在宅勤務で疲れない 上半身を支えるゲーミングチェア

新型コロナウイルスの感染拡大防止による外出自粛を経て、在宅勤務も珍しくなくなってきた。そのなかで、疲れない椅子を求めるニーズから、ゲーマー御用達の「ゲーミングチェア」に人気が集まり、入手困難な商品もあるという。ゲーミングチェアとはどのような機能を備えているのか。そして在宅勤務にどれだけ使えるのかを検証する。
コロナ需要で好調なセールス
ゲーミングチェアは、在宅勤務、いわゆるテレワーク環境構築において、最適な選択のひとつだ。福岡に本社を構える家具メーカー、関家具が1月から販売を開始しているゲーミングチェア「Contieaks(コンティークス)」は、ブランド認知向上と外出自粛によるテレワーク向け需要の高まりを受け、目標販売額の115%を達成(6月末現在)するなど好調なセールスを記録。出荷台数は発売月から6倍以上に増えているにもかかわらず、初回生産分を完売した後は増産分も入荷と同時に完売が続き、バックオーダーを抱えている状態だという。
もちろん他のメーカーの製品もゲーミングチェアは好調に売れ行きを伸ばしていて、折からのeスポーツブームによる注目度の高まりとテレワーク向け需要で、ゲーミングチェアの市場は確実に広がってきている。

在宅勤務で問題となるのは、自宅での作業環境だ。これが整っていないと肩こりや腰痛など、体の不調につながりやすい。
デスクトップPCが自宅にあれば、それに合わせたデスクと椅子を用意している人もいるだろう。問題はノートPCで作業をする場合だ。一般的にダイニングテーブルで作業をする人が多いのではないだろうか。
疲れる理由は、テーブルと椅子のギャップ
ダイニングテーブルとそれ用の椅子を組み合わせた場合、オフィス家具と比べると「机が低く、座面が高い」傾向がある。それだと手元が遠くなるため、猫背になりやすい。さらにダイニングテーブルは数時間も座り続けることを想定して設計されてはいない。こうした要因が重なれば、姿勢の悪化から体の不調へとつながっていく。
このアンバランスな状態は、椅子ひとつ変わるだけで、大幅に改善される。つまり、仕事がはかどるテレワーク環境を考えるなら、最初は椅子に投資すべきだ。

「上半身のホールド力」がゲーミングチェアの武器
ゲーミングチェアとは、eスポーツの隆盛とともに注目を浴びるようになったゲーマー御用達の椅子。ゲームを職業とするプロのeスポーツ選手やそれを目指す人たちは、数時間ぶっ続けで練習することも珍しくない。ゲーム画面に集中しつつ、何時間も座り続けるような人のために開発された椅子、それがゲーミングチェアだ。

具体的には長時間にわたる精緻なプレーをサポートするために、しっかりと腰を支え、座った姿勢がブレないよう、上半身をホールドする背もたれと、姿勢よく座るための腰当て「ランバーサポート」を備え、加えて座面形状にも工夫が施されている。
シビアなプレーが求められるeスポーツのような場合、目とディスプレーの距離、視線の角度などに気を使うプレーヤーは多い。そのため一部の座椅子タイプの製品を除けば、ほぼ間違いなく座面の高さが調整可能。キーボードやコントローラーパッドを持つ手をサポートするための肘掛けも、必ず装備されている。
ゲーミング文化に合わせて原色を用いた派手なカラーリングの製品が多いため、奇異な目で見られることもあるようだが、細部の設計を一つひとつ見ていくと、ゲーミングチェアとは座る人の快適性を追求した、非常に高機能な椅子と言える。


