DeNA・平良、常識破りの外角オンリー投球
編集委員 篠山正幸
何かに徹することの大切さを教えてくれるのが、7年目の今季、初めて開幕ローテーション入りして、安定した投球をみせているDeNA・平良拳太郎(24)だ。右打者を徹底した外角攻めで抑える技巧は「強打者は内角を攻めないと抑えられない」という"常識"を破る力を秘めている。

何とも不思議な投球だった。6月21日、広島との開幕3戦目(横浜スタジアム)に先発した平良は6回を投げ、広島打線を内野ゴロの間に走者が帰った1点に抑えた。面白いのはその中身。右打者に対して、ほとんど内角を攻めなかったのだ。
初回、4番の鈴木誠也に四球を与えたときのボール球が、唯一、内角の厳しいコースだったが、あれではおそらく見せ球ほどの効果もなかったのではないか。強打者を抑えるには必須、といわれる内角球を使わずに、なぜ抑えられたのか。
■シンカーとスライダーが生命線
アレックス・ラミレス監督に問うと「彼は自分の長所、短所を知っている。内角球も投げられないことはないんだろうが、自分の持ち味は(右打者の)真ん中から外寄りだとわきまえているんだ」とのことだった。
極端にいえば、ストライクゾーンの半分しか使わず、外角球の微妙な出し入れだけで、抑えてしまったのだから恐れ入る。「内角は突いてこない」と思えば、広島打線はいくらでも踏み込めたはずなのに、今や日本代表の4番となった鈴木誠すら、探りを入れるようなスイングに終始した。
技術的にはどの球種も同じフォームで投げ、同じ軌道に球を乗せながら、打者の手元で様々な動きをさせるところに秘密があるらしい。
シンカーとともに生命線となっているスライダーは小さく動かしたり、曲がりの幅を大きくしたりしている、という。ボールの握りも変えているそうだ。
そうした作業を、マウンドにあがってから打者の反応をみつつ、微調整していくのだという。
本人はこう話す。
「インコースも投げないといけないが、僕の投球スタイルからしてバッターは外角球、スライダーを待っていると思う。そこで真ん中から落としたり、予想していない球を投げたりすると、ゴロアウトがとれる」
打者が狙っているところに投げながら、実はそれは釣り餌。打者からみて、逃げてボールになると思ったスライダーが実は真っすぐきてストライクになったり、抜けて真ん中に来たと思った球が、実はシンカーで沈んだり。なんともとらえどころがない感じのようだ。
ストライクゾーンの半分でありながら、そこには平良ならではの無限の空間が広がっているのだ。

もちろん、一歩間違えると痛打を食らう危険もある。今季2度目の登板となった6月28日の阪神戦、4番のジェフリー・マルテに外角球の出し入れで勝負を挑んだが、踏み込まれて右翼線の二塁打を喫した。
相手打線と波長が合ったときは危ない。その紙一重の勝負が、平良の投球にハラハラドキドキのエンターテインメント性を加えている。なんともしたたかで、図太い投球ではないか。
さて、マルテに打たれたあと。ジャスティン・ボーアは歩かせ、1死一、二塁。迎えたのは前日、山崎康晃から九回に逆転3ランを放っていた右打者のジェリー・サンズだ。この難敵に対しても、平良は外角中心の配球を変えず、最後は見逃し三振。ピンチを切り抜けた。
捕手、戸柱恭孝のリードもよかったのだろう。ただ、自分はこれで勝負する、という本人の意思の力なくして、あの投球はできないはずだ。
そこにラミレス監督がいう「自分を知る」ことの強さがある。
平良は5日のヤクルト戦でも打者を手玉に取り、7回無失点。今季2勝目(無敗)で、防御率0.95はリーグトップに浮上した。
■プロ生活6年で与死球わずか1個
左打者には当然ながら、膝元のスライダーも多くなり、内角も使っているが、この投球なら死球は少ないはず。記録をみると昨年まで154回3分の2を投げて、死球は2017年に与えた1個のみ。今年も3度の登板、計20イニングで0個で、生涯与死球1個の記録は続いている。
通算投球回数としては年間フル回転する先発投手の1年分といったところで、データとしては弱い。ただ、今季先発起用され、平良と同程度の投球キャリアを持つ投手でみると、巨人・桜井俊貴が139回3分の2で死球7個、広島・床田寛樹が157回で同5個、ロッテ・種市篤暉が155回で同3個(記録はいずれも昨季まで)。平良はやはり少ない方かもしれない。
内角球で散々脅しをかけながら、抑えていく投手もいる。しかし、ぶつける危険を犯さずに抑えることができたら、それに越したことはない。通算1857回3分の1で与死球23個、9試合で1個しか死球を与えなかった江川卓投手(巨人)は厳しい内角攻めをしなくても、抑えられた投手だった。
平良もまた、ぶつけずに抑えられる品格を備えた投手の系譜に連なる可能性がある。
外角勝負のみで、ずっといけるかどうかはわからない。だが、「自分はこれで生きる」という一芸を見つけられずに去って行く選手が少なくないことを思うと、昨年までのプロ生活6年で11勝の平良は今、成功の扉の手前まで来たように思える。
多芸は一芸から始まる。その好例がある。ヤクルトで2000安打を記録した宮本慎也選手がプロ入りしたときはもっぱら守備の人だった。だが、その守備はとびっきりで、それだけで食える技術があった。これだけは負けないという足場があったおかげで、じっくり打撃を磨くことができた。まず一芸。すべてはそこからだ。