快進撃「業務スーパー」 工場から商社まで持つ理由

日経ビジネス
コラム(ビジネス)
2020/7/10 2:00
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世界の菓子や食材が手ごろな価格で買える「業務スーパー」(写真:菅野勝男)

世界の菓子や食材が手ごろな価格で買える「業務スーパー」(写真:菅野勝男)

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7月上旬の週末、東京都内にある「業務スーパー」の店舗を訪れた。段ボールケースに入ったままの缶詰や瓶詰、パッケージ商品などが所狭しと並び、多くの来店客が狭い通路で他の客とぶつかりそうになりながら買い物をしていた。

「杏仁豆腐1キロ」185円、「京風だし巻」137円、「トリノで作ったトマトパスタソース680グラム」238円、「イタリア直輸入のティラミス」248円――。ほとんどの来店客が買い物かごいっぱいに商品を入れ、大量に買い込んでいく。決め手は価格。他の大手スーパーに比べて平均で「2~3割程度安い」(業務スーパー担当者)ことが顧客を引き付けている。

全国に900店舗近い数の「業務スーパー」を展開するのが、食品スーパー業界で成長著しい神戸物産だ。新型コロナウイルスの感染拡大を受けた在宅時間の増加により、食品スーパーは軒並み好調だったが、業務スーパーの勢いはひときわ目立つ。

日本スーパーマーケット協会など食品スーパー業界3団体が発表した3月の全国食品スーパー売上高(速報値、既存店ベース)が前年同月比7.4%増だった。それに対し、神戸物産は売上高が同33.7%増で、営業利益も40.0%増えた。時価総額も今年3月末までの1年間で倍増した。7月3日時点でローソン日本マクドナルドホールディングスを上回る8426億円だ。

強さの秘訣が、神戸物産独自の製販一体体制だ。小売業を営みながら、国内で菓子や総菜などの22工場を抱える製造業でもあり、海外約40カ国から商品を自ら輸入する商社機能も併せ持つ。同社では、これらの自社製造拠点や自前の輸入ルートによる独自商品をプライベート(PB)商品と呼び、その比率は販売商品全体の3割に上る。

■自前や委託の養鶏場から自社加工工場まで

多くの小売業では、PB商品というとメーカーに生産委託しているものがほとんどだ。製販の分業こそが効率を高めるとの考えから、製造を他社に任せ、販売に徹する企業がほとんどだからだ。だが、神戸物産はそうした機能までも自社内で抱えることで、むしろ他社以上の高効率経営を実現し、価格競争力につなげているのがユニークな点だ。

例えば、人気商品の「若どりもも2kg」。一般的な食品スーパーであれば、鶏を処理してから、物流会社を経て、店頭に並ぶまで、複数の工程で他社の力を借りる必要がある。

ところが、業務スーパーの場合、ほとんど自前の拠点しか通らない。群馬県や岡山県にあって100万羽以上を飼育する自前や委託の養鶏場から自社加工工場を経て、店頭に並ぶ。この、他社なら2~3日かかる行程も、同社なら1日で済むこともあり、当然、コスト削減につながっている。

■歴史が長い商社ビジネス

同社には、この10年ほどで、若い主婦層に注目されヒット商品になったイタリア産のパスタソースやタイ産のグリーンカレーのもとといった輸入食品がある。これらも、神戸物産が持つ独自の輸入ルートを利用したもので、輸入品を専門に扱うスーパーなどと比べても総じて価格は安い。

最近は、神戸物産の快進撃を見て輸入商品の取り扱いを増やす同業者が増えてきた。それでも、神戸物産の沼田博和社長は「ロシアのボルシチのもとなど、日本ではあまりなじみがなかった商品まで手掛け、新しい市場を開拓できる企業は少ない」と自信を見せる。

2012年に就任した沼田博和社長。「世界の定番商品の販売強化で客層が広がった」と話す(写真:菅野勝男)

2012年に就任した沼田博和社長。「世界の定番商品の販売強化で客層が広がった」と話す(写真:菅野勝男)

神戸物産が独自ルートで世界各地の商品を開拓できるのは、商社ビジネスの歴史の長さによるところが大きい。

もともと同社は直営の食品スーパーを2~3店舗展開しながら、並行して食品製造や商社のビジネスも手掛けていた。今から20年以上前の1990年代に中国で工場を建設して、わさびや漬物の生産を始めたのが発端だ。安い人件費を利用することが主な目的だったが、世界的な和食ブームの広がりもあって、欧米やアジアへの輸出も拡大し、海外各国の企業とのチャネルができた。

