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京都「ミルクコーヒー」始まりは 大正~昭和、議論のお供

とことん調査隊

京都市の老舗喫茶店で「ミルクコーヒー」というメニューを見かけた。注文すると、金属製の持ち手が付いた細長い透明グラスでカフェオレが運ばれてくる。まろやかな味に優しさを感じつつ、ふと京都ではコーヒーにミルクを入れる飲み方が浸透しているのではと思い、喫茶店に聞いてみた。

5月末、京都・河原町三条にある喫茶店「六曜社珈琲店」を訪れた。ブレンドコーヒーを頼もうとしたが、周りを見渡すと薄茶色のドリンクを飲んでいる客が多い。気が変わり「ミルクコーヒー」を注文。正体はカフェオレだった。

同店は1950年の創業当初からカフェオレを提供してきたという。「ミルクを入れるのは西洋のカフェ文化の王道」と2代目の奥野修さん(68)。1階フロアを任されている3代目の薫平さん(36)は「ミルクコーヒーの注文はブレンドに続いて多い。伝統的に渋みのあるブレンドなので、それを和らげるミルクは相性がいいです」と話す。透明グラスも特徴的。金属の持ち手部分を外すと、アイスミルクコーヒーの容器となる。

総務省の家計調査によると2017~19年の平均で京都市の1世帯あたりのコーヒーの年間支出金額は8555円(全国平均は6295円)と全国1位。さらに牛乳の支出額は2位、パンの支出額も上位と「洋」の食文化が際立つ。パンのお供にコーヒーか牛乳という家庭の朝食風景も想像できたが、コーヒーと牛乳の両方を混ぜる京都の喫茶店の方が先に頭に浮かんだ。

京都中心に喫茶店を展開する「イノダコーヒ」の1番人気は、植物性油脂由来のフレッシュミルクと砂糖があらかじめ入った「アラビアの真珠」だ。注文時に「ミルクと砂糖をお入れしてもよろしいでしょうか」と尋ねられる。京都に長く住む知人から「入れて飲むのが京都スタイル」と聞いていた。烏丸御池の本店2階には、「冷めたホットコーヒーにミルクが上手く混ざらなかった事から生まれた」と由来が記されていた。「呉服屋の旦那衆や経営者らが商談に夢中で入れ忘れることが多かった」(同社)という。

1930年創業、百万遍の「進々堂京大北門前」もフレッシュミルクを入れたコーヒー「カフェ」を提供している。店主の川口聡さん(58)は「まだコーヒーが一般的ではなかった当時、黒色のえたいの知れない飲み物に抵抗があったのではないか」と推測。創業のきっかけは「曽祖父が見たパリのカフェで学生が議論に熱中する光景」と川口さん。呉服商や経営者の場合同様、議論に熱中してもおいしく飲めるようにと、学生への心くばりもあったのだろう。

では、牛乳や乳製品を入れて飲むコーヒーはいつごろから市民権を得ていたのか。大正時代には牛乳を提供する喫茶「ミルクホール」が広がりにぎわったが、川口さんは「ミルクホールでもミルクとコーヒーを混ぜて出す場合があったと聞いている」。

神奈川県の守山乳業が日本で初めての瓶入り珈琲牛乳を販売したのが23年なので、大正から昭和初期ごろに浸透していったのではないかと推測した。その時期の文学作品に記載がないか、ネット上の青空文庫をあさると芥川龍之介の晩年作「歯車」(27年)で面白い表現に出くわした。作中に「僕」は「ホテル」で「牛乳を入れない珈琲を飲み……」とある。裏を返すと、芥川は少なからず牛乳を入れてコーヒーを飲んでいた。

喫茶文化が色濃く残る京都ではそういった当時からの飲み方がいまに伝わる。ちなみに神戸市ではミルクコーヒーを略して「ミーコ」と呼ぶらしい。ミルクコーヒーで有名な「上島珈琲店」は、神戸の会社が運営している。ミルクとコーヒーのこの独特の関係は、関西に根付いているようだ。

(村上由樹)

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