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タイ民政移管から1年 「軍政回帰」の影

【バンコク=村松洋兵】民政移管から16日で1年を迎えるタイで「軍政回帰」の影が濃くなってきた。元陸軍司令官のプラユット首相は新型コロナウイルス対策で発令した非常事態宣言を延長し、強権を維持する。最大与党の党首にも陸軍OBが就き、保守的な政策が強まるとの見方もある。

「非常事態宣言は集会の自由を侵している」。民主活動家のニミット氏は9日、バンコクの民事裁判所に宣言の取り消しを申し立てた。国民年金の導入を訴える集会の許可を警察に求めたが、宣言を理由に認められなかったからだ。だが、裁判所は申し立てをすぐに却下した。

宣言下で権限は首相に集中し、集会の禁止や報道規制を命じることができる。プラユット氏は6月末、宣言の期間を7月末まで1カ月延長した。3月末に発令された宣言の延長は3度目だ。新規感染者は国内で1カ月以上確認されていないが、感染の第2波が起きた場合に迅速な対応を可能にすると説明している。

2014年の軍事クーデターを主導したプラユット氏は総選挙を経て「民主的に選ばれた首相」として1年前に内閣を発足させた。形式上は国政が軍から民に移管され、首相の権限は平時に戻ったが、コロナ対策の名目で再び強まっている。5月にはコロナ対策を理由に反政府集会を企画した活動家らの身柄が一時、拘束された。

タイ政治に詳しい赤木攻・大阪外語大名誉教授は「コロナ対策は感染症法などで可能なはずなので、非常事態宣言の延長は(政府の)強権維持が目的だ」と指摘する。

プラユット氏を支える最大与党の親軍「国民国家の力党」は19年3月の総選挙で、学者出身のウッタマ氏(現財務相)を党首に担いだ。軍政色を薄めるためだ。ウッタマ氏は現在、ソムキット副首相が率いる経済チームの一員だ。だが、処遇に不満なプラウィット副首相(元陸軍司令官)らが求めた6月末の党首選で、同氏が党首に就いた。

プラウィット氏は経済でも保守派とみられている。陸軍で同氏の後輩にあたるプラユット氏は近く、内閣改造に踏み切る見通しだ。プラウィット氏の意向を映しそうだ。

プラユット政権はコロナ感染が広がる前から民主派を敵視していた。2月には軍の影響下にある憲法裁判所が総選挙で躍進した民主派政党「新未来党」に解党を命じた。

19年の総選挙を歓迎した米国はプラユット政権を批判しない。同政権の中国接近を阻むためだ。14年のクーデターを欧米諸国が批判した結果、タイ軍政は民主化を重視しない中国に寄った。足元で中国との対立を深める米国は地政学上の要衝にあるタイを手放せない。

9日からは米陸軍のマコンビル参謀総長がコロナ対策の入国規制後の外国要人としては初めてタイを訪問した。プラユット氏と会談し、安全保障やコロナ対策での関係強化を確認した。同日にはディサンブリ駐タイ米大使もプラウィット氏と会い、米国務省が発表する国別の人身売買報告書でタイのランクアップに協力すると表明した。

「タイ政府は米国の民主化圧力を受けにくくなり、国政は保守的な傾向を強める」と指摘する外交関係者もいる。

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