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解説・実況も連係プレー よりよいプロ野球中継へ

無観客試合は色々とイレギュラーなことが起きるものだ。6月21日に神宮球場で行われたヤクルト―中日戦で、バックネット裏でラジオの実況アナウンサーが「(捕手が)インコースに構えた」と発した声がグラウンドに届いたと話題になった。歓声やトランペットの音がないことで打球音や捕球音がよく聞こえる中、実況の声までもがよく響くのは盲点だったろう。

この試合で私は、テレビ愛知の解説の仕事で現場にいた。くだんのアナウンサーが実況していたのは我々の隣の放送ブース。振り返ると「声が大きいな」と感じたことが何度かあったが、こちらも試合に集中しているので、何を話しているかまでは分からなかった。

6月21日のヤクルト戦、先制2ランの京田(右から2人目)らを拍手で迎える中日・与田監督。この試合で与田監督はネット裏の実況の声がグラウンドに聞こえると声をあげた=共同

解説者はそばにあるモニターも見ながら話すが、実況アナウンサーは画面はほとんど見ず、グラウンドだけを見て話す人が多い。もともと声が通る上に顔を上げてしゃべるから、声はきっちり前に飛ぶ。リスナーが試合展開を知る唯一の手掛かりが実況の声とあって、力を込めて戦況を伝えようとして生まれた珍事だった。

ベテランアナならではの臨機応変さ

経験上、ラジオの野球中継はバリエーションが多いと感じる。以前、ニッポン放送の解説で試合とは直接関連がない話をしだした際、実況の深沢弘アナウンサーが面白がって聞き、どんどん広げていってくれた。その間、ボールカウントなど戦況の説明はなし。さんざん話した末、最後に一言、「バッター、センターフライでワンアウトです」。1球ごとに状況を説明するラジオ実況のセオリーを度外視し、私の話を広げる方が面白いと判断したのはその道のベテランのなせる業だろう。

同じニッポン放送で松本秀夫アナウンサーと組んだ時のこと。私があるチームの三塁コーチをじっと見ていると、盗塁のサインを見抜くことができた。「次、走りそうですよ」。実際に走者がスタートを切り、打者はファウル。「次は走らないですね」。走者はスタートしない。松本アナは「なんで当たるのか」と思ったようで、「次、どうですか」と聞いてきた。リスナーの関心が「走るか、走らないか」に移ったところを捉えて、話を掘り下げる。簡単なようでなかなかできないことだ。

若いアナウンサーだと、2人のように臨機応変に対応するのは難しいだろう。試合のあらゆる要素を伝えねばと、機関銃のようにしゃべりまくる人がいる。ラジオを聞いている人からすると、戦況はよく分かる半面、状況説明ばかりで何が試合のポイントかが分かりづらい。そういうとき、私はアナウンサーに「1秒でいいから間をつくってくれよ」と伝える。言葉と言葉の間に1秒でも空白をつくってくれたら、そこが解説者の出番。打者心理や投手心理の説明をぽんと入れることで、中継にぐっと深みが出る。

「1秒の空白」で示す野球の見方

では、その1秒に何を話すのか。よく「次はスライダーでしょうね」などと配球を予測し、違う球が来ると「解説が外れた」となる。予測通りでなかったという点では「外れ」なのだろうが、間違いだったとまではいえない。打線の並びや継投の順番についての考え方は監督によって十人十色で、解説者を含め人の数だけ野球観があるもの。正解があるようでないのが野球だ。

私は、例えば阪神の攻撃時に「矢野(燿大)監督はたぶんしないですけど、こんな作戦を採ると面白いと思います」などと話す。こういう言い方をすることで、矢野監督と私、2通りの野球の見方をファンに示すことができる。解説者の予測が現実のものになるかどうかではなく、色々な予測が指標として成り立ちうることを理解すると、また違った楽しさが出てくるはずだ。

「1秒の空白」以外でも、実況と解説がうまくかみ合わないことはある。それはいいとして、問題は放送後に反省会ができる雰囲気があるかどうかだ。「きょうの実況はまずかったな」という思いを持ったまま帰るのか、その日のうちに課題を出し合ってから締めるのか。

プロ野球公式戦が開幕した6月19日、東京・神田の居酒屋でテレビ観戦するファン。解説と実況がかみ合えばファンもより楽しめるはずだ=共同

テレビと違ってラジオはそんなに予算がないので、しばしば私の方から「めし食いにいくか」とスタッフに声を掛ける。放送ブースから店に場所を移しての会合は、反省会とは名ばかりの飲み会ではなく、まさにその日を省みる場だ。中継の質が上がればと色々なことを言わせてもらっている。

よく中継でアナウンサーからの質問に答えている最中、当のアナウンサーが解説者そっちのけでディレクターと別の話をしていることがある。進行上、大事な話なのだろうが、質問しておいてそれはないだろうというのが正直なところ。そういうときはその場で「あれはやりづらいよ」と注意する。

以前、関西テレビで「週刊!田尾スポ」という番組をやらせてもらっていたときは放送後に毎回、反省会をした。梅田淳アナウンサーがスタッフに「きょうのあれ、あかんで」などと遠慮なしに言うこともあり、若いディレクターたちには気分のいいものではなかったかもしれない。ただ、スタッフが課題に気付き、改善策を探ることが巡り巡って視聴者のためになることを思えば、苦言もプラスになっていたのではないかと考えている。

会社の上司より、私のような外の人間からのアドバイスの方が腹に落ちる側面もあるはず。もっとも今はひところと違って、部下に嫌われたくないからか、がつんと言える上司や先輩が減ったと感じる。そのときは「口うるさいやつだな」と思われても、シチュエーションや口調に気をつけつつ、言うべきことを言う姿勢は大事。解説者と実況者の関係に限らず、臆せずにものを言える関係性が連係プレーの肝だろう。

(野球評論家)

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