今日も走ろう(鏑木毅)

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分断の溝埋めるフェアプレー 心を結ぶスポーツの力

2020/7/9 3:00
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5月に米ミネアポリスで起きた白人警察官による黒人殺害事件は、瞬く間に全世界で人種差別を非難する声となった。一部は暴徒化し略奪におよんだという。以前からこの国では警察官による黒人への不当な対応が後を絶たず、潜在的な不満はあったらしい。それがコロナ禍における人々の不安心理で増幅され、大きく広がった。

一般的に社会不安になるとこのような差別や偏見といった動きは大きくなるという。日本でも1923年の関東大震災では暴動や凶悪犯罪を画策しているとのデマから標的とされた朝鮮の人が警官や民間の自警団に虐殺された。

コロナ禍のいま、日本では以前には見られなかった地域的な差別意識がまん延しつつある。県外ナンバー車への嫌がらせに巻き込まれぬよう、地元車であることを示すステッカーを掲げるのだそうだ。自治体がそれを推奨するケースもあるといい、個々にいろんな事情があるにせよ、不当な差別意識の芽にお上が水を与えてしまっているようで、なんとも悲しい気持ちになる。

2008年UTMBのゴールまで最後の上りと格闘する筆者

2008年UTMBのゴールまで最後の上りと格闘する筆者

いじめや差別は人類の本質的なもので、決してなくならないとよくいわれる。それでもこのような世相が今後広がっていくのかと思うだけで暗たんたる思いだ。

スポーツでもさまざまな差別に直面することがある。以前、ヨーロッパのウルトラトレイルレースの終盤130キロメートルを超えた時のこと。長い峠の上りでうなだれ、時折立ち止まり肩で息をしている欧米選手を目にした。極度の疲労か体調不良か、わからなかったがつらそうだったので、背中に手を添えて「峠まであと少しだ」と伝えると、弱々しくほほ笑んだが眼の奥には闘志がみなぎったのが見て取れた。

あとでわかったが、彼は私の顔を見てアジア人には絶対に負けたくないと必死に私を追い続け、みごと入賞を果たしたのだった。表彰式でそのスペイン人が感謝の気持ちを伝えにわざわざ私のところへやって来た。上位争いをしているのにライバルから優しく声をかけられたのがうれしく、どうしても話したかったという。私はこの言葉を聞いて恥ずかしくなった。声をかけたのはもちろん、彼の体調を気づかう気持ちもあったけれど、実は自分に余力があるのを示し、追走する気を萎えさせようという意図があったからだ。

欧州勢が主流のレースで、アジア人の活躍に対し、ねたみや偏見もあったのは確かだが、レース後の交流では誰もが互いにたたえ合った。いわばノーサイドの精神。スポーツは潜在的に差別や偏見の壁を乗り越える力を持っているといわれる。ただし、それはフェアプレーあってこそ。互いを敬い切磋琢磨(せっさたくま)すれば、人種的な違いなどさしたるものではないと気づく。スポーツの真の意義は勝敗でなく、人と人の心をこのように結びつけるところにあり、まさにスポーツの持つ偉大な力なのかもしれない。

来年夏に延期された東京オリンピックの開催はいまだに不透明な要素が山積みだけれど、コロナの世界的な惨禍で分断された人々の心をつなぐ役割を果たせるものになってほしい。

(プロトレイルランナー)

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