ゲーミングチェアとビジネスチェアの違いは?
では、ゲーミングチェアと一般的なビジネスチェアの違いはどこにあるのか。原色を使った派手なカラーリングといった差もあるが、機能面でも、実は決定的な違いがある。それは背もたれのリクライニング機構だ。
ビジネスチェアは、背もたれに体重をかけると、スプリングでぐっと後ろに倒れ込み、力を抜くと元に戻るような構造になっている。それに対してゲーミングチェアの背もたれは、リクライニングはするが、角度は固定式だ。自動車のフロントシート、あるいは新幹線や高速バスのシートと同様の作り、といえば分かりやすいだろう。リクライニング用のレバーを引き、体重をかけて適当な角度に倒し、レバーを戻すと、背もたれの角度がホールドされる作りになっている。
例えば、椅子に座ったまま、ぐっと伸びをしたいときや、あるいは背後に手を伸ばしたいときなどは、体重をかけるとそれに応じて倒れ込むビジネスチェアのほうが使い勝手はよい。
長時間座り続けるときは、一定の角度で上半身をしっかり固定するゲーミングチェアにも利点はある。ビジネスチェアも高額な製品になると、任意の角度で背もたれを固定できるようになっているが、この背もたれの違いは椅子を選ぶときに留意すべきポイントだ。

ゲーミングチェアは約3万円で手に入る
ゲーミングチェアの価格的なボリュームゾーンは約3万円だ。先に述べたような高い機能を備えた椅子として考えると、実はこれはかなり安いとも言える。
一方、ビジネスチェアでゲーミングチェアと同等の機能を持ったものを探そうとすると、名の通ったメーカーの製品ではもう少し高くなる傾向がある。ゲーミングチェアは、求められる機能を一通り備えつつ、マーケット的に売れ筋となる3万円程度に収まるように作られているのだ。比較的安価に高い機能を備えた製品が手に入るのも、ゲーミングチェアの魅力だ。

ゲーミングチェアにはインテリアとマッチングしやすい黒やグレーでまとめた製品もある。一方、ゲーミングチェアのように背もたれを任意の角度で固定できるビジネスチェアも存在する。カラーリングや背もたれの構造の違いを考慮し、最終的には好みと予算でどちらを選ぶか決めるのがいいだろう。例外は、テレワークを和室で行う場合だ。
最適な選択肢は「座椅子タイプのゲーミングチェア」だろう。腰のサポートまで含めて背もたれがしっかりしており、リクライニングの角度が調整でき、肘掛けを備え、座面も長時間座ることを考慮してあるなど、ここまで高機能な座椅子はそうそうない。和室でのテレワークには、座椅子タイプのゲーミングチェアをお薦めする。

ビジネスチェアから生まれたゲーミングチェアも


購入機種の選択はできれば実際に座って
筆者は普段、在宅勤務で仕事をこなしている。その経験から椅子に関していくつか付け加えるなら、定評のあるメーカーの製品を買うべきだし、予算の許す限り、高いものを買うべきだ、と思っている。毎日、それも一日に何時間も座り続けるような使い方をしていると、安い椅子ほど、すぐ壊れてしまうからだ。
昨今では壊れた椅子を処分するのも一苦労である点を忘れてはならない。しっかりしたメーカーの製品だとまず壊れにくいし、きちんと修理を受け付けてくれるため、長期間、安心して使い続けられる。何より、いい椅子はやはり快適なのだ。特にビジネスチェアもゲーミングチェアも、高級モデルほど調整箇所が多く、より細かく自分の身体にフィットさせられるうえ、座面の作りも凝っているので、座り心地が格段に向上する。同じメーカーの製品なら、椅子の快適さは確実に予算に比例する。
家具メーカーとして長い歴史を持つ関家具は、「Ergohuman」という高級ビジネスチェアを展開しており、今まで培ってきた経験と技術を注ぎ込んだゲーミングチェアブランド「Contieaks」でも高い評価を得ている。ビジネスチェアとゲーミングチェアの違いを知るメーカーの1社だ。
筆者は9年近く「Ergohuman Basic」を愛用している。常に手が触れ、机の天板とぶつかる肘掛けはだいぶボロボロになり、リクライニングを固定して身じろぎをしたときのキシミ音も少し大きくなった。とはいえ、椅子としての機能が損なわれるような大きなトラブルはいまだ皆無。安くはなかったが、十分に元は取れている。
例えば座面素材の肌触りなど、実物に触れて初めて分かる製品との「相性」もある。いきなり通販などで入手して、仮に不満が見つかったとすれば、高い椅子ほど幻滅は大きいだろう。「これ」という椅子が見つかったら、店頭やショールームで座ってみることをお薦めする。

(ライター 稲垣宗彦=スタジオベントスタッフ)
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