「水害タイムライン」先進地も被害甚大 住民周知に課題

2020/7/9 18:22 (2020/7/10 5:47更新)
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豪雨被害にあった熊本県人吉市。浸水被害を受けた住宅街では廃棄された家財道具類が山積みになっていた(9日午後)

豪雨被害にあった熊本県人吉市。浸水被害を受けた住宅街では廃棄された家財道具類が山積みになっていた(9日午後)

九州で記録的な豪雨に見舞われた川沿いの自治体の多くは、災害時に行政や住民がとるべき行動を時系列でまとめた「タイムライン」をつくり、水害に備えてきた。先進地とされる熊本県人吉市も計画に沿って避難情報を出したが、早期避難につながらなかった。実効性確保には住民への周知徹底が改めて求められる。

「タイムラインに沿って対応できていたが、被害が出てしまった」。熊本県人吉市の幹部は7日、悔しげに語った。

同市は「暴れ川」といわれる球磨川を抱え、過去にもたびたび水害があったことから早期にタイムライン策定に着手。今年6月には球磨川の支流河川の氾濫や土砂災害への対応を定めた全国初の「マルチハザードタイムライン」の試行版を完成させるなど先進地として知られている。

2016年6月から運用している「球磨川水害タイムライン」は、平常時から氾濫発生までを0~6の7段階に分け、避難勧告・指示の発表や避難所の開設、救助活動など行政の各部署や消防などの関係機関が取るべき行動を時間軸に沿って定めている。

同市は豪雨直前の3日午後4時にも球磨村や、国土交通省八代河川国道事務所、気象台などとタイムラインの運用会議を実施。早めの避難所開設などの対応を確認していた。市は計画に沿って3日深夜から一部地域に避難勧告を出し始め、4日午前5時15分には全域に避難指示を発令。だが、市内では逃げ遅れなどで18人(9日時点)が亡くなった。

市によると、現在のタイムラインは複数の死者が出た1965年7月の洪水の雨の降り方を想定して設計された。「80年に1度」の規模の降水量で、球磨川の人吉地点の上流域で2日間で440ミリの雨が降ったことを前提に計画は練られた。

今回の豪雨では4日までの2日間で計420ミリの雨が降り、想定の範囲内ではあったが、1時間雨量が60ミリを超える時間帯もあり、局所的な豪雨で球磨川があふれた。タイムラインの運用開始後、7段階で最も危険度が高い「氾濫発生」を経験したのは初めてだった。

市幹部は「計画通りに動いたが、朝方だった事情もあり、住民の避難に結びついたかどうかの判断は難しい。今回の急激な水位上昇を踏まえ、計画の見直しが必要だ」と住民が眠っている時間帯の避難の難しさを口にした。

球磨川近くの自宅が浸水して首まで水につかった同市の男性(73)はタイムラインの存在を知らなかった。浸水前に屋外のスピーカーから流れた音は聞き取れず、自宅にとどまり、濁流に襲われた。「避難の行動計画があっても、事前に住民一人ひとりが理解していなければ意味がない」と自戒を込めて語る。

隣にある球磨村も16年6月に作成したタイムラインに基づき、3日午後5時に避難準備の情報を出した。5段階の警戒レベルのレベル3「避難準備・高齢者等避難開始」にあたり、高齢者などに避難を始めるよう呼びかけた。村の防災担当者は「この段階で発令できたのはタイムラインがあったから。実際に避難した人もいた」と一定の効果を指摘する。

だが、村の渡地区に国交省が設置した水位計では、4日午前0時に3.16メートルだった球磨川の水位は同4時までに氾濫危険水位(8.7メートル)を超え、同7時には12.55メートルに達し、その後は欠測となった。未明の数時間で水位は急激に上昇した。

結果的に9日時点で19人が死亡、5人が行方不明となっており、被害を防ぐことができなかった。村の担当者は「タイムラインを作るだけでなく、役場や関係機関が計画に沿って行動していることを村民に理解してもらい、避難につなげる必要があった」と振り返り、「村民への周知が一番の課題だ」と話した。

■行動計画の策定広がる 専門家「有効だが万能薬ではない」
 国土交通省によると、国が管理する河川流域にある約730市町村の全てがタイムラインを導入済みだ。都道府県管理河川の流域でも8割程度の市町村が作成するなど、防災に活用する動きは広がっている。
 同省は2015年の関東・東北豪雨で、氾濫危険情報が発表された45市町村における避難勧告・指示の発令率を調査。タイムライン策定済みの18市町村は発令率が72%に上ったが、未策定の27市町村では33%にとどまり、策定には一定の効果が確認されている。
 京都大防災研究所の牧紀男教授は「タイムラインは有効な手段だが万能薬ではない。想定外の水害を踏まえ、毎年見直しが必要だ」と指摘。有効活用するには住民側も個々にタイムラインをつくることが重要だとし「例えば近所の側溝の水位に応じて避難の目安を決めておくなど、地域の特性に合わせて身近な目印をつくるのが有効だ」と話している。
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