山形の百貨店「大沼」、異例の感謝閉店セールの行方

2020/7/15 18:46
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15日、来店客を出迎えるやまきの山下修平会長(右端)

15日、来店客を出迎えるやまきの山下修平会長(右端)

山形市の百貨店「大沼」で15日、感謝閉店セールが始まった。1月に自己破産申請し、会社自体はなくなったが、元従業員が商業コンサルタント会社と9月末までをメドに開く異例のセールだ。この2年間で再建へ向けた動きは3度目。消費者が満足するセールになるかが最初の関門となる。

午前10時。半年間閉じたままのシャッターが開くと店外に並んだ100人以上の買い物客が店内に吸い込まれた。中山町から来た主婦(66)は「閉店前日も来店した長年のファン。駐車券は出ないけれど、自己負担でもいいから来た」という。

開店30分前から行列ができた旧大沼の感謝閉店セール(15日、山形市)

開店30分前から行列ができた旧大沼の感謝閉店セール(15日、山形市)

地下の食品などを除く4フロアに限定。旧大沼の在庫が中心だが、格安になった台所用品をカートに積み込む客もいて、元従業員が再集結した売り場は活気に包まれた。セールを実施した商業コンサル、やまき(東京・港)を率いる山下修平会長は「課題を解決したら新しい店のビジョンを示す。来年の今ごろに開店できれば」と語った。

大沼は2018年以降、創業家から投資ファンド、山形の実業家と所有者が変わり、その間、社長も頻繁に交代するなど混乱が続いた。山下会長は「35年この道にいるが、大型店が消えた街は3年後にはシャッター街になる」と指摘。百貨店出身者ら人材も豊富で、「当社に共感して投資する企業はある」と資金調達にも自信をみせる。

もっとも、現状では不透明な点が多すぎる。土地建物は実業家が所有。今回、セールのために賃借したやまきは売買交渉を続けている。交渉が成立しても、土地建物に根抵当権を設定する山形銀行は競売の方針を示し、年内にも実施されると落札者に所有権が移る。マンション業者などが有力視されている。

やまきが落札すればいいが、投資額がふくらみかねない。やまきは実業家から取得したうえで、競売取り下げなど山形銀に協力を求める考えだ。山下会長は「山形銀行の創業家は学校を作るなど地域貢献を続けてきた。市民のためになる(百貨店再生)事業に反対するだろうか」と語る。

一方、山形銀が競売を選択したのも、中心市街地という公共性が高い土地だからだ。創業家出身の長谷川吉茂頭取は「フェアにやるには競売しかない」と、これまでも繰り返し説明している。

大沼閉店で中心市街地空洞化に危機感を覚える山形市は再建の動きを歓迎。初日に訪れた佐藤孝弘市長は「多くの人が来店し、期待の大きさを感じた」と語った。山形銀がこのまま競売を実施すると、再生の動きを潰したともいわれかねない。

物件を取得できても、消費者や取引先の支持は不可欠。セールに来店した50歳代の女性は「衣料品は聞いたことがないブランドばかり。追加の商品はあるのだろうか」と語る。新型コロナウイルスの影響で債権者集会は6月から11月に延期。債権者の一人は「感情に訴えて経済に基づかない形で再開しても、協力する取引先があるのだろうか」と疑問を示す。

昨年、大沼支援の発言をした吉村美栄子知事は14日の記者会見でセールを歓迎するか問われ、「元従業員の心情は理解できるが、それ以上申しあげることはない」と慎重な姿勢。大沼で長年働いた関係者は「消費行動の変化で役割を終えた店。思い出をこれ以上壊さないでほしい」と語った。

(山形支局長 浅山章)

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