韓国、21年の最低賃金1.5%増 伸び率過去最低

【ソウル=細川幸太郎】韓国の最低賃金が2021年に20年比1.5%増の8720ウォン(約770円、時給ベース)となる見通しとなった。上昇率は1988年の制度開始以来の最低水準。所得主導成長を掲げる文在寅(ムン・ジェイン)政権の経済政策が暗礁に乗り上げている。
労使双方の有識者、学識経験者らで構成する最低賃金委員会が14日、協議結果を発表した。雇用労働相が8月上旬に正式に決定する見通しだ。
最低賃金の引き上げ率1.5%はアジア通貨危機の98年の2.7%を下回り過去最低水準となる。同委員会の労働組合系の委員らは引き上げ幅の縮小に反発して欠席・退席し採決が行われた。韓国労働社会研究所によると、新型コロナウイルスの感染拡大によって3~5月の国内就業者は87万人減となっており、賃上げより雇用維持を訴える意見も多かったという。

最低賃金8720ウォンは東京都(1013円)と比べると2割ほど低く、東北や九州の一部など日本で最も低い地域(790円)とほぼ同水準だ。韓国は全国一律の最低賃金を設定するため、特に地方で中小零細企業から負担増を懸念する声が大きかった。
労働組合を支持基盤に持つ革新系の文氏は2017年の大統領選挙で「20年までに最低賃金を1万ウォンまで引き上げる」との公約を掲げて大統領に当選。18年は16.4%増、19年は10.9%増とわずか2年間で最低賃金を29%も引き上げた経緯がある。
ただアルバイトを抱える飲食店や商店などの中小零細企業からの反発も大きく、最低賃金委員会は20年水準を前年比2.9%増とし、引き上げペースを急減速させた。この時点で文氏の公約は頓挫した。今回発表の21年も1.5%増の8720ウォンにとどまるため、大統領任期の22年までに1万ウォンの大台に乗せるのは事実上不可能となった。
文氏はこれまで公約不履行を謝罪した上で「1万ウォンの公約に縛られる必要はない」とも話し、柔軟な賃金調整が必要だとの認識を示していた。
物価上昇の鈍化も最低賃金決定の要因となった。韓国統計庁によると、19年の消費者物価指数(CPI)の上昇率は前年比0.4%と過去最低を更新。同年9月には1965年の統計開始以来で初のマイナスとなるなど、韓国経済のデフレ懸念が高まっている。
文氏が主要経済政策として掲げた「所得主導成長」は、賃上げを起点に消費を活性化して景気を底上げする戦略だった。起点となる賃上げが尻すぼみとなる一方で、特に首都圏での不動産価格は上昇を続けており、政府の経済政策に国民は不満を募らせている。