日本企業はコロナに弱いのか?(平山賢一)
東京海上アセットマネジメント執行役員運用本部長

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2020/7/10 2:00
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写真はイメージ=PIXTA

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コロナショック後の日本企業の位置づけは、歴史的にみると、やはり弱体化しているのでしょうか? 企業は千差万別ですからひとくくりに考えることは慎まねばなりませんが、歴史的な推移で比較すれば、一般的には二つの企業財務指標が答えてくれるはずです。そこで以下では、戦前も含めた企業の歴史を振り返り、長期的な財務データを確認してみましょう。

今回取り上げる指標は、自己資本比率と自己資本利益率です。自己資本比率は、総資産に対する自己資本の割合を示し、銀行からの借り入れや社債といった負債にどの程度頼っていないかを示す指標です。返済不要の自己資本の比率が高いということは、会社の経営は安定し、倒産しにくい傾向がありますから、安定性の指標と言えるでしょう。一方、自己資本利益率は、ROE(Return on Equity)と称されることが多く、企業が資本をどれだけ効率的に利用して、利益を計上しているのかを示す収益性の指標になっています。この数値が高ければ、株主から託された資本を効率的に活用して利益を出している企業と言えます。

この二つの指標を見るにあたっては戦前期から一貫した日本企業データを取得するのは難しいため、いくつかのデータをつなぎ合わせて、その傾向を確認したいと思います。コロナショックのような大変動が発生した際には、長期のデータで現在の位置づけを確認する意味が大きくなるからです。

第一に、自己資本比率は、第1次世界大戦の好況後に、70%台という高水準を記録していたものの、第2次世界大戦にかけて、低下基調で推移し、1942年には50%を下回っています。戦時統制の強化とともに、銀行等から間接的に資金を調達する借入金が肥大化し、投資家から資本を調達する直接金融の割合が低下したわけです(社債除く)。この時の銀行融資中心の資金調達パターンは、戦後も引き継がれ、高度経済成長を経て1970年代半ばまで自己資本比率は低下し続けます。1975年には、自己資本比率は15%台を下回るまでに落ち込み、企業の資金調達の主役は、間接金融が大部分を占めるようになったのです。

その後、企業で蓄積された剰余金等の内部留保の増加は、80年代以降の自己資本比率の上昇基調を支え、さらにバブル崩壊以降は、負債による設備投資を抑制する保守的な経営が主力化したため、自己資本比率は上昇に転じました。2018年度には、戦後最高水準の50%に迫る水準まで自己資本比率が上昇しており、米国企業の一部が負債を拡大して自社株買いに走るのとは違い、安定性が高まっていると言えるでしょう。企業財務のサステナビリティ(持続可能性)の点で日本企業は、再評価される対象になり始めています。

第二に、ROEは、第1次世界大戦の好況に支えられた1919年に30%を上回るまで大幅に上昇しています。大正期の純利益データは償却前の数値であるため、今の基準なら20%前後まで水準調整されるものの、過去100年では最高水準の利益率であったと言えるでしょう。その後、世界恐慌が影響した1930年のROEは、2.8%まで低下します。日本銀行の国債引き受けをはじめとする金融緩和等を追い風に1939年には10.7%まで回復するものの、第2次世界大戦期には徐々に低下して1942年には9.0%まで低下し終戦を迎えるのでした(おおむね第2次世界大戦をはさんでのROEは、平均8.7%)。

その後は高度経済成長により1969年に16.1%を記録するものの、オイルショック、バブル、およびその崩壊を経験する中で落ち込んだ後に、2001年のマイナス1.3%をボトムに上昇基調で9.3%まで回復しています。

興味深い点は、21世紀に入ってからの日本企業は、自己資本比率が上昇する安定化局面にもかかわらず、ROEも上昇して収益性も同時に上昇しているという点です。1960年度から2018年度にかけてのROE(金融業、保険業以外の業種・資本金10億円以上)は7.1%であったことから、平時は通称「伊藤リポート」が指摘するように8%程度が妥当な水準になりつつあると言えそうです。

これら二つのデータから見えるように、日本企業は、安定性を高めつつ収益構造が好転しているという歴史的に強いポジショニングを生かしたいものです。投資家にとっては、変動率の大きいアフターコロナに適応できる日本企業の株式を厳選し、ポートフォリオに加えておきたいと言えそうです。

プロのポートフォリオは運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に語りかけるコラムです。
平山賢一(ひらやま・けんいち)


1966年生まれ。横浜市大商卒、埼玉大大学院修了。博士(経済学)。学習院女子大・東洋大非常勤講師。30年にわたり内外株式や債券を運用。著書に「戦前・戦時期の金融市場」。

[日経ヴェリタス2020年7月12日付]

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