「人間の闇」描く児童文学(書評)
「『ひげよ、さらば』の作家 上野瞭を読む」

関西タイムライン
2020/7/3 2:00
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上野瞭を読む会編著 創元社 2000円(税別)

上野瞭を読む会編著 創元社 2000円(税別)

出身地である京都を拠点に活躍した児童文学者、上野瞭(1928~2002年)。代表作「ひげよ、さらば」はNHKの連続人形劇として放映されるなど広く親しまれた。本書では上野の主要作品を児童文学研究者の5人が網羅的に紹介し、読み解いていく。

上野の作家性は明確だ。国家と個人の関係、格差や差別といった重厚なテーマ。「人間の闇への照射」を目指した文学観。登場人物をあえて「記号的」な「物語の駒」として動かすことで「人間を描くのでなく、状況を主人公にする」語り口は特に初期作に共通する特徴だ。

登場人物への感情移入を重視するキャラクター志向や希望的な物語など、多くの児童向けフィクションに共通する傾向と並べると、上野作品との違いは何か。本書の編著者5人はそうした時流と対照的な上野の物語があまり読まれなくなっている現状を踏まえつつ、今だからこそ読まれるべきその魅力を提示する。

例えば編著者が随一の傑作との見方で一致する「目こぼし歌こぼし」。父のあだ討ちを命じられた若い侍が様々な謎に立ち向かう冒険譚(たん)の構造を借りて、日本の歴史や社会の仕組みが描かれる。

身分制度によって被支配者同士を争わせる分断統治の仕組みと暴力。罪と汚れの思想、身分制度と天皇制。ハラハラドキドキ読み進めるうちに、庶民たちも知らず知らずに加担している差別問題の根深さを読み取ることができる物語だ。

他の作品も社会の安定を名目に犠牲を強いられる貧者や女性の存在が描かれており、現実社会のシビアな状況が多層的に編み込まれた上野の物語の力に目を見張るほかない。惜しくも忘れられつつある作家に現代の視点から光を当てた価値ある一冊だ。(佐藤洋輔)

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