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苦境のファミマ、処方箋は2つ

グロービス経営大学院教授が「経営戦略」で解説

伊藤忠商事がファミリーマートにTOB(株式公開買い付け)を実施し、完全子会社化するというニュースが話題になりました。ファミリーマートの株価は2018年に過去最高値を更新してから下がり続けており、新型コロナウイルス感染症の流行による売り上げ減が追い打ちをかけている様子です。なぜ大手コンビニエンスストアの中でファミマだけ低調なのか、伊藤忠とともにどんな処方箋が考えられるのか、グロービス経営大学院の嶋田毅教授が「経営戦略」の観点で解説します。

【解説ポイント】
・コンビニは立地と品ぞろえ、PB開発などが差別化のカギ
・思い切った業態の転換やデジタル改革に活路
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コロナ禍で際立つコンビニ各社の実力

日本人の生活に欠かせない小売店となったコンビニは、セブン―イレブン・ジャパン、ファミマ、ローソンの3強で市場の90%以上のシェアを占めています。その業績を改めて振り返っておくと、2020年2月期は次のようになっています。

これだけを見るとセブンが規模、収益性とも圧倒的で、ファミマとローソンが追っているように見えますが、それはワンショットだけを見た時の錯覚です。

もともとファミマは長年業界3位でしたが、エーエム・ピーエムやサークルK・サンクスを吸収して成長してきた歴史があります。ここ数年は不採算店の整理などを進め、営業収入は減っても営業利益は増えてきました。収益性でようやくローソンに追いついてきたというのが実態です。

3月以降のコロナ禍において、各コンビニとも大きく売り上げを落としましたが、そこにも明暗が見て取れます。たとえば4月の既存店売上高の前年同月比はセブン5.0%減、ファミマ14.8%減、ローソン11.5%減でした。外出自粛が明けた6月になるとセブン1.0%増、ファミマ8.2%減、ローソン5.8%減となっています。つまりコロナ禍という危機に際して、店舗の実力差が浮き彫りになっているとも言えるでしょう。

コンビニビジネスの成功パターンとは?

改めてコンビニビジネスの成功パターンについて考えてみましょう。経営学者のマイケル・ポーター教授が提唱した3つの基本戦略でいえば、集中戦略(ニッチ戦略)もありますが、ここでは基本となるコスト・リーダーシップ戦略と差別化戦略について検討してみます。

まずコスト面ですが、これは「規模の経済性」と「範囲の経済性」が強く効いてくるものと思われます。規模の経済性は固定費の分散(例えば広告費)という形でも効きますが、コンビニのような小売りの場合、商品仕入れのバイイングパワーも強く効いてくるといえるでしょう。

範囲の経済性は他事業との費用分担です。例えばローソンはナチュラルローソンも運営しており、高級スーパーの成城石井も持っています。一例として生鮮野菜に関するノウハウ、物流などのコストはある程度共有もできるでしょう。

では差別化要素としては何があるでしょうか。主なものを挙げると以下になります。

・立地

・品ぞろえ

・プライベートブランド(PB)開発力

・店舗の雰囲気(清潔さ、店員の接客など)

多くの小売業はモノを作るわけではないので、立地と品ぞろえが大きな差別化要因というケースが多いです。大手書店などは典型で、好立地にある大型書店はやはり高い集客力を誇ります。

一方、コンビニの場合は書店と異なり、PB比率が高い特性があります。弁当やおにぎり、サンドイッチ、総菜、飲み物、コーヒーなどです。これらは取引先との共同開発が多いのですが、開発力においては長年セブンが圧倒してきました。PBはメーカーのナショナルブランドに比べて利益率が高い特徴もあります。これがセブンの圧倒的な集客力と高収益率を支えるカギだったのです。

ファミマ復活の方向性は?

では伊藤忠がほぼ完全に支配下に置いたファミマに、どのような復活の方向性があるでしょうか?

(1)集客につながる差別化要因 まず考えたいのはこの部分です。セブンを上回る魅力的な品ぞろえやサービス提供ができれば、人々はファミマに向かうかもしれません。かつてソフトバンクはiPhoneの独占販売を武器に契約者数を増やしましたが、それと似たようなことは可能でしょうか。

筆者の私見では難しいと思います。コンビニで売るような比較的安価な商品のメーカーが、特定のコンビニと独占販売契約を結ぶイメージがちょっと沸きませんし、それが店舗の売り上げに占める比率もたかが知れているでしょう。

ではライバルがマネできないようなPB商品を開発できるかといえば、できなくはないものの、セブンを上回ることはかなり難しいでしょう。PBの開発力は能力以上に組織文化の側面が大きいものです。セブンを長年率いた鈴木敏文氏がセブンの第一線を退いて4年がたちますが、彼が作った組織文化を今も引き継ぐセブン以上のPB開発スキルと根底に流れる組織文化を構築するのは容易ではないでしょう。

(2)業態を一気に転換

今のままの業態を存続する限り、どうしても後手に回る可能性は高そうです。そこで出てくる発想がセブンやローソンに先駆け業態転換を行うというものです。例えば、近年業容を広げ、コロナ禍でも株価が上がったドラッグストアチェーンを買収し、店舗の調剤薬局化を進めるといった方法論です。

M&A(合併・買収)の難しさもありますが、もともと吸収合併で大きくなった会社ですから、割り切ってそうした路線を進めるのはありかもしれません。あるいは弁当や中食チェーンを買収して「脱コンビニ弁当」を図るといったやり方もあります。ライバルに先駆けて「Different Animal」(別の存在)になるという方法論は、コンビニの過当競争を脱する上で一考の余地はあるでしょう。

(3)劇的なDX

デジタルトランスフォーメーション(DX)は当然進めるでしょうが、それを劇的に進めるという活路があるかもしれません。投資額はかなり大きくなりますが、店内作業のロボット化を進めたり、家庭との「ラストワンマイル」をつなぐ機能を無人で果たすことなどができれば、差別化要因となるでしょう。

例えばネット接続した冷蔵庫で欠品を察知し、顧客に推奨して顧客が「OK」ボタンを押せば何分か後に買える状態にするなどです。

これはコンビニの力だけでは不可能。まさに総合商社のビジネス構想力や資金力が生きる可能性はあるのです。伊藤忠グループにはIT(情報技術)企業がありますから、その活用も図れそうです。まさにグループとして範囲の経済性を効かせる方向性です。

実際に伊藤忠がファミマを中期的にどこに向かわせるのか、まだ見えませんが、既存の延長線上の戦いを続けるだけでは勝算は見えてきません。十分な営業利益が上がっているうちに(2)あるいは(3)のような勝負に出る必要があるのではないでしょうか。

しまだ・つよし
グロービス電子出版発行人兼編集長、出版局編集長、グロービス経営大学院教授。88年東大理学部卒業、90年同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経て95年グロービスに入社。累計160万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」のプロデューサーも務める。動画サービス「グロービス学び放題」を監修

「経営戦略」についてもっと知りたい方はこちら

https://hodai.globis.co.jp/courses/1916a92b(「グロービス学び放題」のサイトに飛びます)

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