ビール類11年ぶりキリン首位、巣ごもりで本麒麟躍進

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コラム(ビジネス)
2020/7/16 2:00
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キリンが上半期で首位になるのは11年ぶり

キリンが上半期で首位になるのは11年ぶり

日経ビジネス電子版

ビール大手4社の2020年上半期のビール類推定シェアで、キリンビールがアサヒビールを11年ぶりに抜き首位になった。巣ごもり消費の加速で、業務用に強いアサヒが苦戦。キリンは家庭用を伸ばした。ノンアルコール商品の拡大など、コロナ禍で酒類市場の構造転換が進みそうだ。

7月10日、ビール大手4社が20年上半期(1~6月期)のビール類(発泡酒、第3のビールを含む)の販売動向を発表した。19年通年の市場シェアで、首位のアサヒビールは36.9%。後を追うキリンビールが35.2%と肉薄していた。

アサヒビールは「過剰なシェア争いをやめるため」(塩澤賢一社長)、20年からビール類の販売数量の開示を取りやめた。長年継続してきた、業界動向を把握する上で重要な基礎的な統計が失われることに業界の内外から批判が噴出。「勝ち逃げをするためではないか」との声まで上がった。

本誌は上半期の各社の推定シェアを算出した。20年上半期の業界全体のビール類の販売数量は、流通への調査などから、前年同期比で約90%とビール大手各社は推定している。この数字から、アサヒを除く3社の上半期の販売数量(各社の開示データから本誌算出)を引くと、アサヒの販売数量の推定値が導ける。

それによると、アサヒの推定シェアは34.2%で、キリンは37.6%と首位に立った。推定値とはいえ、ビール類市場で3.4ポイントの差は大きい。キリンが上半期で首位になるのは、0.6ポイント差で辛勝した09年以来、11年ぶりとなる。年末の宴会やお歳暮などの需要に強いアサヒは下半期で巻き返し、09年通期では0.2ポイント差に詰め寄った。3ポイント以上の差でキリンが首位に立つのは、00年上期(3.5ポイント差)以来、実に20年ぶりのことだ。

■家飲みで低価格志向が加速

アサヒは、飲食店向けの業務用ビール市場で圧倒的な強さを誇る。様々な嗜好を持つ客が来店する飲食店にとっては、ビールで抜きんでたトップブランドである「スーパードライ」を取り扱えば安心だからだ。しかし、新型コロナウイルスによる外出自粛で業務用市場が壊滅。緊急事態宣言解除後の6月は回復の兆しが見えたが、感染者が増加に転じ、長期低迷の様相を呈している。

スーパードライの缶商品は比較的好調だが、業務用はコロナ禍の直撃を受けて販売が落ち込んだ(写真:的野弘路)

スーパードライの缶商品は比較的好調だが、業務用はコロナ禍の直撃を受けて販売が落ち込んだ(写真:的野弘路)

一方、缶商品など家庭用商品の比率が高いキリンは、加速する巣ごもり消費を捉えた。先行きに対する不安から低価格商品を求める節約志向も顕著で、第3のビール「本麒麟」が昨年上半期に比べ約4割増と急伸。第3のビール(ブランド合計)ではサントリービール「金麦」、キリン「のどごし」に続く3番手の座を、アサヒの「クリアアサヒ」から奪った。

業界全体では、第3のビールの販売量が上半期で初めてビールを上回った。アサヒは3月に発売した第3のビール「アサヒ ザ・リッチ」が好調で、年間販売目標を当初予想の2倍に修正し、不振のスーパードライの下支えに動く。チューハイなどの安価なRTD(割らずにそのまま飲める)商品も大幅に伸びており、新型コロナによる「デフレ圧力」が、最も身近な消費財である食品、中でも嗜好品の酒類で顕著に表れた。

これまで大手各社は、「20年はビール復権の年になる」(ビール大手幹部)と見てきた。10月の酒税改正でビールが減税される一方、第3のビールは増税になる。350ミリリットル当たり約50円の差がある税額が約32円に縮まり、26年には税額が一本化される。しかし、キリンビールの布施孝之社長は7月9日の会見で、「(当面の)酒類市場に対する影響の度合いは、酒税改正よりもコロナ禍が上回る」と言い切った。

節約志向で低価格商品が活況を呈する一方、付加価値の高い個性的なクラフトビールも、まだ規模は小さいが消費が拡大している。消費の二極化が進んでおり、間に位置するビールのメガブランドは難しい商いを強いられる。若者のビール離れや少子化の影響でビール類の国内の市場規模自体が、19年まで15年連続で縮小している。縮む市場の中で各社は「規模の競争」から「質の競争」へのシフトを迫られている。

コロナ禍で消費者の健康に対する意識が格段に高まり、酒類事業そのものも転換点を迎えている。

世界保健機関(WHO)も18年に、アルコールの過剰摂取によって世界で年間300万人以上が死亡しているとする報告書を発表し、加盟国への対策を求めた。これを受けて国内外の酒類大手はノンアルコール飲料事業の拡大を進めている。

国内のノンアルコールビール市場は、09年からの10年間で4倍に急拡大している。各社は、体脂肪や尿酸値を積極的に減らせる「超・機能性」ノンアルコールビールを昨年から相次いで発売。酒税がかからないため、ビール類と比べて利益率が高い。7月にはキユーピーがノンアルコール商品に参入するなど、市場としての存在感を増している。

新常態のビール市場は、従来の戦略の延長線上では成長が望みにくい。かつての強みに拘泥せず、新たなニーズに素早く柔軟に対応していく消費財メーカーとしての足腰の強さが試される。

(日経ビジネス 吉岡陽)

[日経ビジネス電子版 2020年7月14日の記事を再構成]

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