ホンダ・新ハンターカブ 乗って分かった大人な高品質

ホンダの「CT125・ハンターカブ 」が売れ行き好調だという。2019年の東京モーターショーでコンセプトモデルとして出展され、多くの反響を呼んだモデルだ。6月26日の発売日前から人気を集め、ホンダの広報によると事前予約分で年間販売目標台数の8000台をすでに達成、1万台にも届く勢いだという。単一車種、そして125ccにしては高価(44万円・税込み)であることを考慮すれば、すでに大ヒットと言っても差し支えない。試乗した印象をリポートする。
今回は早いタイミングで試乗したかったため、広報車ではなくホンダのレンタルバイクサービス「HondaGO BIKE RENTAL」を利用した。ホンダのドリーム店など全国の約250店舗で車両を借りられるサービスだ。
スーパーカブの派生モデルとして世界で人気
CT125・ハンターカブはホンダがかつて販売していた「CT110」をスタイリングのモチーフに……というか現代の技術でつくられたレプリカである。
CT110とはご存じ「ス―パーカブ」をベースに不整地走行を可能とする装備が与えられた派生モデル。北米やオセアニアといった地域では農園管理業務や釣り、狩猟などのアウトドアレジャー用として支持され、1980年から2012年の長きにわたって生産された。

ただ、日本国内では80年代初頭に販売されたものの数年で絶版となった。国内では流通量があまり多くなく、中古車はマニアの間で高値取引されている。大人気となった理由のひとつはCT110の再来を待望していたライダーがもともと多かったからだろう。
実車を目にするとホンダはそうした状況をよく理解しているのだと感心した。少なくともルックスに関しては「もっとここがこうだったら……」と文句をつけるような余地がほとんどなく、あらゆる部分がファンの要望を具現化した意匠になっている。
CT125・ハンターカブのベースになっているのは「ス―パーカブ C125」というモデルだが、アップタイプのマフラーやエンジンを保護するスキッドプレート、大型リアキャリア、エアクリーナーやウインカー、フロントフェンダーなど、CT110で象徴的だったディテールをすべて専用部品で再現。イメージを一新している。


また、フレームに補強を加え、サスペンションのストロークもアップさせるなど、機能的な部分もしっかりオフロードを走ることを想定してつくりこまれている。これなら頑固なファンはもとより、一般消費者の目にもタフなギアとして魅力的に映るだろう。
それにしてもプレス鋼板に丸パイプを溶接した骨格をもつCT110と、鋼管フレームのス―パーカブC125では車体構造自体がまるで違うのに、よくぞここまでそっくりにできたものである。

シート高はやや高め、痛快な音
またがるとオフロード走行を想定して最低地上高をアップしているため、シート高がやや高め。身長170センチの筆者だと両足のかかとが結構浮く。パワーユニットは125ccの空冷単気筒エンジンに遠心クラッチ式の4速トランスミッションの組み合わせ。クラッチ操作を行う必要がなく、ブーン、ガチャン、ブーンという新聞配達でおなじみのメカニズムだ。
走り出してまず印象的だったのはアップマフラーが奏でる排気音。パパパパと乾いた音質でじつに痛快だ。物理的に排気口の位置がライダーに近いこともあって、ノーマルマフラーにしてはかなり元気なサウンドに感じる。これは筆者の推測にすぎないが、開発陣がかなり頑張って排気音をチューニングした成果なのではないだろうか。派生モデルも含め、ス―パーカブにはずいぶん乗ってきたが「音が良い」と感じたのはこれが初めてのことである。


エンジンは低・中速域で粘り強いトルクを発揮するタイプ。ルーズに2速のまま発進しても後ろの車からつつかれることなく、しっかり巡航速度まで達することができる。不整地はもちろん、ストップ&ゴーの連続する市街地でもありがたい特性だ。
これはCT125・ハンターカブに限ったことではないが、現在のス―パーカブシリーズは車体剛性がとても高く、一般道の速度域なら「走る・曲がる・止まる」にまったく不満はない。ライダーの操作に対し、ダイレクトかつ正確に車体が反応してくれるので、いかにもモーターサイクル的な一体感のあるライディングが楽しめる。古いス―パーカブにしか乗ったことのない人はきっと驚くに違いない。


今回の試乗はレンタルバイクのため、残念ながらオフロード走行はできなかった。もっともCT125・ハンターカブに求められるオフロード性能とは、モトクロスコースのハードな不整地を速く走るためのものではなく、ツーリング途中に見つけた未舗装林道をトコトコと楽しく走れればそれで良いといったものである。サスペンションの動きがどうだとか、トラクションがどうだとかいう細かな走行性能を論じるような筋合いのものではない。イージーに運転でき、軽量・コンパクトで最低地上高が確保された車体、中低速域で力強いエンジンが備わっていれば、それだけで十分といえる。
ひとつだけ気になったのはシートだ。これも例によってCT110そっくりな形状なのだが、体重68キロの筆者が座ると底付き感があり、1時間も走っているとお尻が痛くなってしまった。「一気走り」の好きなライダーは対策する必要があるだろう。
楽しさを追求した「趣味」の乗り物
現在、ホンダのラインアップにはクロスカブ110というモデルがある。コンセプト的には、これこそかつてのCT110の後継車のはずだったが、CT125・ハンターカブが登場したことでそのポジションが微妙なものになってしまった。
私の印象としてはクロスカブ110は遊び要素をプラスした実用車。CT125・ハンターカブはモーターサイクルとしての楽しさを追求した純粋な「趣味」の乗り物である。
日本の二輪ユーザーは高年齢化が進んでおり、日本自動車工業会の調査によれば、全体の平均年齢は54.7歳だという。もっともボリュームの大きい80年代バイクブーム世代がそのまま年を重ねているということだろう。

CT125・ハンターカブの人気はそうしたことも影響していると想像する。体力が衰えれば大きなバイクを扱うのはおっくうになるし、長距離ツーリングに出かける機会だって減るからだ。また、これは私自身がそうなのだが、年を重ねて見識が広まると旅の志向も変化してくる。高速道路でわざわざ遠方の有名観光地へ行くより、下道で身近なスポットをゆっくり巡る方が楽しめるのだ。
これまで、125ccのモーターサイクルといえば、ビギナーライダーのステップアップ的な位置付けであり、大排気量バイクの縮小コピーのようなモデルが多かった。その点、CT125・ハンターカブは大型バイクから「ステップダウン」しても違和感のないクラスレスの高品質感とキャラクターがある。そういうことなら、多少高価であることもマイナスの要素にはならないはずだ。二輪と四輪という違いはあるが、いまだ人気が衰えないスズキ・ジムニーにもどこか通じるものを感じる。過去のモデルの安易な復刻ではなく、とても先見性のある商品企画だと思った。
なお、市街地を70キロほど走ってみたところ燃費は約46キロ/リットルだった。消費燃料が少なすぎてあまり正確な数字が出ていないとは思うが、5.3リットルの燃料タンクだと航続距離は240キロ以上になる。

全長×全幅×全高=1960×805×1085mm
シート高=800mm
最低地上高=165mm
車両重量=120kg
エンジン=124cc空冷4ストロークOHC単気筒
最高出力=8.8ps/7000rpm
最大トルク=1.1kgf・m/4500rpm
乗車定員=2人
価格=44万円(税込み)
(ライター 佐藤旅宇)
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