偏重」という3つの特徴をもち、世界で日本だけの特殊な慣習となっていました。

面接偏重の大量一括採用は20年以上前から制度疲労の問題が指摘されていますが、それでも一定の合理性があったために長年継続されてきました。

大量一括の新卒採用の主な合理性は、

1.自社の社風に合う学生を多数の候補者同士で比較しながら、長い時間をかけて吟味できる

2.不足している大量の人員を個別対応するよりも、低いコストで採用できる

3.毎年の定期行事にできるので業務プロセスを定型化できる

4.若年労働者に対して雇用保障ができる

5.中小企業も定期採用の時期に求人を出すと学生を採用できる

といったことで、特に社会的には「4」と「5」の効果が絶大です。他の先進諸国も抱える若年層の雇用問題や中小企業の人手不足問題の緩和に一役買ってきました。新卒の大量一括定期採用がなければ、中小企業の新卒採用は今よりも多くのコストをかけることが必要だったでしょう。

碇邦生氏は日本の採用システムは大きな転換期に差し掛かったと指摘する

しかし、環境の変化は日本独自のローカルルールである新卒の大量一括定期採用という伝統手法の継続を困難なものにしています。人手不足問題や求める人材要件の変化、ジョブ型のキャリア志向、終身雇用を前提とした人事制度の限界、グローバル採用といった課題が従来のやり方からの脱却を促しています。

さらに今回の新型コロナ騒動で、物理的に新卒採用の定期性が損なわれることとなり、採用活動の時期を流動的にしなくてはならなくなりました。政府は経済界に通年採用を視野に入れた柔軟な採用活動を要請し、経団連も通年採用を後押しして、雇用の脱一律を目指すように提言しています。

実際に企業が通年採用を導入しようとすると、採用実務が混乱し崩壊する恐れもあるでしょう。それは、通年採用の目的と、労働市場や競合との関係性が企業によって異なるためです。特に、就活における業界内での人気度と会社の知名度で、通年採用のあり方は変化すると思われます。

新卒一括採用関連の混乱はこれからも続くと予想されます。通年採用だけではなく、採用にまつわる問題は新型コロナ騒動で新しく出てきたものはほとんどありません。採用プロセスのオンライン化、社員や組織に関するデータを収集・分析し組織づくりに生かす「ピープル・アナリティクス」の活用、グローバル採用への対応など、最終的には導入しなくてはならないとわかっている事項は多いのです。自社のあり方をしっかりと分析し、目的に応じて最適な採用手法を選ぶ能力が各社の採用担当者に求められています。

次世代リーダーの育成とグローバル人材

私はここ数年、地方自治体の職員を対象とした研修所で働き方改革や人材採用・育成に関する集合研修をする機会をいただいています。そこで受講生から自治体の抱える課題を必ずヒアリングするのですが、ほとんどの自治体が若者の流出による人口減を大きな課題として挙げます。若者の流出が地方都市に及ぼす影響はかなり大きく、これは地方都市の消滅に直結すると危機感を抱いている自治体は非常に多いです。

若者が流出してしまう理由は就職や進学など、高校卒業後の魅力的なキャリアの選択肢が地元にはないためで、これは今も昔も変わりません。都会に出ていきたい、地元以外の世界を知りたいという要望も中にはあるでしょう。ですが、地方都市の多くが若者にとって魅力のある将来を提示できていないのが、残念ながら事実です。

英国のUniversity College London のトゥーカ・トイボネン上級講師は、「日本は若者が夢を持ち挑戦することが歓迎されにくい」と指摘しています。この傾向は大都市圏でも地方都市でも大きな差がなく、若者の挑戦が歓迎される街は若者を呼び込む一つの手段となります。自己成長の機会にあふれ、挑戦を歓迎する環境があれば、日本のどこであっても若者が集まってくるはずです。

地方都市は若者が出ていくと嘆く前に、地元にいる「挑戦したい」と思っている若者の声に耳を傾け、彼ら彼女らの背中を押すような活動をしているか、今一度考えてみることが必要です。まずは、地方自治体や地元企業が地元にいる若者の挑戦を応援し、助けることで、若者が自分の将来の夢を地元でかなえることができる環境を整えることです。

例えば、ここ最近新型コロナによる経済損失を補うために、利用が増えている「クラウドファンディング」。都市部だけではなく地方都市でも、重要な資金調達やPR手段として次々とプロジェクトが立ち上がっています。地方都市に特化したクラウドファンディングサービスも多数登場し、そこで立ち上がるプロジェクトは単なる資金調達目的ではなく、志を同じくする賛同者からの支援を募るという社会的意義ももっています。こういったサービスは若者を応援する環境をつくり出すための、優れたツールにもなるポテンシャルを秘めていると思います。

さらに、現在グローバル化の流れは一時的に止まっているように見えますが、コロナが収束すれば再び流れが加速することはわかりきっています。ですから、その準備や投資をおろそかにすべきではありません。

日本企業でグローバルな人材を育成するには、2つのものを捨てる必要があると思います。1つは「日本語だけを使うこと」で、もう1つが「ゼネラリストであること」です。しかし、例えば日本企業の経営陣がすべてを英語でマネジメントすることは現実的に難しいと思います。また「ゼネラリスト」を良しとしてきた企業文化の中で、何のプロなのかわからない人たちに突然専門性の高さを求めても、外国人と比較されればとうてい勝てない水準の人材がたくさんでてきてしまうでしょう。

企業内の特殊性に特化している日本企業の人たちが、海外の人とまったく同じ土俵で「グローバル人材」として戦うのは、現状では非常に厳しいでしょう。今後はそのことを意識しつつ、日本の特性を生かした方法で、海外の人たちにも魅力的な組織づくりをすることを考えなければなりません。その結果として、「グローバル人材」というものが日本にも生まれてくるのだと思います。

碇邦生
2006年立命館アジア太平洋大学アジア太平洋マネジメント学部アジア太平洋マネジメント学科を卒業。民間企業を経て神戸大学大学院へ。その後、リクルートワークス研究所で主に採用を中心とした研究プロジェクトに従事、17年から大分大学経済学部経営システム学科の講師。

◇  ◇  ◇

 発信するビジネスパーソンを応援する投稿サイト「日経COMEMO」は、碇邦生さんと、リンクトイン・ジャパン代表で日経COMEMOのキーオピニオンリーダーとして働き方に関する投稿を手掛ける村上臣さん、サイバーエージェントの執行役員で人事を担当する石田裕子さんの3人をゲストに、日本経済新聞社の石塚由紀夫編集委員がファシリテーターを務めるオンラインイベント「働き方innovation- 加速するジョブ型雇用社会に備えるー」を8月3日(月)に開催します。新しい働き方を模索するビジネスパーソン、企業のデジタルトランスフォーメーションを推進する経営企画担当者など、幅広い皆さんの参加をお待ちしています。
https://eventregist.com/e/comemo202008cx

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