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量産機になるな キャリアの競争力を高める読書法とは

第1回 あるコンサルタントのキャリア戦略

『戦略読書〔増補版〕』を刊行した三谷宏治氏

ちょっとだけオリジナルで、しなやかなキャリアを歩むために

学校法人・専門学校のHAL(ハル)は2015年春、生徒自身が製作した動画を公開しました。近未来の都市における、生死を賭けたモビルスーツの市街戦です。

メッセージは "量産機になるな。"(HAL 2015 PROJECT HAL OP MOVIE=https://youtu.be/ZX86j0w9sFw)

動画内では、ちょっと格好いい試作機(プロトタイプ)が、ちょっと地味な量産機を、次々に倒していくのですが、ネットでは「量産機なめんな!」「俺たちはジムだ。文句あるのか」という謎の炎上が起こりました(ジムは量産機の名称)

でもちょっと待ってください。この試作機はガンダム(やジオング)のような「超高機能ワンオフ(専用品)もの」ではありません。「量産機改造型 試作機」(上記ムービーの0:20画像参照)なのです。

われわれはみな、孤高の存在=天才ではありません。その意味では量産機に過ぎません。安価で丈夫で扱いやすくて取り替え自由が取りえです。でも、それだけじゃ人生ツマラナイ。もしそう思うなら、自らにちょっと改造を施して、少し特別な「量産機改造型 試作機」になろうよ、ということなのです。

瀧本哲史著『僕は君たちに武器を配りたい』(2011、講談社)

瀧本哲史は『僕は君たちに武器を配りたい』(2011)で、人材のコモディティ化について論じ、6つの「スペシャリティ」(差別化された存在)を定義しました。

(1)トレーダー(営業)、(2)エキスパート(専門家)、(3)マーケター、(4)イノベーター(起業家)、(5)リーダー、(6)インベスター(投資家)

そしてこれからの世の中では、(1)(2)はダメで、(3)~(6)だ、特に「業界の裏を読める人」である(6)の力を持て、と主張しました。

まあ、みんながそこまですごくなくても大丈夫です。この6つの他にもスペシャリティはいろいろありますし、特に人間相手のサービス業では、人の存在価値は変わらず大きいでしょう。成功した(4)(5)の下で、しっかり働く人材も必須です。

でももちろん、誰とでも取り替え可能な大量に存在するコモディティ人材になってしまっては、話になりません。自分をこれまでより少しだけ、取り替え困難で、少数しか存在しない価値ある存在にしていくことが、必要です。つまりそれは、自身をオリジナリティある、時間効率の高い人間に高めていくということなのです。

それがきっと、みなさんの楽しい人生、変化に強く競争力あるキャリアにつながります。

この10回連載はキャリアとその構築方法について、読書を中心に論ずるものです。といっても私はキャリア論の専門家でもプロの書評家でもありません。でもちょっとだけ戦略(ストラテジー)には自信があります。ゆえに以下は、極めて個人的経験から来た、戦略的なキャリア論であり読書論なのです。

特に中心として紹介する「戦略読書」は、自らをコモディティにしないための、(個人的経験に基づく)戦略的な読書法と言えるでしょう。

「何を」「いつ」「どう」読むかの工夫によって、自身のオリジナリティを育て、維持することができます。情報収集や知識会得の時間効率が上がります。そしてそれは、この「複雑で困難に満ちた」世の中が、新しいものに見える視点や視座、視力をみなさんにきっと与えることでしょう。

みんなと同じ本を読んでいたら、同じことを言うように…

自分が読書(何をどう読むか)に大きく影響を受けている、と初めて気がついたのは、社会人2年目の頃でした。

それまで、SFにせよ新聞(中1から2紙を毎日読んでいる)にせよ『竜馬がゆく』にせよ、読んでいたのはただ「楽しいから」でした。私にとって読書とはほぼ純粋にエンターテインメントであり、テレビと変わらない存在でした。結果として「国語が超得意な理系学生」にはなっていましたが、それだけ(本好きだと読解力が上がる)のことだと思っていました。

でも違いました。

ある日職場(ボストン コンサルティング グループ=BCG)で、初めて人と意見が被りました。「○○って××だよね」と、同僚と同時に口に出してしまったのです。その内容までは(あまりに昔過ぎて)覚えていませんが、まあ、実に凡庸でありきたりな意見で、それが2重のショックでした。

「他人と同じこと」で「ツマラナイこと」しか言えない経営コンサルタントなんて、存在意義はありません。いや、それ以前に、私自身、ただただ恥ずかしく悲しく感じました。「面白い視点でものを言う」ことこそが価値(それで採用もされたらしい)だったのに、そんなツマラヌ存在になってしまったのかと。

振り返ってみて、そうなった理由は簡単でした。その前の1年半、人と同じものをずっと読み続けていたためでした。

社会人経験もなくMBAも持たない学卒若手コンサルタントが、その弱点を埋めるために必死で本を読みました。城山三郎らのサラリーマン小説を100冊、そして、ビジネス基礎本を100冊以上。雑誌も「日経ビジネス」やらのビジネス系ばかりを月何冊も。

そんな生活を1年半続けていたら、すっかりそれに染まって、人と同じ反応をする凡庸なコンサルタントができあがっていた、というわけです。人の体が食べるものからできているように、人(の精神)は読むものからできているのだ、と理解しました。

大人の読書には、戦略が必要です

それからすぐに、楽しむだけの読書、ビジネスのためだけの読書から、自分の独自性をつくり上げるための読書にシフトさせました。

楽しむことを止めたわけではありません。ビジネス知識の吸収を止めたわけでもありません。でも、自分を自分であり続けるさせるために、単なる折衷でも平均でもない、独自のバランスや読み方が必要でした。それが、後述する「読書ポートフォリオ・マネジメント(RPM)」であり、「ワリキリ読書」であり、「5つの視点での読書」でした。本棚や書斎の持ち方、にもこだわりました。

それらは決して一度にできたわけではありません。私自身が社会人になってからの30年間、試行錯誤しながら編み上げてきた「戦略的な読書法」なのです。

経営コンサルタントとして、立派な大人になるって存外難しいことでした。

実際に経験していないことでも、知識を得て現場や当事者の心を想像し、それへの問題点指摘や独自の解決策の立案が必要でした。クライアントからは大きなコトから小さなコトまで何でも質問されるので、常に独自のしゃれた見解を持っていることを期待されていました。

思いっきり背伸びをしていたので、いつも相手は、自分の10歳も20歳も上の人たちでした。その人たちに「こいつ意外とやるな」と思ってもらわないと、まったく仕事になりません。それを数カ月ごとに、初めて触れる業界・初めての人たち相手に、やり続けないといけませんでした。

そのための私の最初の武器が「読書」でした。読書がどうヒトをつくるのかを感じ、考え、自らをもって実践し続けてきました。今回上梓(じょうし)した『戦略読書〔増補版〕』は、その個人的物語(ストーリー)であり、そのノウハウの集大成です。私流の「戦略読書」を、ぜひ楽しみながら、味わってみてください。

連載の流れ

次回からはキャリア論と読書法、本紹介を織り交ぜながら書いていきます。

連載が終わる5カ月後、世界はどう変わっているでしょう。そして読者の皆さんは、どう自身の「キャリア」と「読書」に向き合っているでしょうか。

 三谷宏治
 KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授。
 1964年大阪生まれ、福井育ち。東京大学理学部物理学科卒業後、BCG、アクセンチュアで19年半経営戦略コンサルタントとして活躍。92年INSEADでMBA修了。2006年から教育分野に活動の舞台を移し、年間1万人以上に授業・講演。無類の本好きとして知られる。著書に『経営戦略全史』『ビジネスモデル全史』『新しい経営学』など。『お手伝い至上主義!』『戦略子育て』など戦略視点での家庭教育書も。早稲田大学ビジネススクール・女子栄養大学で客員教授、放課後NPOアフタースクール・認定NPO 3keysで理事を務める。永平寺ふるさと大使、3人娘の父。

戦略読書 〔増補版〕 (日経ビジネス人文庫)

著者 : 三谷 宏治
出版 : 日本経済新聞出版
価格 : 1,100円 (税込み)

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