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テニス選手は不安だらけ ジョコ陽性を教訓に

2020/7/8 3:00
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6月23日、男子テニスで世界ランキング1位のノバク・ジョコビッチ(セルビア)が新型コロナウイルス感染を発表。「なぜこんなことに……」。テニス界に衝撃、というより落胆と怒りが入り交じった空気が流れた。1週間ほど前に、ATPが統括する男子ツアー、WTAの女子ツアーの8月からの再開が決まり、全米オープンの開催も正式に発表されていた。そうした久しぶりの明るい話題に水を差すことになってしまった。

アドリア・ツアー第1戦を前に子供たちと記念撮影するジョコビッチ(左奥から2人目)ら選手=ロイター

アドリア・ツアー第1戦を前に子供たちと記念撮影するジョコビッチ(左奥から2人目)ら選手=ロイター

感染の場となったのは、ジョコビッチが主催するエキシビション大会「アドリア・ツアー」。6月13日に始まり、週末ごとに旧ユーゴスラビアの4カ所を回る予定の慈善大会だ。自身の故郷ベオグラードで行われた初回は観客を入れ、選手も試合後に握手をするなど「コロナ前」と変わらぬ形で運営された。コート外も同様で、選手らはバスケットボールやサッカーに興じ、クラブではしゃぐ姿まで伝わってきた。

その1週間後、クロアチア大会で事態は暗転した。選手の一人、グリゴル・ディミトロフ(ブルガリア)の感染が判明してツアーは即中止。クラスター(感染者集団)が発生したようで、ボルナ・チョリッチ(クロアチア)ら3選手、ジョコビッチの妻や他の選手の妊娠中の妻、そしてジョコビッチのコーチも検査で陽性となった。

セルビアでのアドリア・ツアーでプレーするジョコビッチ=ロイター

セルビアでのアドリア・ツアーでプレーするジョコビッチ=ロイター

同情すべき点はある。セルビア、クロアチアでは発表される新型コロナウイルスの感染者数はさほど多くない。経済協力開発機構(OECD)のリポートによると、セルビアは5月上旬に非常事態が解除され、市民の行動制限はなくなった。6月に入ると、人と人の間隔を1メートル以上あければ、屋外での集会人数にも制限はなくなっていた。

だが気を緩めると、新型コロナウイルスは知らぬ間に忍び寄り、瞬く間に感染していく――。テニス界にとってこれほどの災いはないだろう。フランス、ドイツ、米国でそれぞれ無観客のエキシビションマッチは行われているが、この一件で国境をまたいで転戦するツアーへの不安を一気に増幅させてしまった。

基本的にツアーは再開すべきだという立場のダニエル

基本的にツアーは再開すべきだという立場のダニエル

アドリア・ツアーのさなか、ATP選手が400人も集まり、オンラインでミーティングをした。「クレージーなニュースに相当ざわついた。この先が不安という選手が多かった。僕は全米にも前向きだし、試合に出たいけれど、出たくない人もたくさんいる。難しい時期ですね」と、会議に参加したダニエル太郎(エイブル)。基本的にツアーは再開すべきだという立場だ。「怖がってテニスをやらないより、厳しいルール下でやった方がプロダクティブ(生産的)」。トライ&エラーを繰り返し、コロナ時代のツアーのあり方が見えればいいという。

問題なのは「厳しいルール」というのがいまひとつ不明確なこと。その中で参考になるのは、8月末開幕の全米オープンが打ち出したコロナ対策だ。

無観客はもちろん、予選、ミックスダブルス、ジュニアの部は中止。審判と球拾いの人数も制限する。当初、「サポートメンバーは各選手1人まで」という決まりだったが、ジョコビッチらトップ選手が「厳しすぎる」と難色を示したこともあり、3人以上も可能になった。

宿泊は原則として試合会場近くのオフィシャルホテル。ホテル到着後、すぐに感染の有無に関する検査を行い、その後も最低週に1回検査する。外出が許されるのは会場とホテルの往復だけ。だが、人の目を盗んでマンハッタンに出かけるのを止める強制力はない。「自分、家族、同業者(の健康)に対して責任がある。プロアスリートを信頼している」(トーナメントディレクターのステーシー・アラスターさん)と、お願いベースだ。

この対策を「厳しい」という選手はいないが、不安を打ち消すものでもない。ツアー再開後の日程は8月のマスターズ大会から全仏オープンまで、トップ選手に出場義務がある大会が詰まっていて、移動も多くなる。昨季、全米と全仏を制したラファエル・ナダル(スペイン)は出場したいだろうが、超人でもない限り不可能な日程だ。内山靖崇(積水化学)は「正直、ツアー再開は早いと思う」と言う。

米国ではニューヨーク州で感染が沈静化する一方、過去最多ペースで感染者が増えている州もある。欧州連合(EU)は米国からの渡航をまだ禁止。米国に居住していない選手には、渡米に不安を抱く選手が多い。

西岡良仁(ミキハウス)もその一人。「米国選手と話していると皆『やりたい』というけれど。僕は米国に行ったら、感染を覚悟しないといけないと思っている。無症状でも検査で陽性だったら、大会に出るなとなる。分からないことが多い中、明確な方向性が示せていないのに、『大会をやりたいからやる』というのはどうなのか」

「米国に行ったら感染を覚悟しないといけないと思っている」と語る西岡

「米国に行ったら感染を覚悟しないといけないと思っている」と語る西岡

不安が拭えなくても、ランキングポイントが付与されるのであれば、上位でよほど余裕のある者でない限り、選手は試合に出ようとする。

内山は「全米は出る。(予選から出る必要もある欧州の)クレーコートは決めていないけれど」。資金力のある四大大会は感染予防、病院での治療など、手厚いコロナ対策をとることができるだろう。だが、ATPの通常の大会になるとどうか。西岡は「細かいところが見えない。それでも出る予定ですけどね」と話す。

旧ユーゴの国々はトップ選手を輩出しながら、ツアー大会はクロアチアでの1大会だけ。母国のファンの前でプレーする機会がほとんどない。ジョコビッチがアドリア・ツアーを企画した理由の一つだ。「意図は良かったのだけれど、大会を急ぎすぎたことがミスだった。ノバクは『とても申し訳ない』と言っていたし、学んだと思うよ」とATP選手会委員のバセク・ポシュピシル(カナダ)。

今、ジョコビッチは猛烈な非難の嵐の中だが、これがエキシビションだったのは不幸中の幸いか。今後のツアー再開に向けて教訓にしてほしい。

(原真子)

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