現在、同社内には、各国の流通事情などに詳しい外国人や海外在住経験のあるバイヤーが約15人いる。このバイヤーが世界中を走り回って商品開拓を進めている。

「業務スーパー」の看板。その名前から当初は飲食業者などの客が多かったが、「一般のお客様大歓迎」と書き加えることで、今では一般客の方が多くなっている(写真:菅野勝男)

「業務スーパー」の看板。その名前から当初は飲食業者などの客が多かったが、「一般のお客様大歓迎」と書き加えることで、今では一般客の方が多くなっている(写真:菅野勝男)

輸入品の多くは船便を使って大型コンテナで運んでおり、1回の輸入量が多いためコストダウンにつながる。そして、その大量の輸入商品をさばくために力を発揮しているのが、世界でもほとんど例がないという食品スーパーのフランチャイズチェーン(FC)体制だ。

実は神戸物産がこの体制を築き上げるまでには、曲折があった。

兵庫県内にある神戸物産の倉庫や事務所に、中国の自社工場で作った食品が次々と届き、在庫が天井に迫るほど積み上がった――。これは今から約20年前の2000年代前半のことだ。当時、自社で展開するスーパーはたった3店舗しかなかった。輸入量に対して店舗数があまりに少なかったのである。

「大量生産と直輸入で低コストを実現したものの、この在庫をさばくには、一体どうしたらよいのか」。当時、創業者で博和氏の父親でもある沼田昭二氏が社長時代に思いついたのがFC店展開だった。FC店であれば、神戸物産が人材を抱えたり設備をそろえたりする必要がなく、出店を一気に加速できるとみたからだ。

■3年間でFC店100店舗以上に

同時に「原則として、野菜や魚肉といった生鮮品を扱わない」という方針も立てた。

食品スーパーとしては常識外れとも言えそうな方針だが、深い考えがある。生鮮品は賞味期限や消費期限が短く、廃棄ロスが大きい。賞味期限が長く、陳列の際にもあまり気を使わずに済む缶詰、瓶詰、パッケージ商品、冷凍商品に絞り込み、圧倒的な低価格で売れば、必ず在庫がさばけると考えた。現在も、FC店が独自に仕入れルートを持っている場合のみ生鮮品を扱っている。

「これならいける」。確信を得た昭二氏は、2000年以降、一気にFC店の拡大を進めた。流通網や倉庫の整備、新店立ち上げのサポートなどでコストがかかり、当初は赤字が続いたが50店舗を超えたあたりから新体制が軌道に乗ってきた。00年に直営3店舗だけだったチェーン展開は、3年後には100店舗以上に達した。

そして、そうしたFC店の急拡大を後押ししたのが、同社独自の工場で作った商品の安さだった。

「本当にそんな低価格とFC展開は成り立つのか」。店舗数を増やし始めた当初、業界関係者はそろって懐疑的な視線を投げかけていたという。しかし、そういう人たちを実際に店舗に招き、商品を食べてもらうと、誰もが納得したという。当時、FC加盟店のオーナーは「安さは圧倒的で、驚異的と言えるほどだった」と口をそろえていたという。

■生産拠点のM&Aを進める

業務スーパーの店舗数は5月末で865店で、この1年間では約40店舗増やした。今後も「いけるところまで増やす」(沼田社長)計画だ。本拠地である関西と比較して出遅れている首都圏では、出店を加速して店舗数を現在の2倍以上にする計画だ。沼田社長は「業務スーパーの店舗立地はあまり良くないが、それでもお客さまの生活圏で1番か2番目に選んでもらえるスーパーにしたい」と意気込む。

神戸物産にとって製造部門と商社部門は車の両輪。製造部門では国内グループ工場のM&A(合併・買収)を一段と推進するほか、商社部門も引き続き海外で独自の輸入品を開拓する。現在、売り上げ全体の3割を占めるPB商品の比率も毎年0.5~1ポイントずつ高めていく計画だ。

多くの小売業が外部に任せようと考える部門を積極的に内部に取り込み、商品力やコスト競争力を高める神戸物産の戦略は異彩を放つ。当面、小売業内での存在感も高まっていきそうだ。

(日経ビジネス 中山玲子)

[日経ビジネス電子版2020年7月8日の記事を再構成]

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