/

日本の最重要の投資先は教育ではないか(澤上篤人)

「ゴキゲン長期投資」のススメ さわかみ投信会長

投資業界のカリスマの一人、澤上篤人氏が考える長期投資のあるべき姿を、同社最高投資責任者の草刈貴弘氏との対談形式で紹介する。

休校で噴き出した日本の教育問題

澤上篤人(以下、澤上) コロナ騒ぎで図らずも表面化したのが、日本の教育関連投資のお粗末さである。その惨状を見るに、日本の将来はどうなるのか、暗たんたる気持ちになった。まず草刈に問題提起をしてもらって、そのあたりに切り込んでみよう。

草刈貴弘(以下、草刈) 一斉に休校になるなんて、夢にも思いませんでした。しかも3月から5月末まで、丸々3カ月間も。

私には小学生の子供がいます。子供の通う公立小学校は、休校期間中、オンライン授業にはならず、プリントの自習課題を学校とやり取りするだけでした。普段の授業でパソコンやプロジェクターは使うようですが、根本的には昔と変わっていません。

一方、報道などによると私立小学校の中には早々にオンライン授業を始めたところもあったとか。学習塾などもオンライン化対応は比較的早かったようです。

この状況を目の当たりにした時、これでは通っている学校の対応や、塾に通える家庭か否かで、子供たちの学力に差が開いてしまうのではないかと危惧しましたし、一人の親としては危機感を覚えました。

教育格差の背景にある経済格差の広がりは以前から指摘されてきましたが、一斉休校で図らずも浮き彫りになった形だと思います。

澤上財政が厳しいので子供対策や教育関連予算は絞らざるを得ないとよく言われる。2020年度の社会保障費35.8兆円は年金、医療、介護の社会保障費が約8割を占め、支出増に歯止めがかからない状況だ。少子化対策は後回しもいいところ。

確かに高齢者は増えているし、その高齢者の票が欲しいという政治家の事情もあろうが、これはおかしな話である。子供のための支出をなおざりにするなんて、それが政治だろうか? この国の指導層は日本の将来をどう考えているのだろう?

草刈 教育機会は本当に平等でないと、学力はもちろん社会を形成する力そのものが衰退しかねないのではと思いました。

学習塾のオンライン対応の話をしましたが、休校になりオンラインで授業が進むようになったので学習がはかどるということもあったようです。学校に通う、塾に通うという物理的な時間がなくなり、外で遊べない状況で勉強するのでテストの平均点が上がるという現象まで起きているとか。

ですが、それはそれができる環境の子供の話でしょう。公立小学校では全く違う休校の現実もあります。プリント課題は親が学校に取りに行かなくてはいけません。小学生ですから、プリントを渡しても誰かが付いていなければ勉強に身が入りません。

結局、親が子供に付きっ切りになれるかどうかで学習の質に差が出てしまいます。保育園や放課後児童クラブ(学童保育)も閉鎖となり、子供の面倒を見ながらの在宅ワークは相当きついと思います。今回はコロナ禍による休校という特殊な状況下での話ですが、子育てに対する理解と支援が足りない今の社会は変えていかなければならないですね。

教育を国家戦略の最優先事項に

澤上 元はと言えば、日本の指導層に長期的な国家戦略が欠けていたのだ。1980年前後、日本人は世界からエコノミックアニマルと批判された。それからというもの今日に至るまで「働くな、もっと休め」の大合唱。気が付けば日本は祝日が世界で一番多い国になった。一方、労働生産性はじわじわと下がっている。国民が働かなくなって栄えた国など、歴史上どこにもないというのにね。

85年のプラザ合意では、産業構造を輸出主体から内需主体に転換すべく、金利を大幅に引き下げた。そして、87年にリゾート法を成立させる。あれが日本中の地価を押し上げ、乱開発による国土荒廃を招いた。その揚げ句の果てが、80年代後半のバブル景気だよ。

どれもが、その場しのぎ、付け焼き刃と言うほかない政策ばかりだ。その間、日本人の特性とも言える勤勉さや高い倫理観、道徳心といったものがどんどん失われた。

草刈 休校の件では、改めて学校の存在意義も考えさせられました。学力を上げるだけなら塾に通い、教え方がうまい先生や相性の良い先生の授業を受ければよいわけです。オンライン動画なら、予備校の一流講師の授業だって受けられる。

しかし、学校に行かなければ学べない、勉強より大切なこともある。集団の中での協調性や自主性、個性などです。そして、それらをどう生かすかを実践で学ぶ場こそが学校なのでしょう。道徳心や社会性を養うために、とても重要な役割を果たしている。

授業はオンラインや動画で代替できますが、人を創るという勉強は、どんな時代になっても学校でなければできない気がします。

やはり世の中に出ると、何事も思い通りにはならないもの。学生時代は集団の中でどう生きるかを学ぶ大切な時間ですから、お金も時間も気持ちも、もっと注ぎ込むべきだと思いました。

澤上 そうなんだよ。学力形成のみならず人間形成も含め、教育投資の拡大はこの国の喫緊の課題だと思う。新型コロナウイルスは日本の公教育の惨状をあらわにした。昔から「国家百年の計は教育にあり」と言われるが、一刻も早く日本の教育にてこを入れるべきだね。

かつて日本が貧しかった時代、村で一番勉強ができる子を、皆でお金を出し合って東京の大学へ行かせたという話がある。誰かが立身出世して村全体を引っ張り上げてくれないと、村はいつまでたっても良くならない。当時の人たちは教育の重要性を深く認識していたことがうかがえるエピソードだ。

日本は豊かになったが、教育をなおざりにしていると、国力が落ちていくのは避けられまい。武田信玄が「人は城、人は石垣」と言ったように、国の礎は人にありだ。他の財政支出を削ってでも、教育投資は大拡充すべきである。

草刈 自国民に対してはもちろん、向学心を持つ世界の人材に教育機会を提供するという発想も重要ですよね。世界情勢が不安定になってきていますが、むしろ優秀な人材獲得の好機と捉えてもいいと思います。例えばですが、混乱する香港から留学生を積極的に受け入れてもいいのではないでしょうか。

日本人と海外から来た人が共に学び、同じ社会の中で良い世の中を創ろうという理念の下に活動できるのであれば、この国は再び日出づる国になれるのではないかと思うのです。

澤上 まったく同感だよ。

澤上篤人(さわかみ・あつと)
1973年ジュネーブ大学付属国際問題研究所国際経済学修士課程履修。ピクテ・ジャパン代表取締役を務めた後、96年あえてサラリーマン世帯を顧客対象とする、さわかみ投資顧問(現さわかみ投信)を設立。
草刈貴弘(くさかり・たかひろ)
2008年入社。ファンドマネジャーを経て13年から最高投資責任者(CIO)。

[日経マネー2020年9月号の記事を再構成]

日経マネー 2020年9月号 仕込むなら今! 次世代10倍株

著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2020/7/21)
価格 : 750円(税込み)

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン