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コロナで加速 毛皮大国オランダ、ミンク産業の終幕

NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、オランダのミンク産業の終わりが早まっている。同国で毛皮用に飼育されているミンクの感染率が上昇していること、ミンク農場の従業員2人がミンクから感染した可能性があることを受け、オランダ政府はミンク産業を2024年に終了するという既存の計画を早めそうだ。というのも、オランダ議会は20年6月23日に、ミンクの飼育を即時停止し、ミンク農場の損失を補償する法案を可決しているからだ。

計画前倒しの具体的なスケジュール、さらに農場への補償額も決まっていないが、動物保護団体は「ミンク産業は20年にはなくなるだろう」と予測する。ベルギー、ブリュッセルに拠点を置く毛皮動物農場、毛皮メーカーの業界団体「ファー・ヨーロッパ」は、新型コロナウイルスの拡大を抑制するため、6月5日以降、オランダで飼育されていたミンク80万匹のうち60万匹近くが一酸化炭素ガスで殺処分されたとしている。

動物保護団体「ヒューメイン・ソサエティー・インターナショナル」によれば、ミンクの毛皮生産が盛んな国のトップ3は、中国、デンマーク、ポーランドで、オランダはこれに次ぐ世界4位だ。オランダ政府は13年、動物福祉に関する懸念に応じる形で、100億円を超える規模の毛皮産業を支えている、100以上のミンク農場の閉鎖を投票で可決した。ただし、ミンク農場は、廃業までの猶予を24年1月1日まで与えられている。

毛皮が目的となる動物は、小さな金網のおりで飼育されることが多く、数千匹がすし詰めのような状態となる。環境保護団体は長年、非人道的な産業だと非難してきた。道徳的、倫理的な理由での反対も多い。毛皮は必需品ではなく、ぜいたく品だというのがその理由だ。

欧州では2000年以降、確認しただけでも8カ国が毛皮動物飼育の禁止に踏み切っている。そして、今回のパンデミック(世界的な大流行)をきっかけに、公衆衛生の見地からも毛皮産業への懸念が高まっている。

オランダのエスター・アウエハント議員は今回の法案通過に「非常に大きな前進です。毛皮のために動物を殺す行為がついに、オランダからなくなろうとしています」と声明を発表した。「ミンク産業は道徳的に非難すべきことですが、さらに公衆衛生上の脅威もあるからです。もうミンク産業を擁護する余地はありません」

ミンク農場を襲った新型コロナウイルス

新型コロナウイルスにミンクが感染したとの報告が初めてあったのは20年4月で、オランダの2つのミンク農場だった。その後、オランダ政府が検査を実施し、15の農場で感染が確認された。さらに、政府主導の調査で、動物から人への感染が初めて起きたことを示唆する結果が出た。

デンマークでも、2つのミンク農場で新型コロナウイルス感染が発覚。1つの農場では、1万1000匹が殺処分され、他の農場で感染の有無を確かめるべく、検体を採取する計画が発表された。ちなみに、デンマークには1500のミンク農場があり、約1900万匹が飼育されている。オランダとは異なり、デンマークではミンク産業の廃止を目指す法案は可決していない。ちなみに、キツネの毛皮の市場は09年から段階的に閉鎖することが決まっていて、23年には完了する予定だ。

オランダやデンマーク以外のミンク生産国に目を転じると、殺処分の計画も段階的縮小の計画も今のところ発表がない。ファー・ヨーロッパの広報担当者ミック・マドセン氏は、ミンクが新型コロナウイルスを広めているわけではないと主張している。「(オランダとデンマーク以外では)バイオセキュリティー対策が機能しています。ミンク農場に新型コロナウイルス拡大の責任はありません。ウイルスを広めているのは人間のほうですから」

毛皮産業は段階的に廃止へ

ところで、オランダでは、法案の成立には、議会を通過した後、国王と関係大臣または副大臣の署名が必要になる。ファー・ヨーロッパのマドセン氏は「ミンク農場の同意は、法律の成立に不可欠だろう」と述べている。「農場主に提示される補償額がポイントになります」と述べる。

一方、ヒューメイン・ソサエティー・インターナショナルは、法案は議会を通ったので、今後は、農場所有者へのコロナ禍に対する経済面での補償、ミンク農場の閉鎖などに、具体的な進展が見られるだろうとコメントしている。

オランダでは、パンデミックの影響を受けたミンク農場への国の支援は、政治的な議論へと発展した。先に触れた、オランダ政府が13年に決定した24年までのミンク産業廃止の法案には、農場への経済的補償は含まれていなかったからだ。パンデミックだからという理由で農場を支援するとなると、ある議員の表現を借りれば「非倫理的な産業」を税金で支援することになるため、オランダ議会では論争が繰り広げられたのだ。

近年、欧州では動物福祉に関する懸念から、毛皮産業の廃止に踏み切る国が増えている。オーストリア、ベルギー、ルクセンブルク、スロベニア、クロアチア、チェコ、スロバキア、英国は毛皮動物農場を禁止し、アイルランドは毛皮生産を禁止する法律をつくろうとしている。ブルガリアとリトアニアでも最近、毛皮動物の飼育を停止するための法案が提出された。

ヒューメイン・ソサエティー・インターナショナルのファッション政策ディレクター、P・J・スミス氏は、ドイツでは毛皮動物の飼育は禁止されていないが、動物福祉に関する厳格な条件が導入され、事実上、毛皮産業は採算面で折り合わず、存続不能になったと説明している。実際に、ドイツに残っていた毛皮動物農場のほとんどは、19年に閉鎖を余儀なくされた。

毛皮動物の飼育に反対する動きは「欧州連合(EU)以外の国にも広まっている」とスミス氏は話す。「ノルウェーやセルビア、北マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴビナも毛皮生産を禁止しています」。オランダのミンク産業が停止すれば、400万の毛皮が市場から姿を消すことになる。

(文 DINA FINE MARON、訳 米井香織、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年6月30日付]

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