富士通の自動翻訳、言語の壁低く(古今東西万博考)
1985年・つくば

1985年のつくば科学万博に、富士通は創立50周年記念事業の一環としてパビリオンを出展。目玉の一つが「富士通自動翻訳システム」だった。来場者が専用のペンで日本語の文章を入力すると、数秒から10秒ほどで英独仏の3カ国語に翻訳され、モニターに映し出された。当時としては先進的で大人も子どもも目を丸くした。
当時、一般に流通していた電訳機は、単語や文章を単純に外国語に置き換える方式。複数の訳語がある場合はうまく翻訳できないこともあり、構文が異なる言語への対応も困難だった。
これに対し、富士通が同万博の翻訳システムで採用したのは「ピボット方式」と呼ばれる。翻訳対象の文章にある各単語の意味、構文上の関係性などを記号化。いったん中間言語に置き換えた上で目的の言語に変換するため、多言語への対応も容易になった。
たとえば「うまい手があるよ」を英文にすると正解は「I have a good idea」。従来型だと「うまい=delicious」「手=hand」と単純に変換することもあったが、ピボット方式では「私に良い考えがある」という意味、構文を記号に置き換えた上で、的確に翻訳した。
これらの変換ルールの整備には専門家の力が必要で、開発コストが大きな壁だったが、現在はAI(人工知能)によるディープラーニング(深層学習)で翻訳の精度を高めている。ここ数年の進化は日進月歩。スマートフォン用の翻訳アプリや携帯翻訳機も使いやすくなった。
2025年の国際博覧会(大阪・関西万博)では海外から約350万人の来場を見込む。「言葉の壁」が今よりさらに低くなり、楽しげな会話が飛び交う光景を期待したい。
(古田翔悟)

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