芥川賞の2作品 日常に潜む「距離」あぶり出す

文化往来
2020/7/16 15:30
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芥川賞に決まった遠野氏はマスクを着けて記者会見に臨んだ(15日、東京都千代田区)

芥川賞に決まった遠野氏はマスクを着けて記者会見に臨んだ(15日、東京都千代田区)

高山羽根子「首里の馬」と遠野遥「破局」が第163回芥川賞の受賞を決めた。2作の共通点をあえて探れば、人と人、人と場所などの間に生じる物理的、心理的な「距離」に光を当てた小説と言えるだろうか。いずれも新型コロナウイルスの流行前に書かれ、コロナ禍を描いているわけではないのだが、読む側に広く浸透したソーシャル・ディスタンス(社会的距離)の尊重といった意識が、作品を読み解くカギを与えてくれるかもしれない。

アクリル板の仕切りを通して発言する高山氏(15日、東京都千代田区)

アクリル板の仕切りを通して発言する高山氏(15日、東京都千代田区)

高山の「首里の馬」は「場所」と「記録」を軸に、どこか現実離れした世界観を展開する作品だ。主人公は沖縄にある知人の資料館に積まれた記録を整理しつつ、オンライン上でどこか遠い所にいる相手へクイズを出す。その一方で、突然家に現れた沖縄在来の「宮古馬(ナークー)」と交流し、馬に乗って島を記録し始める。高山は「どんなところにいる人とも、なんらかのかたちで意識を通じ合わせることが、精神の落ち着きにつながるのでは」と述べる。選考委員の吉田修一は「この方はこれからも、孤独な"場所"を描いていくのだろう」と評した。

平成生まれ初の芥川賞受賞者となる遠野の「破局」では、主人公の男性の造形が注目を浴びた。彼が持つルールやマナーへの強い順守意識と、その行動のちぐはぐさ=距離を「人によっては気持ちが悪い、共感できないと言うだろうが、変なキャラにしようと思って書いてはいない」と遠野は言う。不穏な雰囲気を加速させるような乾いた文体も「自然に書くとこうなる」。淡々と率直に、ひとりの人間の内にある落差をあぶり出している。

コロナ禍の選考会では、一部委員がリモート参加したり、文書を寄せた上で欠席したりした。選考委員の講評は選考会場から記者会見場への中継となり、会見に出席した受賞決定者の前にはアクリル板の仕切りが設けられた。委員の吉田は、選考自体に差し障りはなく、ほぼ通常通りだったとしつつも「今回の候補作を前回読むか、今読むかでは、印象や気になるところが違っているかもしれない」と述べる。コロナ禍が作り出した新たな日常にも潜む様々な「距離」を、これからの作品はどう言葉にしていくだろうか。

(桂星子・光井友理)

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