ネット裏から

フォローする

「密」回避で取材規制 選手の本音聞けぬもどかしさ
スポーツライター 浜田昭八

2020/7/12 3:00
保存
共有
印刷
その他

試合後のヒーローインタビューで、アクリル板を挟んで立つ楽天の牧田和久(右)と浅村栄斗(1日)=共同

試合後のヒーローインタビューで、アクリル板を挟んで立つ楽天の牧田和久(右)と浅村栄斗(1日)=共同

「熱意はあるが、熱はありません」と、プロ野球の球場入り口で検温を担当するスタッフに冗談を言った。アルコール消毒をする取材仲間には「手を洗うより、ギャンブルから足を洗え」と悪口を浴びせた。こんなやりとりも度重なるとジョークで通らなくなる。新型コロナ禍が長引き、係員は疲れているし、記者仲間はままならない取材で欲求不満に陥っている。

通常なら試合終了後、ロッカールームへ引き揚げる選手を囲んで取材する。女性リポーターがやさしく「お疲れさま」と、選手全員をねぎらう。「疲れてません」という声がまれに返ってくる。出場できなかった控え組がユーモアにくるみ、起用されない悔しさを表しているのだ。

■話のニュアンス、代表取材では伝わらず

コロナ禍の拡大を避けるため、「密」になりがちな囲み取材は規制されている。だが、本当は選手にぶら下がり「疲れてません」のような、人間味がにじみ出る声を直接聞きたい。そして、的確なニュアンスでファンに伝えたい。

それが、コロナ禍が起きてからの「代表取材」だと、十分にかなえられない。メディア各社が選んだ記者が1人か2人、監督や選手の話を聞いて他社に伝える。話の大意は理解できるし、密を避ける目的を達することもできる。だが、話のニュアンスまでが伝わらないもどかしさは、どうしようもない。

正式の記者会見やヒーローインタビューよりも、囲み取材で本音が聞けることが、圧倒的に多い。近鉄、日本ハム、楽天元監督の梨田昌孝や、阪神の捕手・梅野隆太郎は、この囲み取材に誠実に対応するので取材陣に評判がよかった。ただ、口下手な監督や選手には、思いがけない失言や暴言があるので、球団側が神経をとがらせることもある。

阪神・梅野は囲み取材に誠実に対応してくれるが、コロナ下ではその取材もままならない=共同

阪神・梅野は囲み取材に誠実に対応してくれるが、コロナ下ではその取材もままならない=共同

個人差や状況にもよるが、一般的に勝ったときよりも、負けた後の方で本音がよく漏れるし、人間性がのぞく。負けチームの監督のコメント取材に記者がよく集まるのも、試合の機微を探るコメントを求めてのことだ。このときは、故仰木彬のような如才ない人でも荒れることがある。近鉄監督だったとき、野茂英雄が14四球を乱発して西武に大敗した。矢継ぎ早の質問攻めに「しぇからしか(うるさい)」と九州弁で怒鳴った。代表による間接取材だと、このときの空気を正確に伝えるのは難しかっただろう。

敗戦監督は不調組やミスを犯した選手をこき下ろしたあと、「そんな選手を使ったオレが悪い」とよく言う。本当に自責の念にかられて言っているのか、それとも儀礼的な"接尾辞"なのか。表情を見て、声の響きを感じ取った状態でないと、的確に判断できない。

ヒーロー、KOされた投手、好機に凡退した打者の声も、発言者の真意はどこまで正確なニュアンスで伝わっているのか。元阪神・江本孟紀が途中降板のあとに言ったとされる、有名な「ベンチがアホやから……」は、本当に怒ったのか、それとも口が悪い同氏のいつもの口調だったのか。

元近鉄・加藤哲郎が1989年日本シリーズの巨人戦で好投したあと「巨人は(同年パ・リーグ最下位の)ロッテより弱い」と言ったのが話題になった。ヒーローインタビューのお立ち台で言ったことなのに、その真意はと論議された。これが今の代表取材だったら、とても書けなかった気がする。

■名言・失言聞き逃し、喜怒哀楽見落とす

最近では各紙とも、スポーツ面以外にも署名入り記事が増えた。解説、論評以外のニュース報道にも散見される。記事の責任の所在を明らかにするためだが、大げさにいうと火の粉を浴びた記者でないと、その火事の記事は書けないということになる。だからといって、今の代表取材を是認するわけではない。ただ、取材する側も、される側も、コロナ禍以降は萎縮しているのではないかと思う。

戦国武将やナポレオンの言動を伝えようとしているわけではない。ターゲットは球場へ行けば取材できる巨人・岡本和真やソフトバンク・柳田悠岐だ。球団によって差はあるが、取材陣も球場入りの人数を制限されている。球場入りしてもグラウンドへ入れないし、ベンチへも近づけない状態が続いている。

このコロナ禍の期間に、どれだけの名言、失言を聞き逃し、喜怒哀楽の表情を見落としただろうか。コロナ禍と闘う義務があることは承知しているし、その覚悟もできている。3密回避を錦の御旗に押し立てて、取材コントールに向かう空気はないかと見守りたい。スターや敗戦監督たちのそばに立ち、自分の目で見て、耳で聞いたことを、賛美、悪口を含めておおらかに書きたい。

コロナよ、早く散れ!

(敬称略)

ネット裏からをMyニュースでまとめ読み
フォローする

保存
共有
印刷
その他

プロ野球のコラム

ドラフト会議

電子版トップスポーツトップ

ネット裏から 一覧

フォローする
ソフトバンクの東浜投手=共同共同

 「野球どころ」といえば、京阪神、愛知を中心とした中京地区、広島県や北四国などが挙げられる時代が続いた。名門、古豪と呼ばれる学校がさまざまな大会の優勝を争い、新興チームに付け入るスキを与えなかった。だ …続き (8/9)

試合後のヒーローインタビューで、アクリル板を挟んで立つ楽天の牧田和久(右)と浅村栄斗(1日)=共同共同


 「熱意はあるが、熱はありません」と、プロ野球の球場入り口で検温を担当するスタッフに冗談を言った。アルコール消毒をする取材仲間には「手を洗うより、ギャンブルから足を洗え」と悪口を浴びせた。こんなやりと …続き (7/12)

捕手が本職の栗原だが、首脳陣は打撃力も買っている。一塁手で起用もありそうだ=共同共同

 プロ野球にやっと遅い春がやってきた。当初の予定は3月20日開幕だったが、なんと3カ月遅れの6月19日開幕だ。それでも各チーム120試合をやろうというのだから、相当な過密日程になる。コロナ禍による開幕 …続き (6/14)

ハイライト・スポーツ

[PR]